11日目
僕が目覚めた時には、ぬいぐるみだらけの部屋にいた。
真っ暗な部屋で、今でも動き出しそうなくらいに。
起き上がろうとすると、身体中に痛みがほとばしる。
なぜか首が上手く動かなかったので、目で追って見る。
すると、僕の黒い長袖パーカーは脱ぎ捨てられた状態で、僕はタンクトップ一枚とズボンだけになっていた。
そしてこの身体中に走る独特の痛みは、ボディステッチによるものだろう。
ボディステッチは、腕や足に糸を縫う行為だ。文字や、見るだけでも痛くなってくる。
色々なことを考えていると、ゴスロリ姿の女の子が駆け寄ってきた。
「アルトにぃさま……! 目覚めたのね!」
「だ、誰……!?」
黒い髪の女の子は、僕が起き上がった途端すぐに抱きついた。
女の子の力はかなり強く、油断すれば窒息しそうだ。
「あぁ、なんてかわいそうなにぃさま……。ショックで記憶が抜け落ちたのね」
黒い髪の女の子は、赤い瞳で哀れんだように僕を見つめる。
「え、あの……」
僕は言葉に迷う。何より、こんな小さな子供に心配されることが、申し訳なかった。
「うん、そう……なんだ。ごめん……」
「じゃあ、自己紹介をしましょう。わたしはアリア・セレナーデ。アルトにぃさまの恋人で、婚約者よ」
うっとりとした笑顔で、アリアは僕に告げた。
「うん……。うん……? え、は……? えっ……?」
この子が婚約者? アリアが? 意味がよく分からない。頭のなかがぐるぐると回る。
そんな僕を微笑ましいと思っているのか、アリアは僕に微笑みを向ける。
「うぅ……。違う、そうじゃ……ない……」
日記の新しいページには、赤く丸っこい字で『I love you』とハート付きで描かれていた。




