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7.プライドなんかより我が身が大事

 何を言っているのか全く分からなかった。突然の失踪要求。てっきり「お騒がせしてすいませんでした」くらいのことを言ってどこかへと消えて行ってくれるのかと思っていた。そんな都合が良すぎることを考えていた。


「どういうことですか?校長先生」

「まんま今言ったことの通りです。消えてもらいたいのです。実は我々DABは時代遅れ、進化遅れの愚民たちと抗争中なのです。その軍隊に我々の事を話されたら困るので、消えていただきます」


 あらかじめ暗記していた事を話すように。いや、むしろここまでが台本通りだったのだろう。つらつらと言葉をつなげていく。最初から異能持ち以外は生きて返す気はなかったのだろう。いや、もしかしたら記憶を消すだけで許してくれるかもしれない。


「ちなみに皆さん。勘違いされたら困るので先に言っておきますが、私の記憶を消す能力。一日に何回も使う代物ではないので、この能力をもって消すという事はしませんよ?この後ろにいる五人に、あなたたちをこの世から消してもらいます」


 違った。終わりだ。ここで死ぬのか。いや、でも僕は特別なんだ。ここで死んだらもったいない。

 そうだ、逃げよう。

 いっそここから逃げてしまおう。

 このクラスなんてどうでもいい。先まで自分のプライドのためにも動かなかった足は、体は、逃げるために動いた。その時。


「そうだ、みんな逃げろ!今は葦名の行動が正しい!俺はいいから皆で走れ!」


 といい、加嶋が校長の前に立ちはだかる。


「…なんでしたっけ?あぁ、葦名さんか。逃げるのはよくないですね。うーん…そうですね、噺さん。葦名さんを捕まえて下さい。生け捕りじゃなくていいです。好きなようにどうぞ」


 汚物を見るような目でこちらを一瞥したかと思うと、耳を疑いたくなるような命令を下す。この命令のせいでさっきまで逃げようとしていたクラスの人たちは委縮してしまったのか、席に座ったまま動けずにいた。


「えぇ…。俺ですか?」

「鬼ごっこは楽しいですよ?」

「あぁ、そうなんだ。たしかにそんな気がしてきた」

「そして。加嶋先生。あなたは素晴らしいですね。生徒のために、どうでもいい赤の他人のために、自分を犠牲にできるんですね。うん。とっても素晴らしい。あなたはDABに入ってもらいましょう。後で能力の引継ぎを誰かにしてもらいましょう」


 と、僕にしたのとは真逆に猫なで声で加嶋先生へ話しかける。

はぁ?そんなことがあるのか?知っていたら僕だってそうしていた。何であの加嶋が何で特別に扱われるんだ?僕が特別なのに…!


僕は

僕は!

僕は?

僕は

…なんなんだ?


才能                                   も無くて

特別                                  ではなくて

自信                                 過剰が過ぎる

勇気                                言うまでもなく

技能                               全く足りていない

異能                              なんて持っていない



 あぁ…。なんとなくわかった。下手に頭がいいせいで余計なことに気づいてしまった。いや、もっと早く気付くべきだった。


 僕は特別じゃないのか。


 はは。


 よく考えたら、今までに起こっていた特別な事。すべて僕と同じクラスの人、同じ年に生まれた人にも言えるようなことだ。

 それに、僕が中心になってやったことなんて一つもない。

 僕は危機に瀕したときまったく動けなかった。今だって自問自答で自傷して、これからの解決策を見つけようとはしない。


 じゃあ…今までの僕は?これからの僕は?


 いや。


 今までも、これからも。僕には何もないのか。人生という猶予期間を空費していたんだ。


 はは、滑稽だ。荒唐無稽な今までを思い返しただけで笑いが漏れそうだ。

 いや、実際のところ走りすぎで嗚咽が漏れているが。


 いやぁ、それにしても死の間際って怖くないんだな。さっきは殺されるのが怖くて、死にたくなくて、あの場所を離れたのに。

 今までの人生を鑑みてみて、自分の命は周りの誰よりも不要だとわかってしまった。


 ほら。もう頭の後ろまで手が伸びているのに、実感がわかない。僕も布切れになってしまうのだろうか。

 もし精神の強さが布の大きさに反映されるなら、今の僕は跡形も残らないのだろう。それはそれで面白いかな。


 一世一代の自虐ネタも終わったところで、ここで人生からお暇することとしようかな。


 目を閉じる。

 足が止まる。

 思考が止まる。

 心臓が強張り、止まった感覚。いや、躍動しすぎて動きを感じられないのかもしれない。

 疲れた。

 転ぶ。

 そして、


 大きな音が鳴る。今度は銃声のような。僕の体のどこを叩けばそんな音が出るのか。僕の体には雷管なんて標準装備されていないはずなのだが。いや、そもそも触られた感覚はない。


 恐る恐る目を開ける。そこにはスーツ姿の女がいた。誰かも分からないが、少なくとも先の教室のスーツ女ではなさそうだ。



「よくここまで逃げてこれましたね、お疲れ様です。後は私たちに任せてください。あ、でも私は頼りにしないでください…」

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