9.コンプレックス精神
「手順は間違ってなかったんですよ。今ので大体分かりました。まず一つ。自由には物質を変えられない。二つに抽象的でも創造できる。三つに言葉遊びが関係してそう、な気がする。」
「え、え?何でそんな、というか今ので何がわかったんですか?」
「さっきので分かったのは、銃弾を止めるなら鋼鉄の盾や厚い壁とかでよかったはずなのに、それでも鉄製のドアを選んだ。これで自由にものを改変することは出来ない可能性が出てきました。いや、ブラフかもしれませんが、それは考慮しておきますが一旦置いておきましょう」
…。
「そしてなぜ言葉遊びが関係していると思ったのか。それは、今までに変えてきたものの名前にあります。銃弾、“たま”は“まと”に。“まと”は“とびら”に。そして…“つかま”さんは“マント”になった。ここまでで分かったのが、しりとりでものを改変させているということがわかりました。これもブラフの可能性がありますが、頭の中に入れておけばいつでも対応できる程度です。多分」
僕の頭の中はクエスチョンマークで一杯だ。何にも解らない。ここまでの推理をあそこまで追い詰められた中できるのかが。
さっきまでの僕の精神を反転したらこうなっていたのだろうか。
僕がこの女だったら、今までの状態を冷静に乗り越えていただろうか。考えてしまう。
「すごいねぇ。流石敵側期待の新星、初代ちゃん。異能を疑うほどの異才ぶりだねぇ。まさかこんなに短時間で俺の能力を見抜く人がいるとは思わなかったよ」
そう敵を称賛する噺。さっきまでの不満そうな顔はどこへやら。屈託のない笑顔を見せてくる。八重歯が丸見えで、怖い。目が笑っていないかもしれない。マスクをすると表情がわからないというが、目も同じ。見えない、わからないは怖い。
「あなたに褒められてもうれしくないですよ。でも、能力を見抜いたってことで私たち見逃してもらえませんかね…?」
「だから、君は逃がしてもいいって言ってるじゃん。そこのが俺の目的だから」
「じゃあ交渉決裂ですね。私はこの子を守らないといけないんです」
なぜ守らなければいけないのだろう。まぁどうせ義務的な事だろう。
「そっかぁ…。じゃあいいような気がしてきたなぁ…。どうしようかな…」
と、噺の心が揺れ始める。え、この人押しに弱いじゃん。もう一押し!いけ!初代さん!
先までの異様なまでの自尊心と自己肯定感はどこへ行ってしまったのか。恥ずかしい。今の腰巾着のような状態もだけど。
「わかりました。じゃあこうしましょう。君、名前は?」
「ぼ、僕ですか?僕は、」
小さな声で、噺に聞こえないように、
葦名です。
と名前を伝える。名前を聞かれて噺に縄とかに変えられるのは嫌だから。もしそうなったら神は非情すぎる。
死んでも死にきれない。いや、死ねなくなるのかもしれない。それはそれで滑稽すぎて面白いかも。
「噺さん、この子の名前は葦名というので、その的をトナーに変えてください。そしてそれを何か好きな“な”のつく物を作ってください。それでどうにかここは収めませんか?」
普通に噺に名前を教える。小さな声で言った意味はなかったらしい。
「あー…それは無理だ。延し棒は変えられないんだ。それに俺は固形物じゃないものは作れないよ」
「そうですか…。じゃあ、どうしましょう」
「あぁ、そうだ、俺に弾撃ってよ」
「わかりました」
パァン。一発撃つ。こんな会話一生聞けない。というか、さっきまで敵同士だったはずなのになんかいい感じに意見出し合って意気投合している。
不思議な感覚だ。さっき束間を布…もといマントに変えた人間が、目の前で僕を助ける算段を立てている。本来なら束間を改変された憎悪の一つや二つ沸いてもおかしくないはずだ。
ただ正直なところ、あの頃の僕の言葉を借りるなら、僕の身代わりになってくれただけの存在。
その気持ちは今も変わらない。
「さて、じゃあこれで俺は戻るよ?」
「なるほど、“たま”、“まびきな”、“なわ”ですか。しりとり得意なんですね」
「まぁ、人並み以上にはねぇ。この異能手に入れたら、嫌でも上手くなるよ」
「そうなんですね。…その能力嫌いなんですか?」
「…一つ教えてあげる。能力あてたご褒美。僕は異能だけど、ほかの異能に比べて別に異常じゃないんだ。」
そう意味深な言葉を吐いて、僕が前にいたクラスへと消えていった。
【前】だって。もう自尊心なんてあったものではない。いっそ過去の事にしてしまおう。自分のせいで自分の過去がコンプレックスになってしまった。
複雑怪奇。




