SEMMで一番ロックな男
「北上さんとは向かう途中で合流してもらうことになります。 合流後、以前と同じくコンパクト形検知器で対象の反応を追って向かって頂く形となります」
翌日朝、作戦に参加する三人に乙部は流れをさらっと説明した。それに対し凰児がその他疑問に思うことを質問していく。翔馬は気の合わない人間との共同作戦に未だに乗り気になれないのかあまり喋らない。といっても機嫌が悪いといったわけではなく、言うなれば苦手な上司に食事でもと誘われた部下のような雰囲気だろうか。
「ヨミは今も三重県辺りにいるんですか?」
「どこへ向かっているのかは知りませんが、どうやらこちらに近づいてきているみたいですね」
「何者なのかっていうのはまだわからないんですよね」
「そうですね。 そうそう、彼が正体不明なのは確かにそうですが、検知器が反応したのはやはりただの誤作動だったようです」
「何かあったんですか?」
「検出精度を調整してみたら次はシロちゃんのことをアニマと判断したんですよねえ……。 彼女も出自は不明ですが流石にアニマだったらアンリさんがわからないはずがないでしょうし、流石にないでしょう。 人間とアニマの区別は今まで正確に行えていたのですが、再調整が必要になってしまいましたかね……。 他にもいくつか誤検出と思われる反応が……。 まあ今のところ本物と若干異なった反応をするので問題はないですがね」
「なるほど。 ところで合流地点はどこで?」
「名古屋駅で拾うので待っていて欲しいと伝えてあります。 そこから矢富の方へ向かい、その先は先ほど話したとおりコンパクトの反応を見ながら、ですかね」
「矢富ですか? 随分近いですね。 もう愛知県に入ってるじゃないですか」
「人を探しているそうですが、こっちの方で目撃情報でも掴んだのかもしれませんね」
「探し人、ね。 どんな人なんだろう? とりあえずもうそろそろ行ってきます。 ほら翔馬、いい加減諦めて行くよ」
「無理はしないでください。 北上さんなら相性的にも悪くはないでしょうが、相手も手の内の全てを見せていないかもしれません。 無理だと思ったら撤退しても構いませんので」
何よりも三人の安全を最優先とする乙部の言葉に翔馬と凰児が頷く。アンリは実際戦ったわけではないからかあまり緊張感が見えないようであるが。
車に乗り込むと三人は乙部に見送られ三重県方面へと向かって行った。今日は珍しく見送りにシロと浪の姿が無いようだ。ほかのメンバーのところにでもいるのだろう。
名古屋駅方面へと車を走らせ、堤防を上手く使い特に渋滞にはまることもなくスムーズに進んでいる中、アンリは翔馬のローテンションぶりに感じていた違和感について問いただす。
「あなたがそこまで他人を避けるなんて珍しいわね。 Sランク最強の一人ってことで名前くらいは知っているけどどんな人なの?」
「悪い奴じゃないよ、うん……。 なんつーかこう……、ハイテンション過ぎてうざいだけで」
「あなたがそれを言うとなると相当ね。 私もあまり得意なタイプじゃないかもしれないわ……」
「中学くらいまではこっちいたらしくてな、凰児の幼馴染なんだとさ」
「へえ、意外ね。 龍崎さんもあまりガンガンくるタイプは得意じゃないと思っていたけど」
少し驚いたような表情で言ったアンリに、凰児は困ったような顔で答える。
「小学生の時同じクラスでね、妹と三人でよく遊んでたんだよ。 今でも連絡とったりはするけど、直接会うのは久しぶりだね」
「ライブの助っ人やってくれって言われたとき以来じゃね?」
「そうだったかな」
翔馬の一言に、アンリは不思議そうな表情を浮かべた。
「ライブ?」
「北上は本業でバンドやってんだよ。 中学んときから練習してて、凰児も昔一緒にやってた時期があるらしくてな、ベースがぶっ倒れた時に代理で呼ばれたんだよ」
「へえ……」
雑談が終わったところで、合流地点が視界に入ってくる。ふと噴水近くの駐車場の横、タクシーや送り迎えの車が並んでいる場所に目を向けると、とてつもなく目を引くド派手な風貌の男が一人。アンリはすごいのがいるなと引き気味に笑っているが、車はまさにその人物の方へと向かっていく。
先ほどの会話を思い出すと、アンリの脳内に嫌な予感が浮かんだ。ミュージシャンといえば変わり者も多いイメージだ。予想通り車はスピードを落としその男の前で停車した。
