再会、そして出会い
だいぶ長くなってしまいましたがよろしければ楽しんでいって下さい
我が家からドラゴンで一時間、私達は勇者学校近くにある森の入り口に降り立っていた。
この森は勇者になるべく勉学の励む学生たちが実習で使う森なのだが、運よく森には人の気配はなく学生にドラゴンを見せずに済んだ。
「お疲れさま。また帰る時に呼ぶからそれまで何処かで休め」
私はドラゴンの肌を撫でながらねぎらうと嬉しそうに喉を鳴らす。ドラゴンの肌は鱗に覆われており、並みの武器では傷すら付かない、どころか並みの剣では刃こぼれしてしまうほどに分厚く、固い。
ドラゴンは私の思い上がりでなければ満足したように森の奥に向かって行った。
やはり動物はいいな。騎士のせいですさんだ心が潤っていくようだ。
そんなことを思っている私の横でミュウが口を開く。
「これからあの女のところに行くのでしょう?」
「ああ、聞けることは少ないだろうが一応な」
王からは学校側はなにも知らない様であると言っていたが、もし王子がいじめられているのなら学校側が隠している可能性がある。まあその可能性は万に一つもないだろうが。
「私は行かないで、待っているわ」
そう言ってミュウは不機嫌そうな顔をする。
「そうか」
「パソコン借りていいかしら? ネットサーフィングして時間を潰しているわ」
「変なサイト見るなよ」
私はそう言いながらパソコンを手渡す。
「見ないわよ! それにあのことは忘れてって言ったじゃない!」
ミュウにしては珍しく声を荒げ、顔を赤くして抗議してきた。
実は女は思春期の男子高校生がごとく、私の目を盗んでアダルトサイトを見ていた前科があるのだ。ばれたことを知った時のミュウの顔は嗜虐心をそそらされるいい顔が印象的であった。
そんなことを思い出し笑みを浮かべると私はミュウから背を向け、勇者学校へと歩き出した。
「校長に会いに来た」と生徒にいうと、どうしてなのかは分からないが何処かおびえた様子で校長室まで案内され、現在私は校長室の前にいる。
「ミカ、入っていいか?」
私がそういうと扉がひとりでに開く。どうやら入っていいようなので足を踏み入れる。
「やあタロー、久しぶりだね。」
偉そうに椅子に座って欄干に片手を置いてもう片方で自らの長い黒い髪をいじって、眉間を引きつらせながら、無理矢理笑みを作っている様に見えるこの女性の名はブリューゲル・ミシティカ。
彼女こそが栄えある勇者学校校長である。
獣人族である彼女には犬のような尻尾が生えているのだが、椅子からちらりとはみ出した尻尾が表情に反し、上機嫌そうにパタパタと忙しそうに揺れている。
「やあ、ミカ久しぶりだ」
私はその姿を見て思わず苦笑いになってしまう。
「ああ久しぶりだな‼ 人生で初めてできた友人がまた会いに来ると約束してくれたのに二か月も音沙汰なしでどれだけ僕が悲しんだと思っている! 人生で初めて『孤独』という物を知ったよ!」
ミカはニヤニヤした表情を引っ込め、成人女性にしては少し高めであるその声で駄々っ子のように私に怒鳴る。
参ったな、怒ってしまったようだ。何かしら弁解せねば。
「すまない、私も友人が出来るのは初めての経験だったからどのように付き合って良いのかがわからなくてな」
私がそう言うとミカは驚いたような表情をする。
「なんだその顔は、私が友達いるように見えるか?」
「いや、それじゃあ本当に僕が初めての友達?」
何だこいつ喧嘩を売っているのか? そう思って思わず眉間にしわが寄る。
「そうだがなにか?」
「ふーん、そっかー」
そういうとミカは何処か上機嫌になる。俺が友達いないと知って嬉しがっているという事は……そうか、自分以外にもボッチがいて嬉しかったのか。
「ならいいんだよ、許してあげる」
こっちはなにもよくないのだが。なんだか腹が立ったので少しいじめてあげようではないか。
「まあ今度からこんな回りくどいことしなくても遊びに行くようにするから」
「ホントか! ……あっ!」
「こんな簡単なひっかけにつられてしまうあたりミカは本当に愚カワイイな」
「愚カワイイってなんだあ!」
「バカワイイだと芸がないだろう?」
俺はケラケラと笑いながら、椅子に体育座りをしていじけている目の前の少女を見つめる。
要するにこうである。
友人である私と会いたかったミカは王に学校のことを聞かれたときにワザと情報を隠して何もなかったと伝えた。王子が引きこもった理由がわからないで困った王にミカはこう仄めかした。
『異界の賢者なら解決できるかもしれない』と。
王子の事を引き受けた私は、王子のことを調べる為に学校に行かざるを得なくなった、という訳である。
「しかし、タローじゃないと解決できないと思ったのは本当だよ?」
「まあそれはもういい、早く本題に入ろう」
あまりに戻るのが遅いとミュウが不機嫌になって夜が怖い。夜が怖いというのは夕飯のおかずが減るという意味で断じて性的な意味ではない。
「王から話を聞いているんだよな?」
「うん、王子が学校にこなくなったんだよね?」
