第9話 過去への旅の準備 その2 原子分解と原子生成、分子生成
僕は、フィラデルフィア実験で、なぜ、人間と船体が融合したのかを考えていた。完全な正物質、反物質を接触させると爆発的なエネルギーを発して、正物質と反物質は対消滅する。その違いは、中間物質に近い状態の正物質と反物質が接触したのか、完全な正物質と反物質が接触したのかの違いであろう。
とりあえず、反重力プラットホーム(テスラコイルとチタン酸バリウム強誘電体からなる3つの半球ドーム)に供給する電力のPWM制御DUTY50.1%vs49.9%のほぼ似たような中間物質同士を接触させてみる。かなり融合に時間がかかる。ではDUTY51%vs49%ではどうか、融合の時間が短縮した。こうしてDUTYをスィープするとDUTY66.6%vs33.3%の時、融合と同時対消滅による爆発も発生せず、原子分解した。なるほど、これで第1関門を突破した。なお副産物として、ペア粒子の生成に成功した。原子崩壊させて得たグルーオン素粒子に更に同様のDUTY66.6%vs33.3%にて原子分解させると、簡単にペア粒子の生成ができるのだ。
ペア粒子の一方に電磁波を当てると、他方のペア粒子から全く反対極性の電磁波が得られる。これでペア粒子の片割れを1000億光年先にもっていって、映像信号を変換した電磁波を当てれば、他方のペア粒子からその映像が得られるのだ。また光速という限界のあったコンピュータの電子流速を超えて、全く同時の端子間通信も可能となった。ICやLSIもこの方式で構成した所、とてつもなく早いコンピューターが出来上がった。これを僕らは同時量子コンピューターと呼ぶことにする。
第2関門の原子生成は割と簡単だった。
原子分解した後の素粒子としては、中間物質でなる全球ドーム内にバラバラな素粒子として存在するを、生成したい原子、金であれば金を極少量その全球ドームに入れ、その全球ドームを中間物質から正物質に転換すると、たちまちバラバラな素粒子が金となるのだった。元素表記載の全ての元素について、この方法で試したが上手くいった。
第3関門は分子生成だ。こちらは分子の小片を、その分子を構成する原子の存在する全球ドームに入れても無駄だった。これは力技で生成するしかないようだ。そこで試作ロボット『ピー』を作った。全部で24本の屈曲自在の足には、その足先端のカメラとそれぞれ36本のさらに微小な髭のような屈曲自在の足を設けてなる。そしてその髭のような足にも同様な36本のさらに小さい足とカメラのセット、その小さい足にさらに小さい36本とカメラのセットが設けられている。もちろん反重力で浮遊する。そして『ピー』は、先に開発したペア粒子通信+同時量子コンピューターでなるAIで駆動する。僕は例のどんな手品師にも負けない超高速な手の動きで、パソコンでその試作ロボット『ピー』のプロゴラムを作っていく。3か月で完成した。
出来上がった試作ロボット『ピー』は、人間もそうだが、だいたい1/20迄のサイズの物は何でも容易に形作ることができる。もちろん分子生成はまだなので、試作ロボット『ピー』の1/20サイズ小型版試作ロボット『ピー』を無限に作らせる。その1/20サイズはさらにその1/20サイズの『ピー』を、こうしてどんどん小さな『ピー』をネズミ算式に増やしていく。すると原子や電子と言った素粒子を扱うことが可能な『ピー』が完成し、ナノテクノロジーの粋がここに完成した。超大量の最小『ピー』は反重力で浮遊し、生成でした原子の素粒子を捕らえて並べてたちまち既知の分子を作り上げた。そして試作ロボット1台には中に無数のナノテクノロジーの粋、素粒子を扱うことが可能な『ピー』を空母のように大量に保有し、どんな物質も生成可能になった。
さらに試作ロボット『ピー』のコピーを5台『ピー』に作らせ、同様に動くことを確認して、反重力実験船にのって月に行き、『ピー』のコピーをネズミ算式に増やしていく。そして、月にある土や岩石を原子崩壊させて、超大型、の宇宙戦艦を完成させた。まぁ超大型と言っても直径2kmの球形の反重力反物質エンジン推進の宇宙船なのだが。僕らの父母、祖父母の居所もこの宇宙船に移ってもらう。
この宇宙船1号を使って、過去5000年前にタイムワープし、太陽系中の惑星と衛星に、億単位の『ピー』を入植させ、さらに同様な『ピー』をネズミ算式に増やして、とてつもなく多数の『ピー』達は、太陽系の全物質を使って、人間や地球で生存する動植物が生存可能な、宇宙戦艦に改造して行った。各戦艦には、生物質のドーパミンを発生させる器官と発生したドーパミンを受けて何かを創造する人間の脳と同じ構造のバイオAIと言うべき、大きな大きな頭脳を搭載する。そして互いにリンクさせて、何かを創造して役に立つものを作れ、と命令した。その中には特別オーダーとして、人口食材、人工食料料理自動装置、思考サポートロボット『プー』の開発も含まれる。もはや地球がなくても人類は食べていけるようにするのだ。
水爆戦争を始めた北朝鮮、ロシア、中国、パキスタン、イランのおかげで残り少ない寿命となった地球を救うべく、僕たちは、例の直径2kmの宇宙船で、1945年8月1日、終戦間近の日本にやって来た。
さて、大日本帝国のクーデターを始めようか。