機械と肉体
─2階、階段前通路
「馬鹿を言うな...でたらめを...」
「敵対数によって能力が向上するってところかな」
汗を垂れ流し、その一粒一粒が包帯に染み込む。
「だから...何だって言うんだ...結局...勝つのは俺...」
棺を鈍器のように扱い、イルイダの鎧を掠めるが、先ほどまでの威力は無く、
能力の穴を感づかれた焦りが表れているようだ。
「攻撃がえらく単調になってきたんじゃないのか?
さっきまでは棺なんて使っていなかったのに」
歯ぎしりが酷くなっていく姿を見て、彼は確信する。
「【リミッター解除】!」
このスキルは体への負担が凄まじく、連発して使うことは愚か、
一日の限界が3発、それ以上打つと肉離れを起こしてしまう。
包帯男を狙いスキルを発動させるが、人形が身代わりとなり、粉砕される。
「っち、外したか」
「お前の情報だって...筒抜けなんだよ...馬鹿が」
外したことにより、下腿二頭筋 への損傷が酷く、
これまでのような素早い追撃などが困難な状況になった。
人形はカタカタと散らばった部品が集合し、元通りになる。
ダメージは恐らく発生していない。
「俺を狙ったのはいいが...そんなんじゃダメなんだよ...。
何度だって、人形を身代わりに出来るんだぜ...へへ」
暫くの防戦一方状態が解けたかと思われたが、
自らのスキルにより首を絞められたイルイダに、この状況は厳しく、
先ほどの絶望感は無くなったとは言え、
常に気を張らなくてはならないことに変わりはない。
「驚かせやがって...!へへ!へへへへ」
どうしたものか。
弱体出来たとはいえ、それでいてもなお機械人形が厄介だ。
どうにか引き離すことが出来ればいいんだが、一人で引き離す方法なんてあるのか。
やはり一人では...。
激しい攻撃を大剣で防ぎ、少しずつ近寄っていく。
間合いを詰めて、出来る限り奴の近くへと移動するが、
すぐにはじき返され、一方に近づくことが出来ない。
思い返せ、奴の言動や人形の動きを。
どうしてルシファーは真っ先に投げ飛ばされた?
俺やベンを飛ばしておけば、戦力が分散するだろうになぜ彼女を?
回復能力が厄介な相手ということなのか・・・?
考えろ。
「へへ。お前には俺を殺せない...どうした?こいよ...」
包帯の隙間から舌を出し、強気の姿勢を見せつける男。
こちらが黙っていると饒舌になり、汚い言葉を吐き続ける。
にしてもあれほど凶暴な人形も、私が動かなければ大人しいものだな。
考える時間すら与えてくれないものだと思っていたが...。
ん?待てよ、そうかそういうことか。
分かったかもしれない、奴の本当の弱点が。
「勿論怖いさ」
カタカタと音を立てて突撃してくる人形を薙ぎ払うと、
イルイダは大剣を背後へと投げ飛ばす。
「お前何してる...」
機械人形はおかしな音を出しながら、イルイダの後方へと向かっていく。
そしてもう一本の大剣を人形の背中目がけて投擲した。
見事にそれは背中を貫通し、壁に刺さった。
がたがたと暴れるが、深々と刺さった大剣はそう簡単に抜くことが出来ない。
「音だ。あの人形は音に反応する。お前とあった時、
初めてお前に対して声を発したのがルシファーだった。
そして私が黙るとお前は口が達者になる。
まるで問いかける様に、私を喋らせようとしているかのように」
「ひっ...」
「どうにかして引き離すことを考えていたが、これでようやく離せたな。
あの剣はそう簡単に抜けないぞ。
なんせ二本目に投げたのは【リミッター解除】で投げ飛ばしたやつだからだ。
おかげで上腕二頭筋が動かなくなった」
一歩、さらにまた一歩。
痛みに堪えながらも足は包帯の男へと向かう。
「来るな...」
「お前のスキルは確かに強かった。苦戦したのは事実だ、でもな。
お前自身はどうなんだ?自分は何もせずにただ見てるだけか?
あの機械に痛みは感じないかもしれないが、お前は感じるだろ。
歯ぎしりじゃなくって、食いしばれよちょっと...いや相当痛いからな!!」
イルイダの頭突きは包帯男の顔面に直撃し、2m程吹っ飛んで、気絶。
暴れていた機械人形はぐちゃぐちゃに地面に溶け込んで消えた。
「暴れる音はこの辺りで聞こえたが...おい!人が倒れているぞ」
イルイダは近くの部屋に身を隠し、兵士たちに気づかれることは無かったが、
兵士たちが騒ぎに駆けつけ、現場を調べている。
じきこの場所も見つかってしまうとは言え、すぐに移動する事は至難の業だ。
ベンの【存在証明】も効果が切れている為に、紛れ込むことも出来やしない。
「どうしたもんかな」
窓の空を見つめ、嘆きを零していると、空の彼方から飛来してくる影を見た。
それはこちらに盛大な音を立てて飛び込んできた。
「なんだ一体...お前!?」
「あれ、イルイダさん!なんでこんなところに?」
「バルツイン君こそなんで空から?」
ルーデンツの鎧を着たバルツインがそこにはいた。
「話をすると長くなるんっすよ...」
「おい!この部屋から大きな音がしたぞ!」
「まずい!」
「イルイダさん、任せてください」
扉を開けると、兵士に変装したバルツインが、言葉巧みに兵士を誘導させる。
「ここの巡回をしていたら突然窓から死体が飛んできたんだ!
侵入者は町のほうだ!急げ!」
「なんだと!分かった!おい、お前たちすぐに向かうぞ!」
去っていく兵士たちを見て、ニヤリと笑みを零す。
「いつのまに君はそんなことまで出来る様になったんだ...」
「そんな褒めないでくださいよ」
危機を脱したイルイダは、ルシファーが上がってこない事を気にかけ、
バルツインに事情を話すと、彼は様子を見てくると足早に駆けて行った。
ベンの事も気になるが、今の状態では助けに行く事すら出来ず、
足手まといになってしまう。
治療に専念する為、痛み止めや回復薬を探しに二階の医務室を目指すことに。