1.みんな大好き異世界ファンタジーの世界へ
目が覚めると、視界を埋め尽くすのは見上げたこともない巨大な木々だった。幹の太さは、僕がかつて見たどんな大木よりも遥かに巨大で、まるで天を支える柱のようだ。空は青く、木々の隙間から差し込む陽光は白く輝いている。
「……ここ、は」
身体を起こすと、土の湿った匂いと、爽やかな木々の香りが漂ってきた。自分の身体を見下ろす。着慣れない、ヒラヒラした白い布でできた服。自分のものだと思えないほど白く、細い指先。自分の腕は透き通るような白さをしていた。地面にあった水たまりを覗き込む。そこに映っていたのは、僕の知っている黒髪黒目の男ではない。銀色の髪と、血のように赤い瞳をした、中性的な顔立ちの少年だった。けれど、動揺はすぐに消えた。心臓が速く打つ。これは恐怖ではない。ずっと奥底で、かつての自分が夢見ていた何かが、目の前で現実になっているという確信。
「これは異世界……だ。それも僕の追い求めた異世界ファンタジーの世界!」
口に出すと、胸の奥が熱くなる。事故に遭ったはずの僕が、なぜここにいるのか。わからない。でも、そんなことはどうでもよかった。僕はゆっくりと立ち上がり、周囲を見回す。どこを見てもファンタジーの光景だった。見たこともない形状の青い花が咲き誇り、遠くの森からは、聞いたことのない鳥の鳴き声が聞こえる。僕はリンドウ リン。22歳のただの大学生だったはずだ。趣味で書いていた小説の設定を考え、いつか自分もこんな世界へ行けたらと空想を巡らせていた。
一歩、森へと足を踏み出す。自分の身体が、これまで以上に軽いことに気づく。一歩進むごとに、世界そのものが僕を歓迎しているような錯覚を覚える。
「どうしよう! 僕の見た目も全然違うし転生系?! それともよくある異世界チート系?! こんなことがあるなんて夢にも思わなかったぞ!」
今の自分は、生前の僕とは全然違う。でもそれが嬉しかった。銀の髪が風に揺れるたび、それが冒険の始まりのように思えた。どこまでも広がる緑。どこまで行っても終わらない未知の探索。そんな世界に少し懐かしさを抱きながら、思いを馳せて、ワクワクが止まらない。僕はズボンに着いた土を払い、未知の世界へと続く獣道に、ゆっくりと足を踏み出した。ここには、僕の知らない楽しい物語が待っている。そう確信していた。
---
今は巨大な樹の近くの森の中の獣道を歩いている。
「いやぁ、本当に来てしまったな……異世界。どういう理屈か分からないけど、交通事故の記憶からいきなりこんなことになるなんて」
僕は拳をギュッと握りしめてみる。異世界ものといえば、魔法! スキルや、いわゆる「チート能力」に目覚めるのが定石だ。僕は足を止め、右手を前に突き出し、それっぽく叫んでみた。
「--嵐よ、出ろ!」
一秒、二秒と待つ。風が木々を揺らす音だけが返ってきた。
「……やっぱり、そんな簡単にはいかないか」
苦笑しながら、道端に落ちていた乾いた枝を拾う。悪くない重さだ。僕はそれを軽く振ってみた。その瞬間、頭の中にパッとイメージが浮かぶ。足の重心の置き方。手首の返し。相手の急所を突く鋭い軌道。まるで、誰かに教わったかのような知識が、神経を伝って指先に流れ込んできた。
「え、えぇええ!」
身体が勝手に反応する。拾った枝を、まるで熟練の騎士のように軽やかに旋回させた。空を切る鋭い音。自分でも驚くほどの滑らかさで、身体が動く。
「……すごい。これなら、何が来ても戦えるかもしれない」
僕は剣士の才能がある感じなのだろうか。枝を腰に差すようにして、再び歩き出した。ふと、頭に違和感を覚え、手を伸ばす。指先に触れたのは、手のひらよりもはるかに大きい、複雑な形をした一枚の葉だった。
「なんだこれ。さっきの巨大な木の葉っぱ?」
葉をじっと見つめる。すると、視界の端に半透明の文字が浮かび上がった。
【世界樹の葉】
解説:世界を構成する魔力の源、世界樹から落ちた希少な葉。微細な魔力を帯びており、触媒として有用。
「うわっ!」
思わず声を上げて、葉を落としそうになった。今度は間違いなく、空中に文字が浮かんだ。
「これって……本当にゲームみたいな感じじゃないか!」
心臓の鼓動が一段と早くなる。こうして鑑定のような能力まであると分かれば、もうワクワクが止まらない。さっきの目覚めたところにあった巨大な樹。あれが世界樹だとしたら、ここはまさに物語の舞台の中心だ。
「よし、進もう。どんな魔物がいるのか、どんな街があるのか……全部見て回らなきゃ」
僕は拾った枝を振り回しながら、森の奥へと足を踏み入れた。不安はもうない。この技の能力で倒せる気しかしないからだ。足元には見たこともない草花が咲き、木漏れ日が地面にきれいな模様を描いている。一歩進むたびに、世界が新しい表情を見せてくれる。ただの大学生だった僕が、今は銀髪の少年の姿で、この未知の世界を歩いている。この先に何が待っているのか。あるいは、僕の本来の姿はどうなったのか。今は考えないことにした。この胸の高鳴りに従うことこそ、冒険の第一歩なのだから。
小説初投稿なので拙い文ですが読んで頂けると幸いです。
どんな感想でも嬉しいのでぜひ書いてくれると嬉しいです。誤字脱字はできるだけ無いようにはしていますがあったらぜひ教えて下さると有難いです。