「王子が学校に来なくなった前日と前々日、何があったか教えてくれないか?」
「……ねえ、それよりミない?」
ミカはある提案をしてくる。私としてはあまり気乗りがしない。
「またあれをやるのか?」
「いいじゃないか、そっちの方が手っ取り早いだろ?」
ミカは是が非でも見せたいようで、先ほどより息を荒げている。それを見てやるしかないようだと理解し、私は思わずため息を吐く。
「わかったよ」
「じゃあさっそく!」
語尾に音符マークでもつきそうなほど踊った声を出したミカは額に魔法陣を展開させる。
魔法陣とは魔法使いが魔法を使うときにでるものなのだが、私とミュウはお互いに物理アタッカーなのでほとんど見る機会がない。やはりいい加減覚えるべきであるかもしれない。
ミカは魔法陣を展開させた額と私の額を重ねると呟く。
「 サトラレ 」
次の瞬間、私の脳内に直接その日の記憶が入ってくる。
このサトラレという魔法はミカが作った指定した自分の記憶を他人に直接見せる魔法である。そこにミカが学校内のすべてに常時展開している監視魔法があわさる事によって、学校内の事ならすべてを伝えられるとんでもない魔法となっている。
しかし、こんなに便利な魔法を私が使われるのを渋ったのにはわけがある。この魔法、使い手には悪影響はないのだが見せられた側には酷い不快感が襲う。例えるならばスライムのような物が脳内を這いずり回っているようなのである。控えめに言って死ぬほど気持ち悪い。
ミカは私に記憶を見せ終わると、私から離れて額を擦っている。
「大丈夫かい?」
何処か魔法を使う前よりもスンッとしていて、何かすっきりとした穏やかな顔をしている。いうなれば『賢者タイム』のような物であろうか。
「二重の意味で頭が痛い」
私は目をつぶり、頭を手で押さえる。
私はミカの記憶を見てたどり着いた結論を信じることが出来なかった。それは私がここに来る前に想像していたものとは違っていて。ましては、いじめなんてことでは絶対になかった。
「ミカ、ありがとう。私はすぐに王都に向かうとするよ」
「えっ! もう行っちゃうの? お茶でも飲もうよ」
我に返ったミカが私を引き留める。
「すまないミカ、必ずすぐにここに遊びに来るよ」
「……今度嘘ついたら絶交だからね」
私はミカの頭に手を置く。そのまま頭をなでると頭を摺り寄せてくる。立派な大人の女性なのだが子供っぽい言動と行動でとてもそうは思えない。
「それは、必ず守らないとな」
「ん!」
私は手を離し、校長室の門の前に立った。
「じゃあまたな」
そう言って私は校長室から出た。校長室から校門に行くまでに「あっ、最後のやり取り死亡フラグみたいだな」と気づき、笑う。
「獣臭いわ」
ミュウのもとに帰ると開口一番にきつい一言を浴びせられた。自分では気づかないが匂ったりするものだろうか? 自らの匂いは自覚しづらいというし。
彼女は以前からこの匂いが嫌で勇者学校に入らないらしいのだ。
「それも発情したメスのいやらしい匂い、タロー、あなたは学校で何をしていたの? いえ、ナニをしていたの?」
「無駄にうまく『何』を使い分けるな。ナニもしてない」
インターネットで得た知識だろうか、これからパソコンを貸すのは控えようか悩むところである。
「まあ夫の浮気を許すのが出来た妻だともいいますし、今回は許します」
「ははーありがたきしあわせ」
私はわざと棒読みで謝る。やましい事をしてないのに謝るのは少々癪であったからだ。無駄に反論しないのは疲れ切っていて面倒くさくなったのもそうだが、経験論でこういう時は男性が折れる方が丸く収まることを知ったからだ。
以前ミュウに女性関係に口出しされ『付き合ってもないのに怒られる義理はない』と口走ってしまい、大喧嘩になったことがある。まあ、私自身怒られるようなことを言った自覚があったので素直に謝ると、色々条件付で許されたが。
「王子の引きこもりの原因わかった?」
私は仕事面では優秀な助手であるミュウに先ほど思いついた予想を伝えた。
伝え終わるとミュウは先ほどの私と同じように目をつぶり、頭を手で押さえる。一緒に住んでいるせいか、細かい仕草が私と似てきたような気がする。
「その予想が正しければ王子はかなりの……」
ミュウはそこで続きを言うのを言い渋った。まだ信じられないのだろう。
「国王の血、なのかもしれないな」
私は空を仰ぎながらぼそりと呟く。
「日が暮れそうだ、すぐに王都に向かおう」
私はこの問題の早い決着をつけるためにすぐに王都に向かった。
勇者学校からドラゴンで一時間ほど飛んでいると王都が見えてくる。
ドラゴンに乗っている最中はいつも私の背中に抱き着いているミュウが抱き着いてこなかったのは匂いのせいだろうか。
「ありがとう。此処で降りる」
私はドラゴンに呼びかける。
「ミュウ降りるぞ」
ミュウに声を掛けると返事を待たずに私はドラゴンから飛び降りる。
私は重力に従って地面へと真っ逆さまに落ちていく。まもなく来る衝撃に耐えようと体制を立て直す。
ダン!!
