第4話
俺が主人公から逃げてから、1500年が経った。
少なくとも3000年はここに引きこもることを決めている以上、やっと折り返し地点ってところだ。
案外まだ退屈はしていなかった。
コーヒーを片手に、俺は家の玄関を開け、外に出た。
そして、少し前から置いている椅子に腰掛けた。
「ふぅ」
1口飲みながら、思う。
随分とこの辺りも発展したなぁ、と。
まず変わった1番の点といえばここから見えている大きな商会……あの時のルーキー商会の支部店だろう。
あれが出来てから、村の発展の勢いが増した。
商会には負けるものの、中々の大きさの冒険者ギルドだって建ってしまってるし、娼館まで建っている。流石に娼館は村の端っこの方だが、遠目で見た限り、働いている女性も中々綺麗な人だったと思う。
……うん。
最早これは村と呼んでいいものなのか?
後は柵じゃなく、壁さえ立てて門も用意してしまったら、普通に街と呼べる代物になるぞ。
あぁ、ちなみにだが、冒険者ギルドも娼館も代表の人物が俺にちゃんと許可を取りに来て、許可を出したからこそのこの状況だ。
まぁ、最終的には村長が出したであろう許可のおかげなんだろうけどさ。
「す、スルト様! ごゆっくりとされているところ申し訳ありません! い、今、よろしいでしょうか!?」
そんなことを思いつつ、ボケーッとしていると、冒険者ギルドの制服を着た女の子がそう言って俺の元に何か焦った様子で走ってきた。
「大丈夫ですよ。なんでしょうか?」
ま、今はちょうど暇してたしな。
それに、冒険者ギルドには1番最初に許可を出した時の約束通り情報を共有してもらうという点で役に立ってもらってるし、少し助けるくらいならお易い御用だ。
その情報のおかげで、この物語の主要キャラ達の子孫が今何をやってるのかだったりの情報がたまに入ってきたりするしな。
その情報を聞く限りじゃ、未だに俺のことを探しているしつこい馬鹿は主人公の子孫とエルフの子孫らしいが……ま、後1500年も待てば流石に諦めるだろ。
……エルフの方は長寿故にもしかしたら、という気持ちもあるが、少なくとも主人公の子孫は平気のはずだ。あいつは人間だったし。
まぁ、今はそれより、この子の話を聞いてあげるか。
「じ、実は、つい先程あちらの山に龍が降り立ったという目撃情報がありまして……」
そこから先は言いにくそうにするギルド職員。
「俺に行ってきてほしいと?」
「そ、それは……い、いえ、は、はい。……お恥ずかしながら、現在この村にいる冒険者たちでは龍を討伐することは難しく……と、当然、報酬はお渡ししますので……お、お願いできないでしょうか?」
龍か。
ピンからキリまである存在だし、見ただけで強さなんて分からないだろうから、俺に頼むのも分からなくは無い、か。
そもそも、この村付近に近づけてる時点で、1500年前に掛けた魔術の効果は通り抜けてきていることになるし、まぁまぁの強さはあるんだろうな。
「構いませんよ。今からでも行って来ましょう」
「ほ、本当ですか!? あ、ありがとうございます! 賢者様!」
……あー、そういえば、まだ賢者とか呼ばれてるんだったな。
まぁ、俺が否定しないからなんだろうけど……良いカモフラージュになりそうだし、否定する意味も無いんだよな。
まさか世界を混沌に陥れていた俺が「賢者様」だなんて呼ばれているとは想像出来るわけが無いからな。
俺自身ですらも未だに信じられてないし。
「では、行ってきますね」
「……え? ぁっ、そ、装備とかは──」
装備?
俺はこの身一つあれば十分だよ。
魔術の知識は全部頭の中に入ってるし、俺は他の魔術師と違い、杖なんか無くたって魔術を使えるからな。
まぁ、わざわざそんなこと言わないけどさ。
山に向かって歩きつつ、魔力を探る。
ん、これかな。
それじゃ、早速行くか。
話が通じるタイプか通じないタイプか……別にどっちでもいいかな。
魔力が全てでは無いとはいえ、この程度の魔力なら、俺の魔術を防ぐことは出来ないだろうしな。
「あ、いたいた」
そうして歩いていると……木々が薙ぎ倒されている場所の中心にその龍を発見した。
黒龍か。……とはいえ、大きさ的にまだ生まれて800年ってところかね。……んー、まだ子供かぁ。
これが大人な龍なら、話が通じた可能性が高かったんだが……まだ成人もしていない龍じゃ、普通に殺すことになりそうだな。
「おーい!」
【む……なんじゃ貴様は……なん、なん……ぇ?】
「今、話いいかー?」
【ぇ……は、話……? ゎ、かった。い、いいよ。聞いてあげる……き、聞く……聞き、ます……】
? なんか、怯えられてる?
