美知の悩み
ワーッ!!キャーッ!!
私『うるさいな・・・もう・・・。』
葉『パパはまだ?』
私たちはサムに招待されてライブを見に来た。でも、私は周りのノリについていけなくなっていた。元々、こういう場は好きではなかったけれど、今まで以上に場違い感が辛い。だから、公子を誘った。
公子『パパは時間的に後半じゃないかな。』
俺のソーセージにかぶりつき・・・
私『ワーッ!!ワーッ!!葉、耳塞いでっ!!』
公子『大丈夫だよ(笑)教育ママ志望?優だって意味わからずに聴いてるんだから。』
私『ああ・・・このまま、ずっと正面からはきついなあ・・・私たちは裏でライブが終わるの待ってようかな。』
私は葉の手を握りステージの裏へと向かった。幸い、サムがスタッフに話をつけてくれていたみたいで、難なく入れた。
葉『あ、パパ!!』
佐村『あれ、もう来たのか?』
私『公子は楽しんでたみたいだけど・・・私は頭痛が・・・あっ、仲谷さん。』
仲谷『久しぶり。子供、大きくなったね。』
私『もう5歳なんです。葉、ご挨拶して。』
葉『佐村葉です!!』
公子『やんちゃそうね(笑)』
佐村『ライブが終わったら実家に行くけど、美知ちゃんとは連絡ついたのか?』
私『繋がらないのよ。直接会ってみよう。運良ければ葉を預かってくれるかも知れないし。』
ジャーッ・・・
宮地『今夜は何作ってくれんの?』
美知『・・・もう、別れたい。』
宮地『あ?』
美知『か、顔にまでアザが出来ちゃったし・・・まだ、半年なのに・・・。』
宮地『お前がトロいからだろ。』
ガンッ!!
美知『痛・・・あ、お母さん・・・。』
宮地『本当に別れたいのか?』
美知『うう・・・。』
プルルルル・・・プルルルル・・・
ピッ
私『あ、まだ留守電か・・・美知?お姉ちゃん。午後にサムと葉を連れて実家に帰るからね。折り返し電話ちょうだい。』
ピッ
宮地『姉ちゃん、来んの?』
美知『うん・・・わ、別れてくれるよね・・・。』
宮地『こんなに充実してるのに別れるわけないだろ。じゃあな。』
美知『・・・。』
ガチャ・・・
ライブが終わり、公子と別れて車に乗り込んだ。
佐村『どうだった?』
私『まあ、良かったんじゃない・・・か、カッコ良かったかな・・・ははは。』
葉『カッコ良かった!!』
佐村『だろ(笑)時には俺のライブも見に来いよ。な?な?』
こちとら、そのライブを見にいく時間がないのだ。確かに改めてカッコ良いと思えたけど、現実でもカッコ良いと思わせて欲しい。今日の歌詞の男みたいに。
佐村『よーし、久しぶりに外食でもするか(笑)美知ちゃんとも連絡つかないんだろ?焼肉とか食べたいよな、葉。』
葉『食べたい!!』
私『ダメダメ。ちゃんと夕食の材料は持ってきてるんだから。美知が不在でも、合鍵があるから心配ご無用。それに、サムは飲酒運転になるから、お酒も飲めないよ。』
佐村『焼肉じゃなくてもいいよな?』
葉『うん。』
私『だから、ダメなものはダメなの!!』
毎日、毎日、栄養のバランスやメニューのバリエーションを考えて夕食の準備をしているのだ。よっぽどのことがない限り、焼肉なんて許すもんか。
私『贅沢はロックの敵なんでしょ。』
バンドをやめて、サムの懐が寂しかった頃の自慢の言い訳だ。後に結婚のために貯金していたことが発覚したときはカッコ良かった。今では、その貯金も自分の夢に消えてすっからかん。普通の生活は維持出来ているけれど、無駄な出費は取り締まらなくちゃ。
プルルルル・・・プルルルル・・・
ピッ
美知『お姉ちゃん・・・今日は都合が悪くて・・・。』
私『えー。でも、もう家の前だよ。』
美知『えっ、ま、待って・・・。』
ガチャ・・・
