18日目
「待てええええっ!」
アリアの叫び声が響く。脳に直接届く声だった。これも呪術の一つなのだろうか。
僕とテナーは今、何とかぬいぐるみ部屋のドアをこじ開けて、薄暗い廊下を走っている。
テナーは運動音痴であまり走れない僕を気遣って、おんぶしてくれている。
「ありが、とう……」
「いえいえ。アルくんのためなら、これくらい容易いですよ」
少しはいいやつかもしれないと、僕は思った。けれど、テナーは何かを隠している。
人間は誰でも知られたくない一面がある。僕もそうだ。
だから、人間という生き物はそれを隠して必死に生きている。
たとえそれが、どんな秘密や性格だったとしても。
「……くん。アルくん?」
「あ、ごめ……ん。考え事、してた……」
僕としたことが、考え事に没頭して今の状況を把握していなかった。次からは気をつけないと。
「誰でも考えに没頭することはありますよね。でも……」
「これはちょっと、ヤバイですよ……」
テナーが走るのをやめたかと思うと、急にテナーの力が抜けて倒れてしまった。
「ど、どうした、の……!?」
僕は慎重に避けて、テナーに近づく。見ると、彼に大量の冷や汗と荒い息。
走っただけでこんな症状になるのはあり得ない。
「だとしたら……」
僕が振り向いた瞬間。僕の足元に魔法陣が出現し、小さなナイフが僕を攻撃する。
殺傷力はかなり高く、足を動かそうとしても動けないほどだった。
「あはははっ! わたしとしたことが、外れてしまったわねぇ……?」
十二歳の子供とは思えないほどの嫉妬心と憎悪。そして、執着心があった。
どんな人生を歩んできたら、こんな歪んだ性格になるんだろうと考えていたら、再びアリアは魔法陣を展開する。
「さぁ、にぃさま。今度こそ逃がしはしないわぁ……」
今度は大きい。こんなのに当たってしまったら、確実に死んでしまう。
考えるよりも先に、手が動いた。
僕はリュックの奥底に詰めていた物を取りだし、それをアリアに向けた。
「なっ……。それは!」
「……さようなら、アリア」
僕は銃の引き金を引く。そして、死んだ目の笑顔でアリアの心臓と頭を撃ち抜いた。
床には真っ赤に染まった何かが、じわじわと広がっていく。
僕はそれを、ただぼんやりと眺めていた。