大きな音と共にあたりに土煙が舞うと共に私の足に電流が走る。
日本にいた時なら耐えられるはずもない衝撃に耐えるこの体に、今さらではあるのだが少しの恐怖を感じる。
そんなことをぼんやりと考えているとトンッという音と共にミュウが舞い降りる。
私のような激しい音を鳴らさず、体で衝撃を逃がすあたり彼女の方が体の使い方では私のかなり上を言っていることが伺える。
「それじゃあ王城に向かうか」
「ええ」
ミュウは短い返事と共に私の腕に抱き着いてくる。獣のような匂いはドラゴンに乗っている時の風圧でなくなったのだろうか。
その後、門で煩わしい手続きを済ませ、宿のチェックインを済ませると、何処かでご飯を食べようとミュウに提案されたのでそれに従い近くの食堂に入った。
「いらっしゃい! 適当なところに座って!」
店の中に入るといかにも食堂のおばちゃんといったような恰幅の良いおばちゃんがこちらに気づいたようであった。
スーツ姿の私を見ても驚かない所を見ると、変人になれているようであった。こんなことを言うと私がまるで変人であると言っているようであるが、只この世界にはスーツが存在しないから変人に見えることを知っているだけである。
私とミュウは開いているはじの目立たない席に座ると、メニューの中からいくつかの食事とお酒を頼む。私は日本にいたころは焼酎とさきいかでいっぱいやるのが好きだったのが、残念ながらこの世界には焼酎とさきいかはない。
あんなに美味いものが安価で手軽に買うことが出来る日本という国がどれだけ恵まれているかを異世界に来てやっと気づくとは人間とは何とも愚かな生き物であるなと思う。
いつか時間が出来た時にさきいか作りに着手するのもありかも知れない。
「にぎやかな所ね」
「この時間は酒場としてくる客が多いようだな。ほら、あちらで酒をどちらが飲めるかなどとやっている奴もいるぞ」
「……懐かしいわね」
「ああ」
私はミュウも私と同じく懐かしく思っていたことになんだかうれしくなる。私とミュウは今の家を買うために冒険者として色々なクエストをうけ、色々な人と出会ってきた。そこにはかつて仲間と呼んだ者達もいた。
そいつ等のことを思い出したくなる時にこのようにしてミュウと共に酒場に来るのだ。
その後、二人で黙って感慨にふけっていると美味しそうな料理とお酒が出てくる。
鮭のムニエル、たっぷりのタルタルソースが直接かかっているのではなく横に添えられ、皮のパリパリとした食感を損なわないように配慮している事からこの料理を作った人のこだわりを感じる。
鮭は皮が特にうまいのだ。わかっているじゃあないか。
「他の料理はまだだが冷めないうちに食べ始めるか」
「ええ、せっかくの食事が覚めたらもったいないわ」
「「いただきます」」
残りの料理も運ばれ、酒のお代わりも飲み終えたあたりでミュウがなんだか眠たそうにあくびをしたので帰るかと思った時であった。
「もういっぺん言ってみやがれこの野郎!」
一人の日に焼けており精悍な顔をした小柄で中性的な顔をした男が三十代後半ほどの酔っ払いに絡んでいるようであった。いい気分が台無し、とまではいかないがうるさいのは好かないな。
まあ、今からここを出る私には関係ないな。
「ミュウそろそろ宿に向かおう」
私がそういうと酒が入ったせいで気だるげにゆっくりと立ち上がろうとする。
それを見た私もビジネスバックをあさりその中から長財布を手に持って立ち上がろうと腰を浮かした。
しかし、私は聞こえてきた呂律が回っていないせせら笑いと共に聞こえた言葉に浮かした腰を再び下ろした。
「うるせえよ、『最弱』如きがBランクの俺になんか口答えですかなー?」