一足先に凰児が降り、彼の顔を見るなり男はオーバーに喜ぶ仕草を見せ反応した。
「Hey,Ya!! 久し振りだナ凰児!! 可愛いの二人も連れちゃってやるねえ」
「元同僚の性別も忘れたのか……。 翔馬がもう上の空で目に光がないよ。 ほら、一人は初対面なんだからちゃんと挨拶してってば」
「これァ失礼、麗しきお嬢さん。 この俺こそが……、SEMMで一番ロックな男こと、北上閃人だぜィ!!」
暗めの短いピンク髪をツンツンと立たせ、ヒョウ柄のモフモフしたファーがついた黒コートとテカテカの黒系エナメルパンツというドギツいなりのハイテンションな男、北上閃人にアンリもタジタジの様子だ。
しかしふと疑問に感じたことがあり、何気なくポツリとこぼす。
「は、初めまして……、まあ宜しく頼むわ。 大和田本部長に雑用を投げられてるって噂を聞いていたから、もっと真面目そうなおとなしい人を想像していたのだけれど……」
「うぐあッ!! あのおっさんの話は禁則事項だぜBaby……!!」
「……、会ったことはないけれど碌でもない人なのはなんとなくわかったわ」
相当痛いところだったのか、ぐさりと胸を刺されたように怯む閃人を見て、これほどマイペースな人間をも雑用に使わせる本部長がどんな人間なのかアンリはすぐに察した。本部長を知っているであろう凰児が苦笑いを浮かべていることからもだいたい間違ってはいないのだろう。
「はーい、さっさと乗ってー。 出発しますよー」
「Oh、どうしたよ翔馬クン、そんな他人行儀に」
「お前と話してると疲れるんだよ……、任務の説明もせにゃならんのだから。 チャッチャと行くぞ」
「こりゃ手厳しい」
フランクな欧米人のように笑う閃人を凰児が呆れながら車内へと引っ張っていく。とりあえずは名古屋駅を後にし、高速道路へと入る。今日は車の量も多くはないようだ。スムーズに飛ばしていく。
「メンバーの子達はどう? 元気にしてる?」
「そりゃもちろん、だがベースのヤスが抜けちまってな。 今はその都度代理取ってライブしてンのさ。 お前の席は空いてるぜ」
「機会があったら助っ人くらいはするけど復帰はしないよ。 今回も恋愛沙汰で?」
「おうヨ、彼女出来たっつーからな。 恋愛禁止がウチの掟だ」
久々の再開に会話を弾ませる幼馴染二人に、翔馬はつい割って入る。
「いやいや、どこのアイドルグループだよそりゃ……」
「満たされた人間にロックは演れねえ、そうだろう? 別に責めてるわけじゃねえのさ。 『先鋭的でアンチポップ、ロックは本来そういうもん』ってなァ俺が尊敬するロックスターの言葉さ。 不平や不満ぶちまけて叫び倒すだけのイカれた舞台に立てるのは俺らみたいなろくでなしだけさァ」
「わかるようなわからんような……」
「そもそもジャンルとしてのロックと生き様としてのロックは別もんでな……」
「はいはいはい、長くなるからそこまで!! 着くまでに任務の話済ましておかなきゃいかねーんだってば!!」
「なんだよツレねえなあ? で、なんだっけか? 重力操作だったか」
閃人に説明するのももちろんだが、アンリもそこまで詳しい話は聞いていない。改めて凰児の口から、常軌を逸した力を持つターゲットについて語る。
「重力操作についてはあれが全力なのかはわからないけど、肉体強化がかかってれば動けないこともないよ。 井上さんと俺はなんとかなると思う。 ただ、相手も肉体強化を使うようで、そのレベルが桁外れに高い。 正直言うと直接攻撃の方が食らった時の危険度は高いと思う」
「重力は闇に属する魔術よ。 黒峰さんのような攻撃特化型が多いからね、まあ納得できるわ」
「なるほどね……、確かに閃人の攻撃が通るなら相性は良さそうだ。 単純な攻撃力は低いけれど、基本的に避けようがないからね。 俺と翔馬も巻き込まれるだろうけど……」
「音、ね。 私が呼ばれたのはそういうものにそれほど敏感ではないからってことね」
半機械のアンリは音波攻撃が効きにくいということだろう。それでなくても耐久力は異常なレベルだ。アンリの正体を知らない閃人は少し不思議そうな表情を浮かべるが、それほど気にもしていないようだ。
そうして時折脱線しつつも任務内容について閃人に説明していきそれが終わった頃になると、いよいよ目標までの距離が近い。一行を乗せた車は高速を降り、県境の橋の方へと向かっているところだ。
