クリスマス
1985年12月25日、クリスマス。誰と会う約束もない。母さんは継続的に仕事に行くのが困難になり、仕事を辞めさせられてしまった。今、必死で新しい仕事を探している。さすがの私もバイトを始めた。クリスマスだと言うのに、スーパーでレジ打ち。へっくしゅん!!
ピンポーン
人見『・・・。』
母『はい、白瀬です。』
人見『あの・・・人見・・・です。』
母『色葉はバイトですよ。』
人見『・・・お母さん。一度だけでいいので・・・改めて、俺の姿を見てください。』
母『・・・。』
ガチャ・・・
人見は私の母に頭を下げた。
母『あなた・・・本当に、あの人見くん・・・?リーゼントで気怠そうな制服を着てた・・・。』
人見『はい。心はまだ未熟かもしれませんが、外見だけは整えてきました。色葉と付き合わせてください。』
人見はさらに深々と頭を下げた。
母『人見くん・・・。』
人見『俺は色葉に惚れたんです。色葉と付き合う許可を・・・ください。』
人見は母が優しく背中を叩くまで頭を下げ続けた。
母『人見くん・・・顔を上げて。』
人見『・・・。』
母『人見くんが本気で色葉を愛したいという気持ちは伝わりました・・・でも・・・。』
母は言葉に詰まった。男は女を得る為には、嘘の仮面を被るという事を身をもって味わっていたからだ。
人見『・・・わかりました。もう色葉には・・・。』
母『待って。あの子の良いお友達のままでいてくださいね・・・。』
人見『・・・はい。』
母『あの子は・・・駅前のスーパーで働いています・・・。』
去ろうとした人見は一瞬だけ立ち止まり、母の目を見て頷いた。
私『お会計、1800円になりまーす。』
何時だ・・・そろそろ交代の時間・・・お客様あと一人くらい行けるか・・・。
私『あ・・・。』
人見『バイトお疲れ。このケーキ、一緒に食おうぜ(笑)』
今日の最後のお客様は人見だった。小さなケーキを持っていた。
私『その髪、違和感あるよ。』
人見『そうか?冬休み明けたら、戻すけどな(笑)』
私『小さな町で普段は何でもない通りだけどクリスマスは、少しだけロマンチックになるんだよね、この通り。』
人見『ここに座ろうか。』
私たちは駅前のベンチに座った。
私『そういえばケーキを一緒に食べようって言ったよね。早く帰らないとマズいんだけど・・・。』
人見『少しくらいなら大丈夫だって。ははは・・・フォークもスプーンもなかったな・・・。』
人見はケーキを素手で持った。
人見『汚いけど、半分かじってみろ(笑)』
私『クリスマスだよ。恋人っぽく・・・あーんして(笑)』
あーん・・・ぐちゃ
人見『ははは、頬にクリームが付いてる(笑)』
私『ええい!!人見もあーんして!!』
人見『うへ、俺の頬にもクリームが(笑)』
お互い、頬と指ににクリームがついちゃった。それを取り合う様は恋人みたい。
私『もしかして、改めて私に興味が湧いてきた?』
人見『・・・俺たちは良い友達だ。』
私『そう・・・お、女としての魅力が無いのかな、私。』
人見は笑いながら、私の頭を撫でた。
人見『何、つまらないこと言ってんだよ。俺が友達にする女は良い女に決まってんじゃん(笑)』
私『それなら友達を越えた関係になってもいいんじゃ・・・。』
人見『・・・。』
私『早く家も出たいんだよね。母さんは、私のことなんか全然考えてないんだもん。私が稼いだお金を徴収するし、大嫌い。』
人見『全然、考えてないなんて・・・ないと思うぞ・・・親も心配しているかもしれない、そろそろ家に送ろう。』
私『待って・・・。』
人見『ん?』
私『クリスマスプレゼント。』
キスしてやった。
これでも、ダメならもういいや・・・良い友達でいいや・・・。
私『ケーキ、美味しかったよ。値段や大きさじゃないよね。クリスマスにケーキなんて初めてだったから嬉しかった。だから・・・。』
人見『顎にでっかいクリーム付けて何言ってんだよ(笑)』
私『あっ!?ちゃんと取ってよ、もう!!』
人見『ははは・・・帰ろう。』
人見は笑いながら私のキスをはぐらかした。やっぱりダメなんだ・・・新島先輩に続き・・・はあ・・・。
家の近くで人見と別れた。キスするのが、ちょっと遅すぎたのかな・・・まだ、粋がっているときにもう一度、キスしてみれば良かった。停学中とか・・・。
ガチャ
母『おかえり・・・ご飯いる?』
私『え。いるに決まってるじゃない。冬休みなのに労働してんだもん。』
母『そう・・・そうよね・・・ご飯作るから待ってて。』
母さんは台所へと行った。ふふふ・・・今は、私だけが家庭にお金を納めてるから母さんを扱き使えるのだ。気分爽快。今までの鬱憤を晴らすいいチャンスだ・・・あれ?
母『・・・。』
母さんも歳だからか背中が小さく見えた。少し震えているようにも見える。
私『母さん・・・?』
母『・・・な、なに?』
私『ごめん、何でもない。』
この時、何故泣いてるの?と聞いていたら、私の人生も変わっていたかもしれない。良い方向に・・・。