私『ただいまー。』
佐村『暗いな・・・美知ちゃん?』
美知『ごめん。け、化粧してないの・・・。』
いつも、薄化粧のくせに、美知は化粧室へ入っていった。サムにすっぴんは見られてるじゃない。
佐村『なんか、逃げるように入っていかなかったか?』
私『そう?もう今日は外に出ないだろうから、私は化粧落とそうかな。』
そのとき、葉が私の腕を掴んだ。
葉『ママ、お婆ちゃんが。』
私『え?』
電気を点けて葉が指差す方を見てみると、母さんの写真が落ちていた。
美知『どうしよう・・・このアザをお姉ちゃんや佐村さん、葉くんに見られたら・・・。』
ガチャ・・・
美知は顔を隠した。でも、アザだらけの脚と腕は隠し切れていないみたい。
私『どうしたの・・・?』
美知『な、なんでもないよ・・・。』
私『お姉ちゃんにはわかるよ。妹が傷ついてることくらい。』
美知『やめてよ・・・中学生じゃないんだから・・・。』
美知はそう言いながらも、私に泣きついてきた。深刻そう。
佐村『ママはパパの悪口なんか言ってないか?』
葉『うーんとね・・・プカプカやめてほしいって。』
佐村『プカプカって、プカプカ〜?』
葉『プカプカ〜。』
佐村『やめるかな・・・やめられるかな・・・値上がりするまで粘るかな・・・。』
ガチャ・・・
美知『葉くん、元気だった?(笑)』
佐村『あれ?』
私『しーっ。ちょっと来て。』
私はサムを化粧室に呼んだ。
佐村『美知ちゃんの顔・・・。』
私『彼氏に暴力振るわれてるみたいなの。』
佐村『俺は人見じゃないから、そいつにガツンとなんて言えないぞ・・・。』
私『そんなことしなくていいよ。関係を続けさせる必要もないし。ただ、男はそういう奴ばかりじゃないってことを示して欲しいんだ。男はみんな、そうなんだって思い込んじゃってるみたいで、耐えてるみたいなの。』
佐村『男の風評被害が増えるのか・・・。』
私『そう。それのせいで変な女の宗教まがいのモノに勧誘されても困るからさ。私も時々、サムに腹立つことがあるけど、さすがに暴力はないじゃない?』
佐村『腹立つことはあるのか・・・。』
私『それはお互いさまだからね。友達同士でも腹立つことくらいあるよ。そっちも、私に腹立つことあるでしょ。』
佐村『可愛げが薄まってきたような・・・。』
私『ほら、お互いさま。そっちは現実のカッコ良さが薄まってるよ。』
可愛げが薄まってるだって。5年も主婦やってると自然と鍛えられるのだ。15年もプロミュージシャンやっててカッコ良さが薄まるって、どういう仕組みだろう。私が知らぬ間に吸い取ってるのかな。主婦ってスゴイ。
佐村『ちょっと待て、ラブラブぶりを見せつけても逆効果だろ!!』
私『私が料理を作っている間、時間があるから美知を口説くつもりで接してあげてよ。』
佐村『大胆なことを・・・落ちちゃったらどうするんだよ!!』
私『今のサムには、そんな魔法使えないだろうから心配してないよ。炊事場からも振り返れば見えるし。やり取りは聞こえてるし。過度なスキンシップは厳禁ね。』
佐村『姉が話を聞いてあげた方がいいんじゃないか?』
私『私は模範的な姉じゃないし・・・美知にも嘘をつき続けてるし・・・。』
私には血の繋がった妹にさえ話せない過去がたくさんある。それを理解してくれたのはサムだけだった。人見も私の過去を理解してくれてはいたけど、根底に不良気質があるから、結ばれたら束縛気味になるんじゃないかという心配があった。故人を悪く言うつもりはないけど・・・。
