↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『成長条件は、自分で探せ。~異世界の食堂から始めるレベルアップ~』  作者: ジャズ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
1/12

第1話「飯代を稼いだら、筋力が上がった」

第一話 まずは朝飯を


 目を開けると、天井の隙間から青空が見えた。


 雨の日は困るだろうな。


 最初にそう思った。次に、ここはどこだと思った。


 狭い部屋に木のベッドが一つ。壁には剣が掛かっている。ずいぶん凝った宿だ。


 起き上がって、自分の手を見た。


 若い。


 指の付け根にあった仕事のたこも、手首の古傷も消えていた。


「……どうなってる」


 昨夜の記憶がない。


 美容室の予約表を確認したところまでは覚えている。明日は休みだから、誰にも会わずに過ごそう。そんなことを考えていたはずだ。


 扉が勢いよく開いた。


「起きたか。生きてるなら下りてきな」


 大きな洗濯籠を抱えた女が立っていた。


「すみません、ここは?」


「私の宿。あんた、裏口で倒れてたんだよ」


「それは、ご迷惑を」


「迷惑はこれからさ。泊まり賃、払える?」


 ポケットを探った。


 財布も携帯もない。


「働いて返す形でも?」


「話が早くて助かるよ」


 女は初めて笑った。


     *


 一階は食堂だった。


 暖炉に火が入り、鍋から肉と玉ねぎの匂いがする。


 窓の外を馬車が通った。


 その横を、耳の長い男が歩いていく。


 俺は窓に近づいた。


 男が帽子を脱いで頭をかく。耳は頭と一緒に動いた。


「何見てんだい」


「ちょっと、現実の確認を」


「確認できたら皿を洗って」


 できてはいないが、皿は洗える。


 俺は袖をまくった。


「名前は?」


「ジャズ……です」


 答えてから、首をひねった。


 今まで使っていた名前とは違う。それなのに、口から自然に出てきた。


「私はマルタ。そっちの痩せたのがトマ」


「痩せたのって紹介やめてよ」


 かまどの前で、赤毛の少年が振り返った。


 十五、六歳だろうか。自分の胴ほどある鍋を、布越しに持ち上げようとしている。


「それ、二人で持った方がいい」


「平気。毎朝やってるから」


 平気という人間ほど、腰の使い方が危ない。


 鍋を置く場所を空け、俺は反対側の取っ手を握った。


 重い。


 腕が震え、底が台にぶつかった。


「せーの、でいくぞ」


 どうにか運び終えると、視界の端に文字が出た。


【筋力が1上昇しました】


「……は?」


「何?」


 トマが俺を見る。


「いや。今、何か見えなかったか?」


「鍋の底の焦げ?」


「それは俺にも見える」


 文字は、目をこすっても消えなかった。


     *


 試しに、空の鍋を持ち上げた。


 さっきより軽く感じる。


 元の場所へ戻し、もう一度持つ。


 何も出ない。


 五回繰り返したところで、マルタに止められた。


「鍋と仲良くなったら、こっちも頼むよ」


 運ばれてきた皿は、二十枚以上あった。


 能力の検証より先に、労働だった。


 洗い桶は二つ。汚れた皿と洗った皿が同じ場所に積まれている。トマはその間を何度も往復していた。


「ここ、入れ替えていいか?」


「どうして?」


「その方が歩かなくて済む」


 皿を受け取る場所、洗う場所、乾かす場所を順番に並べた。


 前の仕事でも、道具の置き場所にはうるさかった。忙しい日に鋏を探す時間ほど、腹の立つものはない。


 トマが一枚洗い、隣へ置く。


「あ、本当だ」


 俺も作業に戻った。


 しばらくして、また文字が出た。


【段取りを改善しました】

【敏捷が1上昇しました】


 洗っていた皿を止めた。


 重い鍋を運んで筋力が上がる。


 仕事の無駄を減らして、敏捷が上がる。


 だったら――。


 皿を、さっきより速く洗ってみた。


 一枚、二枚、三枚。


 変化なし。


 急いだせいで泡が袖に入っただけだった。


「何やってんの?」


「自分でも整理してるところ」


 ひとまず、繰り返すだけでは駄目らしい。


     *


 昼前、通りから悲鳴が聞こえた。


 顔を上げると、窓の外で荷車が動いていた。


 馬のいない荷車だ。


 坂を下りながら、積んだ薪をがたがた揺らしている。


 その先に、小さな女の子がいた。


 落とした林檎を拾おうと、しゃがみ込んでいる。


「危ない!」


 声より先に身体が動いた。


 裏口を飛び出し、女の子の腕を引く。


 間に合った。


 けれど、荷車はそのまま食堂へ向かっていた。開いた扉の前で、トマが立ちすくんでいる。


 俺は荷台の横木をつかんだ。


 腕に衝撃が走る。


 止まらない。


 靴底が石畳を擦った。


【筋力が不足しています】


「知ってる!」


 真正面から止めようとするな。


 俺は身体を横へずらし、横木の片側を引いた。


 車輪が曲がる。


 荷車は食堂の扉をかすめ、脇に積まれた藁袋へ突っ込んだ。


 薪が崩れる音がして、ようやく止まった。


 俺はその場に座り込んだ。


 手のひらが痛い。膝も笑っている。


【筋力が1上昇しました】

【技能〈力の誘導〉を習得しました】


 文字の下に、新しい表示が開いた。


【ジャズ レベル1】

【習得技能 1/3】

【技能を3つ習得すると、次の成長段階を選択できます】


 次の成長段階。


 俺はその一行を、もう一度読んだ。


「ジャズ!」


 マルタが駆け寄ってきた。


「怪我は?」


「手が少し。あの子は?」


 女の子はトマの後ろで、林檎を胸に抱えていた。泣いているが、立っている。


 息を吐くと、急に腹が鳴った。


 マルタが俺の腕を肩に回した。


「まず飯だね。そのあと手当て」


「泊まり賃は?」


「今日のぶんは、もう十分働いたよ」


 支えられて立つ。


 食堂の入り口には、薪が一本転がっていた。


 朝は鍋一つ、まともに運べなかった。


 今も荷車を止める力はない。


 それでも、少し変わった。


「なあ、マルタ」


「何だい」


「この街で、戦い方を教えてくれるところはあるか?」


 マルタは俺を見て、それから通りの向こうを指した。


 石造りの建物に、剣と盾の看板が掛かっていた。まずは

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。