『最弱』か。ふむ、少し様子を見守るとしよう。しかしあの酔っぱらっている男、かませ犬としていい味が出ている。
「ミュウ、やっぱりもう少し座っていよう」
「…………」
何か言いたげな不満そうな表情をしてミュウは座る。仕方がないだろうそんな目で見るなよ。
「誇りある騎士を愚弄するか!」
そんなセリフ、どこかの騎士も言っていたな。
「誇りある騎士ー? ふぁっはっは、犬の更にそのくそ如きが何言ってやがる!」
そう言いながら酒をあおる男。
「この野郎! 言わせておけば!」
やはりこいつが最弱の騎士とやらか。こんな所で会えるとは都合がいい。
しかし不味いな、あの騎士酔っ払いに殴ろうとしているではないか。
それにしても何故こうも昔から騎士というのは喧嘩っ早いのが多いのだろうか。面倒ごとは勘弁だ、止めるとしよう。
私は立ち上がって一瞬のうちにその騎士のこぶしを掴む。
そのことに驚いたのか騎士は訝しげにこちらを見る。
「ああ!?」
「その辺にしておきなさい。自らが騎士であることに誇りを持っていると思うのならば、そのこぶしはこんな所でふるう物ではない事となぜわからん」
私はそう言うとこぶしを離す。すると、騎士の方も思うところがあったのか黙ってこぶしを下ろす。
「おいおい、今からこいつのことをボコそうとしていたのに余計なことしやがってよー、俺を助けたつもりですかー?」
そう言って男は立ち上がってこちらに近づきフーっと私の顔に酒臭い息を掛ける。ミュウのような美女にしてもらうならまだしも、こんなおっさんにやられるのは気持ち悪さしかないな。
「酒を飲むのなら楽しく飲むのが酒飲みとしての矜持ではないかね? 何があったかは知らないが酒を飲むならば人に迷惑をかけるような飲み方は控えるべきだと思うぞ。酒を飲むと感情の振れ幅が大きくなるから分からないでもないのだがそれにしても人に絡む絡み酒は……」
「ごちゃごちゃうるせえな!!」
男は私に怒りをぶつけるように殴りかかって来た。私はそんなにごちゃごちゃと言っていただろうか? まだ言いたいことはあるのだが。
一部始終を見ていないので手は出さず注意するのに留めていたのがあちらから殴りかかってきたのなら仕方あるまい。
私は殴りかかった手をくぐり、腕を掴むとそのまま一本背負い投げをする。
うまく食事や他のお客に当たらないように決めることが出来た。注意した私が迷惑をかけたら元も子もないからな。
しかし、場の空気は壊してしまったようで食堂は静まり返っていた。
「タロー! そんな男ほっといて宿に行きましょうよ! 私眠くなってきちゃったわ」
そんな中ミュウが私に向かって叫ぶ。
「タローだって! あの殺戮兵器の!?」
「殺戮兵器? 賢者って聞いたことがあるが」
「馬鹿! 殺戮兵器はあの女の方だよ」
「いや人違いじゃないか? だがしかし、あの奇怪な服」
ふむ、ざわついてきたな。帰るか。
そう思うと私は会計に向かった。流石に王都に店を構えているだけあってあの恰幅の良いおばちゃんは慣れているようでスムーズに終えることが出来た。
会計を終えると私はいつの間にか隣にいたミュウと共に騎士の方に向かう。
「一二三 太郎だ、国王から話は?」
騎士は福島県名物、赤べこのように首を振り続ける。
「うむ、では明日10時にここに来てくれ」
そう言い残すと私は食堂の外に向かった。しかし、ここの飯は大層美味であったな。
「おっと」
私としたことが大切なことを忘れていた。日本人として礼儀を欠くのは恥である。
「ごちそうさま」
そう一言言い残し私は食堂を出た。
ふと空を見上げるといつものように月が二つ輝いていた。
五話ほどの短い小説となります。
書き貯めた物がなくなりました申し訳ありません
死ぬ気で仕上げます。




