飴
「あなた、もう朝よ。あの人間との約束に遅れてしまうわ」
「なんだ? もう朝か?」
寝ぼけているのだろうか、昨日別々の部屋に眠っていたのにミュウがなぜか私の目の前にいる。私は寝る前に鍵を閉めたはずなのだが。そうかこれは夢だ、そうに違いない。
「ええ、早く起きて。もう! 布団をかぶりなおさない!」
そう言うとミュウは私から布団をはがす。むう、これでは二度寝が出来ないではないか。
「二度寝なんてしたら本当に間に合わないわよ」
ミュウが言っていることはもっともだ、起きるか。それにしても、
「最近ミュウに思考が読まれている気がするのだが……」
すると、ミュウはどこか生意気そうな表情をする。
「フフーン。嫁度が高くなると旦那の思考を読むのなんて造作もないことよ!」
バッと左手を私の方へと向ける。何なのだろうかこのカワイイ中二病は。
それだと世の男性は浮気なんてできたもんじゃないな」
「もしあなたが浮気なんかしたらちょん切っちゃうわ」
そう言いながら指をピースの形にして何度も人差し指と中指を挟んで開いてを繰り返す。男としては全然平和じゃないな。
「夫の浮気を許すのが出来た妻だ、じゃなかったか? もちろん私はそうとは思わないが」
昨日そう言った目の前の女性は何も言わず挟んで開いてを繰り返す。よく見てみるとだんだんとその速度は速くなっているようだった。
「怖い仕草をするな、もう下に向かおう」
久しぶりの外出で舞い上がっているのか? いつもより気分が高揚しているように見える。
そんなことを思いながら私達は部屋を出た。ちなみに鍵は昨日別れる前にポケットから抜かれていた。手癖がわるいバンパイアだ。
私達が宿で食事を済ませ、昨日夕飯を食べた食堂に着くとそこにはすでに騎士が立っていた。
「おはよう」
「お、おはようございます!」
「昨日はかなり飲んでいたがよく眠れ……なかったみたいだな」
酒を飲んだ日は人によってだがあまり眠れない者もいるからなと思って聞いたのだが、どうやら彼もそうらしかった。
「とりあえず自己紹介でも行うとするとするか」
「は、はい!」
彼は見るからに緊張しているようであった。私が何かしただろうか?
「一二三 太郎だ、以前は冒険者として魔物を狩ったりしていたが今では片田舎で住民の悩みなんかを聞いたり、農作物を作ったりして暮らしている」
そう言い終わると私は腕に抱き着いているミュウを指し
「彼女はミュウと言って私のまあなんだ、じょしゅ「妻よ、人間」……ハア、助手兼相棒だ。以後よろしくな」
「はい! 俺はハンス ロバーツです! この度、国王直々の命により二人の護衛を任されました!」
どうやら王は最弱の騎士を私が求めたことを言ってはいないようだな、都合がいい。
「まあなんだ、あまり緊張されるとこちらも困ってしまうのだが」
「こ、これは失礼しました! 恥ずかしながら憧れの冒険者と会えると思うと緊張してしまって」
「憧れ? 私がか?」
なんだか恥ずかしいな、日本では憧れどころか尊敬すらされたことなどないのだから。
「はい! 邪悪なドラゴンを倒して『Ⅾ』の称号を手に入れた五十年ぶりの冒険者! 俺のような冒険者上がりには憧れっスよ!」
そうか、私はドラゴンを狩った後、ほとんど冒険者として仕事をしていなかったので知らなかった。
しかしまあ、悪い気はしないな。
「昔の話だ、それより国王から話は言っているのだろう?」
「はい! 王城までの護衛をして来いと言われました」
「話が早くて助かる。王城まで二時間足らずと短い間だがよろしく頼むよ」
「はい! よろしくっす!」
何処か高校生ぐらいの後輩のような話し方をする奴だな。
そんなことを思いながら私は王城へと歩き出したハンスの横に並んでビジネスバックから自作した飴を取り出し、口に含む。すると口の中に砂糖特有の強烈な甘みが口に広がる。
砂糖と水だけで出来た簡単なものではあるが、なるほど結構おいしいではないか。
「それは何っすか?」
「べっこう飴って言う甘い砂糖菓子だ。食べてみるか?」
私はそう言って飴を一つ差し出す。
「あ、ありがとうございます」
ハンスは包み紙を開けるとその茶色く透けた綺麗な見た目に興味がそそられたようで中々口に含もうとしなかった。
「宝石みたいだ、固そうっすね」
「そう、だから噛まないで舐めて食べるのだよ」
そう言うとハンスは飴を口の中に入れる。すると
「甘ッ! ああでも、おいしいっす!」
ハンスの身長は160センチメートルあるかないかという男性にしてみるとかなり小さめであり、体の線も細く、身長が180センチメートルの私の事はおのずと見上げる形となる。
そうしてみるハンスの表情は少年のように輝いていた。いや、もしかしたら本当に少年なのかもしれない。
「ん?」
くいくいっとミュウが裾を掴んで引っ張っている。
「あの、私もほしいのだけど……」