コンパクトを手に乗せた凰児が隣の閃人とアンリにそれを見せながらここからの流れについて説明をする。
「目標がこのまま動けば必ずこの大きな橋を通る。 乙部さんに連絡して、目標が橋に入ってしばらくしたら現地の警察官に封鎖してもらえるように手配してもらう。 もうわかってるだろうけど……、正直四人がかりでも勝てる確証はない」
「何弱気になってんだ。 久しぶりにお前と組むんだぜ、最高のステージにしてやるぜィ!!」
「ははは、ついていけるように頑張るよ」
そのまま車を走らせていくと、大きな川へとぶつかる。濃尾平野を流れる木曽三川と呼ばれる物の一つで川幅も広く架かる橋もそれだけ長くなる。この川を渡るため、愛知側へと向かってきている目標、ヨミも必ずここを通る。そしてその目論見通り黒いジャケットの男が橋の半ば位を歩いているのを確認し、車のハンドルを握る翔馬の口元にわずかに笑みが浮かんだ。
そのまま男の前に車を停車させ四人は素早く橋へと降り立った。見覚えのあるふたりの顔に、ヨミは小さなため息を吐く。
「わざわざ東京からお仲間まで連れてきてご苦労なことだな」
「北上の顔まで知ってんのか……。 ホントにお前何者だよ」
「ふん……、それよりいいのか? このままここで戦うと愛車がスクラップになるぞ」
「……、ちょっと待って。 ローン四年残ってんだ」
緊張感のない会話に凰児とアンリが呆れて気が抜けている中、閃人は大笑いしている。ヨミは気を使ってか反対方向へと少しずつ歩いて戻りながらポツリと話し始める。
「どうせお前たちとはまた会うことになっていた。 お前たちの本拠地……、愛知支部に俺の探し人がいるようだからな」
「なんだって……? じゃああなたはもしかしてうちの支部に向かって来ていたってことか? なんでわざわざ歩いて」
「電車は金が掛かる」
「はあ……」
呆れたように声を漏らす凰児だが、その後すぐキリッと表情を変えた。
「あなたはSEMMに何かしら恨みを抱いているようだった。 その探し人っていうのは復讐すべき対象なのか?」
「いや、妹だ」
「なっ!? 妹、だって……」
「保護されていると聞いた。 お前たちも知っているのではないか? 白い髪を持った背の小さな少女だ。 俺はミナと呼んでいた」
小さく振り向いて何気なく問いかけた彼の言葉に、閃人以外の三人が凍りついた。ヨミの挙げた特徴は多くはない。だが、その特徴に当てはまる少女など、愛知支部にはどう考えても一人しかいない。
「おい待て……、それって!! あいつがお前の、妹だと!?」
「ふん、皮肉なものだ。 よりにもよって貴様らがあいつを……、な。 ……、俺には貴様らと戦ってやる義理はない。 その気になれば逃げるのも容易だ。 お前たちの動きを封じ、自らを軽くして逃げればいいだけだ」
それでも逃がさないと言わんばかりに構える翔馬、それに続いてほか三人も臨戦態勢を取る。しかし、ヨミは構えることなく話を続ける。
「だが、お前たちが俺の提案を飲むなら正々堂々正面から受けて立とう」
「提案だと?」
「俺が勝ったときは妹を俺の下まで連れ出し会わせてもらおう。 その代わり負けた時は素直にお前たちについていく」
ヨミの提案はただ、妹に会わせてくれというだけのものだった。しかし……、
「悪いがお前の言うことには信じられる根拠もない。 得体の知れない相手にあいつを会わせることはできないな」
「また、俺たちを引き離すというのか……、いいだろう。 ならばこちらも力づくで従わせるのみ」
若干冷静さを失ったように声を荒らげて魔力を吹き出し構えたヨミ。わずかに空気が重くなったような感触を四人ともが感じ、橋がギシギシといびつな音を立てているように聞こえた。
閃人の紹介とVSヨミ導入までです。
閃人の活躍はこれからですが凰児と気が合うのが不思議な位のハイテンションキャラです。これは後々描写があるか微妙なことですが、実は凰児は妹の一件があるまでは見た目通りのやんちゃ少年だったのです。事件をきっかけにおとなしくなってしまったわけですね。
ヨミの正体はすなわち『彼女』の正体にも直接つながっていくということになります。『ヨミ』と『ミナ』という名前が若干のヒントです。若干すぎですが……。
では、ありがとうございました。




