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トカゲルーム  作者: Lin x
5/7

侵入者からの依頼

「初めは、なんてことない事故だったんですよ」


壁に寄りかかり、林君は静かに口火を切った。


_.________________________._____________________



昨日の事。


4月12日木曜日、晴天。


「お前ら、はやくこっち来いよ」


「ちょっと待ってよ~」


「わー」


「ぎゃあ――――――――」

たくさんの生徒たちであふれかえる、昼休みの校庭。その一角で、智也達1年生の男子達はサッカーに興じていた。


智也は運動神経がいいわけではないのだが、幼いころから習っているサッカーだけは大の得意だ。特にディフェンスの手腕については特筆すべきものがあり、相手のボールをいとも簡単に奪ってしまう。

しかし、この日の智也はいつもの調子が出なかった。前の日に風邪をひいていたのがたたったのか、思うように足が動いてくれない。ゲーム開始からほどなく、相手のチームのエースである芹澤にゴールを許してしまったのだ。


くそ、もうちょっと調子が良ければなぁ…


悔しさから短い髪をかきむしりながら智也が前を向くと、すぐそこで芹澤がボールを受け取り、こちらに向かってドリブルしてくる。ここで自分が止められずにもう一点ゴールされてしまえば、チームから非難の目で見られるのは火を見るより明らかだ。


絶対、止めなければ。


芹澤からボールを奪おうと慌てて伸ばした智也の足が、滑った。


「痛ってぇ……」


慌てて起き上がると、芹澤がうずくまって右足を抑えている。どうやら、智也の足が芹澤にからまり、すっ転んでしまったみたいだ。


「芹澤、大丈夫か?」


「大丈夫だけど…痛いわ」


笑顔をつくって立ち上がろうとしているのは分かるが、余りの痛みに思わず顔が歪んでいる。


「芹澤、お前大丈夫なんかじゃねえよ! 保健室行こうぜ」


慌てて手を貸して芹澤を立たせ、ふらふらしている彼に肩を貸してよろけながらも、智也は保健室へと急いだ。


「あらー、足をかなりひねっちゃったみたいね~。外であんまり無茶して遊んじゃいけないでしょ?」

保健室の坂本先生が、手早く芹澤の足を手当てしながら二人に注意する。


「この後の授業で大人しくしてれば、なんとか良くなると思うけど…次の時間、なにあるの?」


「体育でs」


「はい、保健室で休んでてね」


…坂本先生、満面の笑顔だけど、怖っ。


「ちぇ~。体育、出たかったのにな~。智也、後藤に俺が行けないって伝えといてな…」


芹澤は、智也と違いスポーツなら何でも出来る。体育の時間が大好きで、だから授業に出られなくてこんなに落ち込んでいる。


悪いことしちゃったな、と反省しながら智也が時計を見ると、もうすぐ授業が始まる時間だった。


「いっけねー、もうすぐ授業始まるから、俺行くわ。芹澤、ほんとごめんな」


智也は芹澤に手を合わせると、教室に駆け出して行った…



「今日はリレーの選手の選考会を行う」


授業始まって早々体育教師の後藤がそういった時、クラスは思わずどよめいた。


5月にある運動会の最終種目、学年別対抗リレー。各クラスから足の男女2人ずつが出場するこのリレーは毎年運動会の花形だ。足の速くない智也にとっては縁のない世界だが、選手に選ばれた人たちは小学生のころからクラスのヒーローだった。智也は二歳上の姉、美沙から中学校のリレーが小学校の頃の比でなく盛り上がると聞かされていたし、他の友達もどこからかその盛り上がりっぷりを聞かされているのだろう。


でも、小学校からの付き合いの深い生徒の多いこの中学校で、誰が選手の座をとるかなど、大体決まっているようなものだった。女子は平岡さんと稲生さんかな、それとも前田さんかな、でも男子は馬場と芹澤で…あ!


「先生、言い忘れていましたが今日は芹澤君が体育の授業に来れません。ですから今日は選考会、出来ないと思います」


「え、芹澤そんなに酷く怪我したの?」


「智也~、お前芹澤に何してんだよー」


サッカーを一緒にしていた男子達が、ちょっと非難のこもった目で智也を見る。スポーツの出来てひょうきん者の芹澤はクラスの人気者。智也はどちらかと言うと真面目で、たまに男子達から煙たがられるようなところもあった。まあ、それは整った顔立ちをしている智也への当てつけ、でもあったのだが。そんな智也が芹澤を怪我させたという事で、皆余りいい顔をしていないんだ、とは、智也自身でも分かる。悔しいが、智也はうつむいて黙っているしかなかった。


「おい、みんな、黙れ! 芹澤がいなかろうが、今日選考会をするのは決まっている。もう日程がないんだ。今日のタイムで、選手を決める。いいな?」


後藤の話に、みんなのどよめきが強まる。


「そんなのありかよー」

「芹澤が可哀そうじゃん」

「ふこうへいだとおもいま~す」

エクセトラ…


うだうだしている間に、先生は準備をぱぱっ、と整え、準備の出来ている人からタイムを取っていった。


やべぇ…


智也は、のろのろと走るのを待つみんなの列に加わりながら、考えていた。


芹澤が俺のせいで選手になれなかったって言ったら…


智也はこのまま逃げ出したいような気分に駆られたが、そんなわけにもいかない。


気が付いたら、前に誰もいなかった。


次、俺が走る番じゃん!