まだ別に何もしていないのに……なんでだ?
まさかこいつ、龍眼持ちか?
仮にそうだとしたら、納得の反応ではある。
いくら子供であろうと、龍眼さえ持っていれば、実力差は理解できるだろうしな。
普通は若い龍特有のプライドが邪魔をしそうなものだが……それも無いっぽいし、もしかしたら、話が通じるかもな。
「この近くに村があることは分かるか?」
【う、ぅん。ここに来る途中、見たよ。……後で襲って傷を回復させようと……な、なんでもない。……そ、それがどうしたの】
「俺もあそこに住んでてさ。手を出されちゃ困るんだよ。分かるだろ?」
【ッッッ】
首をこくこくと縦に振ってくれる龍。
「分かってくれてるならいいんだ。そのまま襲ったりなんて絶対にしないでくれよ」
さっきよりも更に早く首を縦にこくこくと物凄い勢いで振る龍。
【わ、私は、こ、この辺りから、で、出ていったら、ぃぃ?】
「ん? あー……まぁ、一方的な要求じゃ可哀想だし、そうだな。お前、怪我をしてるよな?」
少し前なら、有り得なかった考えだな、と自分のことながらに思いつつ、確認の意味も込め俺はそう聞いた。外見は上手く隠してるみたいだからな。
【ぇ? ぅ、ぅん。ま、ママに殴られて……】
……親にやられたのかよ。
いや、まぁ、子供とはいえ、龍相手に傷をつけられる存在なんてそりゃ限られてるとは思ってたけどさ。
「まぁ、治してあげるよ。痛そうだし」
特に返事を聞くこともなく、俺はそのまま式を構築し、魔術を発動させた。
「ん、これで治っただろ」
【ぇっ? あ、あれ? ほ、本当だ! な、治ってる! 痛くない!】
「良かったな。じゃあ、後は帰るなり好きにしていいぞ。ここにまだ居たいなら、居てもいいし。村を襲いさえしなかったら、なんでもいい」
【あ、あなたと一緒にいる、のは……?】
「何故?」
【強い、から……。後、私、家出中、だし……】
後半は俺には全く関係のないことだが、前半は……まぁ、理解できる。
そいつが自分よりも強くて、自分を害してこないとあれば、そりゃ一緒にいる方が色々と安全だしな。
子供でも龍……しかもその中でも強い部類の黒龍なんだから、滅多に命の危機に陥ることなんて無さそうだだという点を除けば、悪くないんじゃないか?
あくまで、この龍視点の話なら、だけどさ。
「別にいいが、それを許す俺のメリットは?」
【……せ、背中に乗せられる?】
生憎とそれは俺の仲間で間に合ってるんだよな。
いや、今は死んでることを考えれば、間に合っては無いのか。
んー……でも、今の俺は引きこもりだから、背中に乗ることなんてないんだよなぁ。
「まぁいいぞ。人化は出来るんだよな?」
少し悩んだ結果、俺はそう言った。
もしかしたら、なんだかんだ人と関わるということに飢えていたのかもしれない。
龍な以上、こいつも不老みたいなものだしな。
村の住人と関わるよりは良い。
【は、半分だけなら】
そう言って、龍は一瞬で身長130cmくらいの人型になった。
腰辺りまで伸びる長い黒髪に綺麗な黒い瞳……までは良いんだが、背中から翼が生えているし、龍の鱗も細い腕に少し残っていたし、小さくはなっているものの、腰辺りからは尻尾まで生えている。
……なるほど。こりゃ確かに半分だな。
「……まぁいい。1度許したことを撤回する気は無い。人化については俺が教えてやるから。取り敢えず、村に戻るぞ」
「ぅ、ぅん!」
冒険者ギルドにこいつのことを報告したら、料理を作ってやろう。
研究したはいいものの、誰かに食べさせる機会は無かったから、ちょうどいい。
そんなことを思いながら、その龍と一緒に俺は村に戻った。




