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もりとき怪談 第三集【一話完結/短編怪談】  作者: もりとき


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返し椀


 年末年始は祖父母の家に泊まりに行くのが、俺の家の恒例行事なんだけどさ。

 そこでちょっと不思議な体験をしたんだ。

 父方の祖父母宅なんだけど、けっこう田舎の方なんだよね。畑と山ばっかりで、家がぽつぽつ建ってる感じ。年末年始の頃はだいたい雪が降るから、少しは外に出て遊んだりもするけど、基本的には家の中でまったりしてる。

 俺は案外、そういう時間も好きだったよ。落ち着いてて、癒やされる。まさにデトックスって感じ。


 で、祖父母宅は古い家なの。

 この辺りでずっと農業をやってる。うちの父親は三男で家を出たけど、長男の伯父さんが家業を継いでる。

 次男一家と、長女一家も、年末年始には集まる。これだけの人数が泊まれる家だ。めっちゃ広い。

 それでさ、朝昼夜と三食、みんなで食卓を囲むんだよ。

 女性陣総出で台所で料理を作って、俺達は配膳係。男は朝から酒を飲みながら語ってた。こういうところ、いかにも田舎だよなぁって思う。


 前置きが長くなっちゃったけどさ、不思議な話はここから。

 大晦日の朝ごはんのときの話。

 ひとり分の食べ物がお盆に乗って、それぞれの前に出されるのな。旅館の食事スタイルって感じ。

 俺は全部食べて、「ごちそうさま」って手を合わせたんだ。

 そうしたら、じいちゃんが俺の小鉢を見て「まだ残ってるぞ」って言うの。

 え、全部食べたけどって思って小鉢を見たら、たしかにカボチャの煮つけが残っている。

 それを見て、俺、「あれっ?」って声が出た。

 だってその日に出された料理の中に、カボチャの煮つけなんてなかったんだ。


「カボチャの煮つけ……? なんで?」

 って言ったら、俺のとなりに座ってた伯母さんが俺の膳をのぞき込んだ。

「やだ、今日、カボチャの煮つけなんて作ってないじゃない。なんで?」

 ちょっと場がざわめいた。

 じいちゃんが「おい、忘れただろう」ってばあちゃんに声をかけると、ばあちゃんは「あらやだ、申し訳ない!」って言いながら、台所に引っ込んだ。

 そして仏壇にあげるご飯を持って、仏間に向かった。

 俺達がポカーンとばあちゃんの様子を眺めてたからか、じいちゃんがひとつ咳をした。


「あれはな、”返し椀”という。今日は大晦日だからな。こういう古い年と新しい年が切り替わる境目の日なんかに起きやすい。そういう境目が曖昧になった日に、仏飯を供え忘れたりするとな、ああやって教えるんだ。食べ終えたはずに椀に、なぜか食べ物が現れる。うちのばあちゃんはそそっかしいから、そういうことがたまにあるんだよ」


 じいちゃんが「ほら」と俺の小鉢を指さした。

 俺の小鉢に入っていたカボチャの煮つけは、さっきまでたしかにそこに存在していたのに、急に煙のように消えてしまったんだ。

 目の前で起きたことに、それを見ていた全員が「えっ?」「なんで?」「消えたんだけど!」って口々に言った。

 俺、カボチャの煮つけ消失ショーを特等席で見たんだけど、マジで種も仕掛けもなかった。


 カボチャの煮つけが消えて、ちょっとしてからばあちゃんが食卓に戻ってきた。

「仏飯が供えられると、”返し椀”は消える。カボチャの煮つけが好きだったのは、俺のおふくろだなぁ。おふくろが、『私達のご飯、忘れてるわよ』って教えてくれたんだろ」

 じいちゃんの言葉に、ばあちゃんが「本当、亡くなってからもお義母さんには迷惑かけるわぁ」と笑っていた。じいちゃんもちょっと笑ってた。


 あまりにのんびりした二人の様子に、俺は「この”返し椀”って、このあたりでは普通に起こるの?」って聞いてみたんだ。

 じいちゃんは「さぁなぁ。でも、じいちゃんが子どもの頃から、”返し椀”ってのはあったぞ」って答えた。

 ばあちゃんは「私は嫁いでから”返し椀”を知りましたよ。最初見たときは、本当にびっくりしちゃった。今はもう慣れたけど」って言ってた。


 俺の他にも、その場にいた全員が”返し椀”を見たから、俺の幻覚じゃないはずだ。

 この現象がじいちゃんの家系だけに起こるのか、その地域だけで発生するのかは不明。まぁ、”返し椀”が起きたってことは、仏前にご飯を供えるの忘れましたってことだから、あんまり外で話したりはしないよな。

 これが、俺が体験した不思議な話。

 じいちゃんの家系に起こるんだったら、この先俺の家でも起きたりするのかなぁ。



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