表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Takt  作者: 快流緋水
38/42

歪んだ想い

 醒は車線変更を何度もして走らせた。無謀な運転だが,とにかく急がなくてはならない。

いつもの時間のおよそ半分くらいの時間で掠夜の家に着いたのだが,醒はそれでも倍以上に掛かったように思われた。

 乱暴に駐車し,玻紅璃は急いで下りて玄関のドアを開ける。

 このときに気付くべきであった。ドアノッカーを叩かなかったのに,重い扉が開いたことに。

 間に合わなかった。

『掠夜,いるんでしょ!?』

入るなりそう叫んだのだが,反響する自分の声しか聞こえない。

『掠夜!?』

これだけ叫べば出てこないはずはない。掠夜自身が出てこなくても,なんらかの反応はある。

そして,今ならば都が出てきてもおかしくないのだ。だが,何の反応もない。

『どうしよう,醒さん!』

振り返ると,醒はさらに驚いた表情を浮かべた。

『玻紅璃!?』

玻紅璃が着ているワイシャツの左胸あたりが赤く染まっていたからだ。

『どうしたんだ?』

あまりの形相に,自分を見下ろす。

『嘘……。』

赤く染まっている部分を触るが,濡れることはない。だけど,そのしみは少しずつ広がっていく。水色のワイシャツに赤いしみが広がる様は不気味だ。

『掠夜!』

2人は階段を駆け上がろうとするが,その手前でストップする。しっかりとした黒い力が近付くのが分かったのだ。

 掠夜ではない。

 都だ。

 アンティークのナイフを手に,2階から見下ろしている。

『早かったですわね。』

何の感情もない,気鬱な声。醒は玻紅璃をかばうように前に立つ。

『かばう必要はありませんよ。玻紅璃さんは最後ですから。』

『掠夜を殺したのか?』

今までの都からは想像出来ない位の蔑んだ表情を浮かべ,信じられないほどの速さで階段を下りたと思ったら,まっすぐに醒を刺してきた。

『醒さん!』

避けることも抵抗することもなかった醒は,玻紅璃に支えられながら立つ。

『玻紅璃,任せたぞ。』

それだけ呟き,事切れた。目の前で刺殺された醒をなんとか床に横たえ,都と対峙する。

『私を最後って言うけれど,どうしてですか?』

『みんなが死ぬのを見て,苦しめばいいからですわ。』

よどみなく返すのは,以前の都からは想像出来ない。

『殺すのはあなた。私じゃない。苦しむことなんてないけれど。苦しいのは都さんの方でしょ,掠夜を殺したんだから。』

冷たく返す。すると都はすねたようにそっぽを向いた。

『何をおっしゃっても,強がりでも,掠夜さんは渡しませんわ。』

『掠夜は私のものじゃないわ。欲しいならどうぞ。』

あまりの言われように,今度はにらんでくる。

『やっぱり私を殺すのは,今の方がいいと思うけれど?』

『そうでしょうね。でも,取っておきますわ。掠夜さんのあとをすぐに追わせたくないもの。』

くだらない,というため息をつき,玻紅璃は階段に座って目を閉じた。都は玻紅璃のあまりの態度に腹を立たせながら,反対側の階段に座った。

 2人が座って20分ほどたった頃。ドアノッカーが荒々しく叩かれ,駆け込んできた。それとほぼ同時に都が玄関まで行き,ナイフを突き出す。

 まるでナイフに刺さるために入り込んだのは,侑であった。おそらく人がいることには気付いたであろうが,手にナイフを持っていることには気付かなかったのだろう。そのままナイフは吸い込まれるように,侑の腹部に深く刺さった。衝撃と逆流してくる血に目を見張り,声もなく倒れた。

 都は表情を変えず,階段に戻る。玻紅璃も何もせず,ただ座っていた。

 ドアノッカーが叩かれた。堂々と入ってきたのは玲だ。最初に目に付いたのは侑の遺体。血の匂いとその姿に眉を顰め,玻紅璃に近寄る。

『どういうことなのよ!?』

『都さんのせいですよ。』

『都!?』

記憶にない名前を繰り返すと,本人が返事をした。振り向くと,数メートル先に都が立っていた。

『私のことですけれど。』

玲の形相が変わる。

『あなたなのね!?』

玲の記憶に引っかかった声。それは,獲物を落としたあと,詰め寄ってきた女性の声であった。

『玻紅璃,どういうことなのよ!?』

もう1度同じ言葉で,しかし内容の違った問いを突き詰めるが,玻紅璃の元に行くまでに前のめりに倒れた。背中から刺されたのだ。

 玻紅璃は助けもせず,じっと座っていた。その姿をおかしく思い,都は近寄る。

『なぜ何もしないの?』

『邪魔をしないだけ。』

『私のためだと言いたいんですの?』

『それだけじゃないです。自分の力を知っているから。』

『どういうことですの?』

そのとき,ドアノッカーが叩かれ,葵が入ってきた。あまりの惨劇を目の前にし,顔が歪むが,ナイフを持った都を見て,すぐにチェロを出して力を吸い出した。

だが,その前に事を切らされてしまった。

『私の番ですね。』

その声を無視して都は階段を上っていった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