#82-EX 特別依頼の報酬
「それじゃあみんな、今回の特別依頼報酬を配るね」
ボスがそう言って、オレ達をリビングに集めた。
今回の仕事の報酬は五十万フラらしい。
確かこのパーティーでは、パーティーの共有資産とかいって報酬の一割を貯めてるとか以前聞かされた気がする。
つまりは………………一人当たり、多分数万フラぐらいの報酬だろうか?
まぁ、仕事内容も簡単だったし、日数はかかったがそんなもんだろう。
「はい、これがケージュの分ね」
「あざっす……ん?」
渡された報酬の袋が、思っていた以上にずっしりと重い。
中身を確認すると、数万フラどころではない金額が入っていた。
ふと周囲から視線を感じ顔を上げると、ボス以外のメンバーがニヤニヤと笑いながらこちらの様子を窺っていた。
「……なんだよ」
「いやぁ、アンタの混乱してる様子が面白いだけだよ」
「分かりやすいー」
「うるせぇなぁ、誰だってこうなるだろ。思ってた金額と違ぇんだぞ」
「あぁそっか、みんなで内緒にしたままだったね。さっき伝えた金額は、総額じゃなくて一人分だよ」
つまり、先ほど聞いた五十万フラは丸々一人分の金額だったってことか?
B級のクエスト報酬を山分けするよりも、随分と割がいい。
頭の悪いオレでも、不安を覚えてしまうほどに。
「なぁボス、なんであんな簡単な仕事でこんなに報酬が高いんだ?」
「それは……なんというか、依頼主であり上司(愛の神)のご厚意……かな」
まさかお人よしの上司もまた、お人よしだとでも言うのだろうか?
オレがカジノにいた時の雇い主とは、随分と待遇が違うようだ。
あの時は給料も少なかったし、残業や突然の呼び出しで人使いも荒かった。
今にして思うと、今までの礼として一発ぶん殴っておけばよかったと後悔してしまう。
ボスの雇い主がどこの誰だか興味はないが、とにかく収入が多いのは大変助かる。
孤児院のガキどもに土産を沢山買えるし、先生に酒やタバコの差し入れだって多めにできる。
「とりあえず、貰えるんならありがたく貰っとく」
「そういえば、ケージュはクローバー銀行にお金を預けないんですか?」
「クローバー銀行だぁ? なんだそれ」
「アンタ以外のメンバーは、持ち歩く以外のお金をクローバーに預けてるんだよ。だからクローバー銀行。まぁ、預けてる理由は様々だけどね」
「……ボクやルピナス、ハートは夫婦の資金として貯めてる。最近ランティアも加わった」
「お前らまだ夫婦じゃねぇだろ」
「確定事項だから問題ない」
「……そうかよ」
「ホオズキとムスカリは無駄遣いが多いし、ナグサも金銭感覚がまだまだ身についてないからね。クローバーが管理してるよ」
「はぁ……どいつもこいつも大変だな。まぁオレは色恋沙汰なんて興味ねぇし、管理も自分でできるから関係ねぇ話だな」
そう言い残して、懐が潤ったケージュは元気に外出していった。
恐らく、また孤児院に顔を出すのだろう。
人数が一人減ったリビングで、ランティアがふと思い出したように尋ねてきた。
「そういえばクローバー、ケージュに貸した金は返してもらったのかい?」
「……まだです」
自分の返答に驚いて、ルピナスが声を上げる。
「えっ、ケージュお金借りてたんですか? 全然管理できてないじゃないですか!?」
「今なら全額返してもらうチャンスだっただろうに、なんで黙ってたのさ」
「いや、ケージュのお金の使い道を考えると言い出し辛くて。孤児院の子供たちとか先生に使う分が減るのはこう……少し気の毒というか」
「ウチのパーティーからも支援してるんだ。気にし過ぎじゃないかい?」
「でもケージュは多分、自分で稼いだ報酬を使って格好つけたい部分があると思うんだ。そういうのは、なんとなく気持ちがわかるからさ」
「だったら、本人のお酒代を減らすようにさせたらいいじゃないですか」
「それは彼女のストレス発散に悪影響かなって。ごめんね、貸した金はあげた物だと思えって教わってるからつい癖で……」
自分がそう答えると、ルピナスがため息交じりに確認してきた。
「このままだと、ケージュに利用されちゃいますよ? 一体誰にそんなこと教わったんですか?」
自分は転生前の母親を思い出す。
妹や弟と共に、今も元気にしているだろうか?
久しぶりに思い出した顔につい、感傷に浸りながら声が出てしまった。
「母親だよ」
「あっ、お母さん……だったんですね。ごめんなさい、別に貴方やお母さんを責めるつもりはなかったんです」
ルピナスが申し訳なさそうな顔をして、こちらに謝罪してくる。
どうやら、こちらの世界での母親(幼少時に病死)とのやり取りだと思っているようだ。
みんなには転生や神様についてなど秘密が多いので、当然そうなってしまうか。
自分は彼女の頭を撫でながら、話を続ける。
「いいんだよ、気にしないでルピナス。自分と、ケージュのためを思って言ってくれたんでしょ?」
「いえ、全てクローバーのためだけですけど」
「……それでもさ、少しくらいケージュのためを思ってあげてる部分があったりするんじゃない?」
「ケージュは一人前の大人ですし、お金を返さないのは正直どうかと思います」
流石ルピナス。
自分に会う前はお金に苦労していただけあって、そこら辺が大変厳しい。
「少しぐらい見逃してあげてもいいんじゃないかな? ねぇみんな」
なんとかケージュの株が下がらないよう他のメンバーに同意を求めたが、誰一人として首を縦には振らなかった。
自分が甘すぎるのか、ケージュの人望がないのか、果たして一体どちらだろうか。
「ご主人様、もし気乗りされないようであれば私が取り立ていたしましょうか?」
ハートが胸を張って立ち上がってくれたが、こんな時の彼女はいつも過剰で危険だ。
メンバー同士の関係が悪化するのも避けたいため、とにかくこの場は濁して後日それとなく返してもらおう。
「大丈夫、自分でなんとかできるよ。みんなも気にしないでね」
「なんだか心配だねぇ……」
後日、この借金が原因で一波乱起きることを彼はまだ知らない。