サムは炊事洗濯掃除、家庭のことは何一つ手伝わないけれど、私にそれらを強要することもない。あくまでも、私は自らの面子のために頑張ってるだけ。強要されたら、美味しいご飯も作れるワケないじゃん。もしかしたら美知は強要されてるのかな・・・それで失敗して殴られての繰り返しならば、別れさせなくちゃ・・・真面目に生きている美知の将来にも多くのモザイクがかかるかもしれない。
葉『脚のそれ、どうしたの?』
美知『ちょっと転んじゃって・・・ははは・・・。』
ガチャ・・・
サムは美知の隣に座った。私は夕飯の支度を始めた。
美知『あ、手伝うよ。』
佐村『なあ、そのアザどうしたんだ?』
美知『えっ・・・か、階段で転んじゃって・・・。』
佐村『見かけによらずドジなとこあるんだ(笑)』
美知『うん。そうかもしれない(笑)』
いいぞ・・・とりあえず、笑いかけてあげれば大丈夫だって説得したんだ。
佐村『最近、恋とかしてる?色葉が結婚したときの年齢に近づいてきたから、近況が聞きたいんだよ。』
美知『近況・・・ですか・・・。』
あー・・・私が結婚したときの年齢なんか、出さなくてもいいのに・・・焦って、何も考えずに結婚なんか決めちゃったらどうすんの・・・。
佐村『俺さ、こう見えて恋愛経験少ないんだよ。二人だぜ?ロックやってるくせに(笑)』
美知『・・・私も二人だけなんです。お母さんの面倒を見る必要があったから休日以外は仕事が忙しくて・・・。』
うーん・・・葉が邪魔かな・・・サムの監視に一役かって貰おうと思ったんだけど、美知が葉を気にしちゃって話のキレが悪い。
私『葉、ちょっと来てー。』
葉『やだー。』
佐村『行ってこいよ。ほら。』
ポンポン
サムが葉のお尻をポンポンしてくれたおかげで葉が来てくれた。
美知『葉くん、偉いですね。』
佐村『当然、俺も育ててるつもりだけど、どう足掻いても、色葉の方が葉と接する時間が長いだろ?だから、褒めるなら色葉だよ。』
美知『仕事の都合で時間がないっていうのは良くわかりますよ。』
サムはミュージシャンだから、美知よりは時間が余ってるはずなんだけど・・・。
佐村『もし、結婚したら仕事はどうすんの?』
美知『結婚しても仕事は辞めないと思うけれど、妊娠したら辞めるかも・・・。』
佐村『ならば、相手はよーく考えないとな。俺みたいな男とか(笑)』
ちっ。
美知『佐村さんは厳しい人ですか・・・?料理の味が変わったり、ほこりが溜まっていたりしたら・・・。』
佐村『あ、俺はそんなの全然平気だよ。大抵の男はそんなもんだって。自分なりにスパイスを調合して作った自慢の手作りカレーと市販のルウを使って作ったカレーの違いなんてわからない。どっちも美味いって前提な(笑)』
美知『実は私、料理が苦手なんです。いつも、本を見ながら作って、それを美味しいって彼氏に褒められることもあるんですけど、数日後に作ったら味が変わっちゃったりして・・・そのときは・・・。』
佐村『ああ、話さなくてもわかる。美知ちゃんに合ってるのは、俺みたいな適当男だな。』
なにそれ。まるで、私が適当男に惚れたみたいじゃない。ムカムカしてきた。
美知『私、奥手だから探し方とかわからなくて・・・。』
佐村『じゃあ、紹介してやるよ。』
美知『本当ですか!?』
佐村『ああ。彼氏には別れるって伝えたんだろ?』
美知『伝えたけど、彼氏は別れるつもりはないみたいで・・・。』
佐村『そうか。じゃあ、どうする。』
美知『別れなくちゃ・・・。』
佐村『そうだな。曖昧にすると後が怖い。携帯で話してみたらどうだ?面と向かって話すと言いたいことも言えないだろうから。』
美知『ごめんなさい・・・休暇のつもりで来たのに・・・。』
佐村『いいんだよ。彼氏には一週間、俺らが居るって言っておきな(笑)臆病な奴は、その間、来ないだろう。』
夕飯完成。大丈夫かな・・・美知。




