#1 旅の始まり-1
「あなたは先ほど、短いながらも一つの人生を終了されました。
今まで本当にお疲れさまでした」
目の前の人物がそう言った。
どうやら自分は死んでしまったらしい。
死因は思い出せないし、やり残したことも多かった気がする。
……なぜか達成感もあるが、理由はわからない。
まぁ、死んでしまったのだから後悔しても今更か。
「私は愛の神です」
眼前のふわふわとした雰囲気の女性は『愛の神様』らしい。
神々しいオーラが見えるんで、謎の説得力がある。
「これから少しお話がありますので、そちらの席で待っていてもらえますか? お茶とお菓子を用意しますので」
そう言って彼女は隣の部屋に消えていった。
(...…神様にお茶の用意などさせてよかったのだろうか?)
少ししてトレーを持った神様が戻ってきた。
そして、途中の何もないところで盛大にすっ転び、自分に向かってお茶とお菓子が襲い掛かる。
――あぁ、これは避けるの無理だな。
迫り来るお茶とお菓子を前に、抵抗は早々に諦めた。
浴びせられたお茶は不思議と熱さを感じない。死人なので温度の感覚がないのだろうか?
しかし、頭からかぶったお茶は垂れてくるし、お菓子のクリームで視界が狭まる。
気分的に嫌なことには変わりなかった。
「あの、その……本当にその……すいませんでした!」
涙目でハンカチを振り回し、めそめそ泣きながら神様がずっと謝罪を続けている。
あそこまで泣きながら謝罪されると、なんだかこちらが悪いことをした気持ちになってくる。
お茶とお菓子は諦めて、とりあえず話を逸らすことにしよう。
「気にしないでください。それより先ほど言われていたお話ってなんですか?」
「……お話?」
頭の上に大きなハテナが浮かんでいる顔をしている。
「あっ!?」
思い出したらしい。
先行きが少し不安になってきた。
「お話というのはですね、私の部下になっていただけないかな~という相談でして……」
「部下ですか?」
「はい。私たち神には、関わっている異世界ごとに一人だけ、自分の役割を果たすために働いてくれる部下を雇うことが許されているんです。それが神の部下、『神下』です。今後、あなたに神下としてお願いしたいお仕事はとってもシンプルで、とある異世界に転生していただいて、私が指定した人たちを『直接対面させる』こと。基本的には、私から指示がある時にだけ動いていただければ大丈夫です。頻度はそこまで多くありませんし、それ以外の時間は完全に自由ですので、現地で他のお仕事をされても、ゆっくり休まれても、なんでしたら恋愛をされても問題ありません」
女神様はどこか誇らしげに、胸を張ってそう言った。
「随分とその……自由なんですね。ちなみに転生ってことは赤ちゃんに生まれ変わる感じでしょうか? 正直、三十歳を過ぎたおっさんなので、赤ちゃんらしく振舞えるかどうか……」
「そこはご安心を、そんな方向けの転生方法がありますので! 生まれてから成人年齢までは、あなたの人格をコピーした分身に生活を送ってもらい、あなた自身は、その成長した体や知識・記憶などを引き継ぐだけで大丈夫です!」
「おぉ……そんなすごい方法があるんですね」
「これでも神様ですので!」
えっへんとまた胸を張っている。大変可愛らしい。
仕事内容はホワイトそうだし、上司も可愛い女神様なので特に断る理由が見つからない。
せっかくの第二の人生に挑めるチャンスなので、受けてみよう。
「どこまでお役に立てるかわかりませんが、神下の件、受けさせていただきます。どうぞよろしくお願いします」
「! ありがとうございましゅ!!」
パッと明るい顔をして、最後の最後で噛んでしまった。
紅茶の件といい、この女神様はドジっぽいのかもしれない。