食べ物をねだるという事が少し恥ずかしく思っているようで、頬を少し赤らめて言う。
何だろう、つとめて女性としてみて来ないようにしてきたが、このような仕草はよほど普段のアプローチよりもグッとくるものがあるな。
ほころびそうになる顔を押さえつけて、私は飴を渡す。
笑顔で飴をコロコロと口の中で転がしている姿をみると御年100歳以上だろうとは思えないほどにその姿は少女そのものだった。
少年少女に飴を渡す怪しげな成人男性。日本だったら今の私の姿を見られたら即通報ものだろう。今では小学生に挨拶しただけで事案になる国だからな。
そんなこんなで今は遠きわが母国の未来を憂いながら歩いていると王城に着いた。
さあ仕事だ、そろそろ気持ちを入れ替えねば。
城門の前まで着くと、最初から話が通っていたようですぐに王城の中へと入ることが出来た。中に入ると私はぐるりとあたりを見渡す、するとあることに気づく。
「私が気にすることではない事なのだとは思うのだが、あまりにも警備がざるではないだろうか。もっと騎士とかいるものだと思っていたのだが」
周りを見ても偉そうな格好をしたものや、召使い風の装いをしたものばかりでどう見たって戦闘要因が少ない気がする。これでは万が一城の中にてきが侵入したときは如何するのだろうか。
「ここは大昔に偉大な魔法使いが強力な結界が張ったらしく、10年ほど前にドラゴンが攻撃してきてもビクともしなかったみたいっすよ」
「なるほど、ここで人員を割くよりも他のところで騎士を使う、という事か」
「ええ、その通っす。あと……」
ハンスは言いよどむ。
「国王って大層騎士の事が嫌いらしくて、最低限の騎士以外を身近に置きたくないらしいっすよ」
騎士を嫌っているように見えたのは私の勘違いではなかったという事か。
私達はここまで連れてきてくれたハンスに礼を言って別れ、現在王の前に立っていた。玉座に座る王は今朝見た時よりも何処かやつれているように見える。
その横には今朝見た騎士とは実力が一目で違うことが分かる、中年程の金髪の騎士が立っていた。彼の事はパソコンで王を調べた時にリンクで繋がっていたので知っていた。
確かケイロック・W・なんとかって名前だったと思う。ちらりと写真と名前を見ただけだからうろ覚えだ。
「来たか一二三殿、それで理由は分かったか?」
「ええ」
「おお! 真か!」
王は驚いたように玉座から立ち上がる。
私は肯定するため頷いた。すると
「嘘をつくでない! 私達がどれだけ探しても分からなかったのに貴様のような平民如きがわかるわけもあるまい!」
「ケイロック、客人に対して不敬だぞ。すまない一二三殿」
これは、またまあなんて絵にかいたような貴族騎士だろうか。
平民如きと言われた不快感より貴族制度という物が過去の遺物となった日本では見られないモノを見られた事による優越感が勝って不快に思わないほどだ。
そんなことより私の後ろに立っているミュウが何も言わないのがひどく不気味だった。
「いえ気にしていませんので。ケイロックさん、今回の件は探そうとして見つかるモノではないのですよ」
「ほう」
「探そうとして見つかるものではない? それではどうしてお前は見つけることが出来たのだ!?」
片や面白そうに興味津々という様子で、片や不快感と劣等感によってそんなはずは無いという様子で私の言葉に反応する。
おそらくはミカからは何も情報が得られなかった王は何かしらの手段を使ってあの日何があったか調べさせたのだろう、しかしそれでも分からなかった。
「先ほど言われた様に私は平民、だからこそ分かったのだと思います。平民と貴族では衣服、食事、そして関わる人間のタイプといったものが違い過ぎる。それ故に平民と貴族では考え方に大きな差が生まれるのです」
「ほう、それでは私の息子である一国の王子が平民と同じ考えだと?」
「……ある一点では少なくともそうでしょう」
「なっ! 貴様王子殿下に対して何たることを!」
そう言ってケイロックは自らが持っていた細身の剣を抜刀する。しかし、それを王が手で押さえる。
部下を止める王と、私に対して剣を抜いて王を困らせる騎士。どちらも同じ上流階級であるというのになぜこうも違うのだろうか。私にはとうてい理解が及ばないな。
「直接会って話したいので王子殿下のもとに行ってもよろしいでしょうか?」
「……私たちの前では言えぬ事か?」
「王子殿下はそれを望まないかと思います」
私がそう言うと王は目を閉じ、眉をひそめ悩む。
「うむ、よかろう。ケイロック、一二三殿をトル―トの元に案内しろ」
「……ハッ!」
何とか許可を得ることが出来た。私のことを信じてくれた王のためにも結果を残さなければいけないな。
そんな気持ちを抱いて私達は前を歩くケイロックについていった。
お待たせしてすいません
何とか描き切ることが出来ました。
次の投稿は一週間後を予定しております。
二月十四日 少しだけ加筆修正しました。




