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Takt  作者: 快流緋水
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靄の結果

 掠夜は動かぬ都を見下ろす。生まれてくる黒い力を面白がっていたのだが,その力の靄に巻かれて自分を見失っていた。

 制御していない黒い力に惑わされたのだ。

 それをしてのけた都の潜在的な力を惜しく思いつつ,また憎い。だが,力を見破り,指揮棒から逃れた玻紅璃とはまったく違う。胸のすくような,あの高揚感はない。水と油のように。染めたくも,染まりたくもない。到底相容れないあの性格はいらない。仲間になんてしたくない。もちろん,都自身も彼らの輪には到底入れないだろう。

『玻紅璃,生き返らせてくれるか?』

意外な言葉に目を見張る。それを見た掠夜は苦笑をもらす。

『処理が面倒だ。』

いかにも掠夜らしい言葉に苦笑しつつ,疲弊感が募る身体に力を入れて弾き始めた。曲は坂本龍一作曲の『energy flow』だ。ゆるやかな,癒しの音色が広がり,段々と都の顔は赤みさしてきた。曲が終わる頃にはうっすらと目を開けられるようになり,終われば起き上がれるようになった。殺され,そして生き返らせられた自分の震える身体を抱きしめ,力を使った玻紅璃を見る。

『なぜ?』

『籠に戻ったらいかがですか?』

揶揄する言葉だが,都は抵抗しなかった。うなだれ,泣き始めた。

『帰れというのですね?』

『ここにいても意味がないでしょう。まだ家に帰った方がマシだと思いますけど。』

都は涙の浮かぶ目で掠夜を見る。だが,すぐに逸らしてしまった。

 ここでようやく悟ったのだろう。

 自分が見てきた掠夜が幻想であったことに。惑わせてでも引き寄せた彼は,底なし沼のようにひやりと冷たい。

『葵,力と記憶を吸い取ってくれ。』

『はい。』

倒れていたチェロを持ち上げ,弦を弾いた。子守唄は優しく響き,都から力と記憶を吸い取っていく。都の目は焦点が付かぬようであった。葵が弾き終えると,今度は醒が歌い始めた。声ならぬ声だけに,都にはなんだか分からぬようでぼんやりとしていた。だが,5人はしっかりと聞こえていた。『オペラ座の怪人』だ。

 じきに都はゆっくりと立ち上がり,そのまま階段を下りて館から出て行った。門からも出たのを確認し,近所の記憶もいじくってから,ようやく6人はため息をついた。これで証拠も残らずに事終えた。

 階下にいた醒と玲と葵と侑は階段を上がり,お互いの無事を目でしかと見る。

『また玻紅璃に助けられたな。』

醒は彼女の頭を撫でて感謝する。

『ほーんとよね。しっかしあの女はむかつくわね!!』

声だけで,獲物を仕留めたあとに声を掛けてきた人だと見抜く玲のしつこさも凄いが,よほど腹が立っていたのだろう。

『あれが,力があると思って入れてみたって人なわけ?』

責める目を向けられ,掠夜と醒と玻紅璃は肩をすくめる。確かに力があると思って入れてみた。だが,結果がこうなるとは思ってもいなかった。

『まぁ追い出したんだから許せよ。』

『今後注意して欲しいわね。』

『そりゃするけど,全て見通せるとは思うなよ。』

『やすやすと口にする力じゃないから,全て見通すべきよ。』

『まぁまぁ玲さん,落ち着いて。』

葵が止めに入ると,思わずそちらを睨んだが,ひるむ彼を見て玲はため息をつく。

『はいはい,もう言わないわよ。』

『玲は,葵には甘いよな。』

侑に図星をつかれ,顔を赤らめる。

『いいでしょ,もう。』

『じゃあおれはもう帰ろうかな。準備があるし。』

昨夜送別会をしたのが嘘のように,時間を長く感じられた。

『ねぇ?掠夜が昨日来れなかったのは,さっきのあの女に捕まっていたから?』

掠夜の眉間にしわが寄る。

『意外だな,掠夜が引っかかるなんて。』

さらにしわが寄る。あまりに遠慮のない言葉に,不機嫌はつのるわけだ。

『言い訳はしないが,あの力は惜しかったよ。力だけだがな。』

それほど強い力だったのだと言っているのだが,侑は肩をすくめて笑った。

『ま,誰だって見当が外れるって事はあるんだし。これから気をつけてね〜。』

『お前もな。留学先で寝首かかれるなよ。』

掠夜らしい送り言葉を背に,侑はさっさと帰ってしまった。

『玻紅璃,大丈夫?』

玲は椅子に座ってぐったりしている玻紅璃の背をさする。

『前は倒れちゃったけど,今日は平気です。ありがとうございます。』

『そう,良かったわ。じゃあ私も帰ろうかな。玻紅璃はすぐ帰る?』

『いえ,もう少し休んでから。』

『掠夜,頼んだわよ。醒,送ってね。』

当たり前のように言い,醒は苦笑しつつうなずいた。

『お前らしからぬ失態だな。だが,時には薬になる。』

『ああ,もっと目を養うよ。』

『そうだな。じゃあまた。』

2人を見送り,それから玻紅璃は床に身を伸ばした。

『やはり辛いか?』

5人を生き返らせ,1人を死なせ,また生き返らせたのだ。相当な力を使っている。だが,綾子のときと比べると,数段と力が上がっているので気を失うことはなかった。

 掠夜はそっと玻紅璃を抱き上げ,部屋に連れて行った。

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