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もりとき怪談 第三集【一話完結/短編怪談】  作者: もりとき


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母の指輪


 お母さんが死んでから、私自身に変なことが起きてるんだ。

 現在進行系の話で、今もちょっと気味が悪い。

 私の右手には、やけどみたいな痕がある。でもこれ、生まれつきでもなければ、やけどをしたわけでもない。

 右手にやけどの痕があったのは、私じゃなくてお母さん。お母さんは、料理中に不注意でやけどしちゃったって言ってた。

 でも、お母さんが死んでから、やけどの痕が私の手に浮かび上がるようになった。

 たぶん、お母さんの指輪のせいだと思う。


 お母さんが死んで、実家の遺品整理をしていたのね。

 お母さんのアクセサリーケースの中に、古い小さな包み紙があった。なんだろうって思って開けてみたら、銀色の指輪が入ってた。

 なんてことのない、シンプルな指輪。

 最初は結婚指輪かなと思ったんだけど、指輪の内側にはMIYAMOTOって彫られていた。お母さんの旧姓。

 お父さんに聞いてみたけど、お父さんは何も知らなかった。まぁ、うちのお父さん、そういうのは疎い人だったからね。結婚指輪には二人のイニシャルを彫ったって話だったし。

 じゃあ、この指輪は、お母さんが結婚する前から大事にしていた指輪だったのかもしれない。

 使われてた形跡もなかったし、お母さんの旧姓ってところが、よりお母さんの存在を感じられるような気がした。

 だから、この指輪は私が形見としてもらうことにしたんだ。


 試しに指輪をはめてみたんだけど、これがびっくりするくらい私にぴったり。

 デザインもシンプルだから、なんにでも合わせられそう。

 私は実家からひとり暮らしの部屋まで、指輪をつけたまま歩いた。リングケースがあったわけじゃないから、外したらなくしちゃいそうだったし。

 途中で晩ご飯の買い物をして、帰宅。晩ご飯の準備をするために指輪を外そうとしたら、外れなかった。

 夕方だったし、指がむくんで外れなくなっちゃったのかな? とりあえず、後でゆっくり外そう。

 そのときはそう考えてた。


 でも、お風呂に入っても、石鹸やクレンジングオイルで滑りをよくしても、指輪は外れなかった。

 そんなにキツそうでもないのに、なぜか外れない。指が締めつけられて痛いってわけじゃない。無理に外す方が指を痛めそうだし、最悪指輪は切ってもらえばいいかって思ってた。

 お風呂から出てお母さんの指輪を眺めていたら、私の携帯が鳴った。

 見てみると、知らない番号。

 お母さんが死んで、親戚や葬儀屋から電話がかかってくることが多かったから、知らない番号から電話があるのは日常茶飯事だった。

 だから、なんの抵抗もなく電話に出た。


「もしもし、ミヤモトさんですか?」


 相手は聞いたことのない声で、名乗りもしなかった。

 お母さんの旧姓だったのが気になったけど、私は「違います」って言って電話を切った。

 これが、最初の異変。

 それ以降も、「ミヤモトさんですか」って電話がかかってくることが何度かあった。留守番メッセージにも「ミヤモトさんですよね? 連絡ください」って入ってる。

 かなりゾッとしたのは、かすれた声で「ミヤモトさぁん、早く帰ってらっしゃい」って留守番メッセージが入ってたとき。知らないおばあちゃんの声で、これはかなり怖かった。


 他にも、不思議な手紙が届いたりもした。

 私宛に届いているんだけど、筆跡がお母さんにすごく似てる。しかも差出人のところは住所とかは書いてなくて、ただ「ミヤモト」って書いてある。

 気持ち悪くて、中は確認せずに捨てちゃった。


 マンションの部屋に帰ろうとしたら、私の部屋の前に人影が立っていることもあった。

 人影だから、実際にどんな人かは分からない。分からないけど、なんとなく、その人影はお母さんなんじゃないかって思った。

 怖くて帰れなくて、近くのコンビニに行って少し時間を潰してから帰ると、人影は消えていた。


 その間も、指輪はずっと外れなかった。

 最近はなんだか、指輪をしている右手が重いような、痺れるような感じがする。

 そんな調子だから、私は自分の右手を眺めることが増えたの。

 それで、数日前に、私の右手にうっすらとやけどのような痕が浮かび上がっているのに気が付いたってわけ。

 右手と左手を比べてみても、右手の方がしわが多くて、くたびれているように感じる。

 お母さんの手に似てきた……。そう思う。


 指輪は今でも外れないんだけどさ、もう別にいいかなって思い始めてる。

 切りに行くのも面倒くさいし、痛みがあるわけでもないからね。

 でも最近は、電話で「ミヤモトさん?」って呼びかけられると、うっかり「はい、そうです」って言いそうになって困ってる。

 自分自身の行動も含めて、ちょっと気味が悪いよねぇ……。



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