横を見ると、横山海斗がスタートの準備をしている。海斗はかなり足が速い。芹澤がいないなら選手になれるほどの実力だ。


「いちについて」

あ、用意しなきゃ


「よーい」

出来てないって!待って!


「どん!」

走らなきゃ!と智也は必死に全力疾走。でも足の遅い彼が俊足の海斗にかなうはずもなく、かなり差をつけられてゴールした。


かっこ悪かったな、と落ち込んだが、いつもの事だ、と立ち直った。芹澤の怪我の事で多少皆が智也を見る目は冷たかった気がしたが、気にしていないふりをして下校した。


翌日。


「え~、俺、選手になれないの…」

芹澤の悲痛な叫び声が教室に響き渡る。


「中学のリレーは盛り上がる、って楽しみにしていたのに…」


ほらみろ、お前が怪我されるから、と言うかのような非難の目がまた智也に突きささった。


「ごめん、芹澤。俺が怪我させちゃったから…」


「いいって、気にするなよ智也。お前がわざとじゃないの、分かってるしさ。選手になれなかったのは悔しいけど、来年頑張るしな」


明るい笑顔でさらっと言う芹澤。ひょうきんで軽い奴だけど、根はすごく優しいのだ。智也は芹澤と小学1年の頃からの仲で、彼の事は結構知っているつもりだが、また彼の優しさを痛感した。

ありがとう、と言おうとしたところで、担任が朝のホームルームに来た。


出席の確認のあと、担任は一枚の紙切れをカバンから取り出し、黒板に貼った。


「後藤先生からリレーの選手一覧をもらった。」歓声が沸き起こる。「しっ、静かにしなさい。これは選考会に基づいて決めたもので、どんな事があっても選手の変更はないので、文句は言わない様に、だそうだ。後でじっくり見とけよ」


本当は担任が出て行ったあとすぐにでも選手をみんな知りたかったのだが、一時間目は選択美術で西館へと急いで移動しなければいけなかったため、名残惜しく教室へと急いだ。


「え、これありえないだろ?」


智也が昼休み、給食を食べるために教室へ帰ってくると、みんなが黒板に群がって騒いでいる。忙しい授業スケジュールでリレーの事が頭からすっぽ抜けていた智也は、慌てて黒板に駆け寄った。


へぇ、女子はやっぱり平岡さんと稲生さんか。男子は?結城と…


俺?


何かの間違えかと何度も読み返しても、智也の名前だ。


視線を感じて恐る恐る振り返ると、いくつもの男子達の冷たい視線が智也を突き刺していた。これ、シメられるかも。


とっさにクラスから逃げ出すと、隣のクラスにいる幼馴染の新田佳奈と鉢合わせした。


「どうしたの、智也。なんかすっごく冷や汗かいてるけど」


「いいから…ちょっと逃げなきゃ…」


「逃げる?どこに。どうしたのよ」


早く逃げなきゃ…じゃないとおいつかれ… てた。


「あんたたち、なに智也の事追いかけちゃってんのよ」


「あれ、お前新田だっけ? お前には用、ねぇんだよ」


「智也に話したい事があ・る・ん・だ・よ!」


いや、お前たちの顔は話したい顔じゃねえだろ。どうみても俺をボコしたい顔だろ。

智也は、心の中で呟く。

ここは、逃げた方がいいな。佳奈、悪いけど、後頼むわ。


佳奈がクラスの奴らと口論しているすきに、彼はひっそりと逃げ出した。それに気づいた佳奈も、クラスの奴らが仲間同士で口げんかしているのをいいことに俺とその場を後にする。


「あいつら、いなくね?」

「逃げやがったな、あいつ」


佳奈と走りだした時、後ろの方で声がして、二人同時に背筋をびくっとさせた。先生にばれないように軽く走って逃げようと思っていたけれど、これじゃあ全力疾走するしかない。


「お前ら、校内で走るな~」

なんていう教務主任の声も聞こえた気がしたけど、そんなの気にしちゃいられない。


クラスの奴らが見えなくなったところで空いていた部屋に飛び込んで、余りの疲れに床にへたりこんで壁にもたれかかったら、壁だと思っていた扉が動いて頭をしこたま打った…


「と現在に至るわけです」


長くなったので、一日空けての投稿になりました。


はたして、先輩はOKするのでしょうか?


明日は忙しいのであさってまでには投稿したいと思います。

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