「最強の仲間を追放したら、翌日には見つかっていた」
討伐は成功した。
魔獣は倒した。被害も最小限に抑えた――はずだった。
「……で、これはなんだ」
俺――レオンは、目の前の光景を見て呟いた。
城壁が、消えている。
正確には“消し飛んでいる”。
石の破片すら残っていない、綺麗すぎる破壊だった。
「人命被害はゼロです」
横でセラが淡々と報告する。
「奇跡的に全員、気絶で済んでいます」
「奇跡って言うな。原因がいるだろ」
俺の視線の先。
瓦礫の中心で、満面の笑みを浮かべている少女。
「レオン! たすけたよ!」
犬耳をぴんと立てて、こちらに駆け寄ってくる。
しっぽが千切れそうな勢いで振られていた。
「……ルル」
名を呼ぶと、さらに速度が上がる。
「ルルじゃない、ルル子って呼んで!」
「今それどころじゃない」
勢いのまま飛びつかれ、俺はそのまま地面に倒れた。
「えらい? えらい?」
「……敵はな」
背後では、ノクトが静かに呟く。
「魔獣の残骸より、街の被害の方が甚大ですね」
「見れば分かる」
グレンが腕を組んでため息をついた。
「強ぇのは認めるがよ……これはねぇだろ」
ルルは俺の上で顔を覗き込んでいる。
期待に満ちた目。
「ほめて?」
――無邪気だった。
何も分かっていない顔だった。
俺はゆっくりと起き上がり、ルルの頭に手を置く。
一瞬だけ、撫でる。
しっぽが爆発したみたいに振られた。
そのあとで、言った。
「……やりすぎだ」
ルルの動きが止まる。
「え?」
耳が、ゆっくりと垂れた。
「……だめ?」
「だめだ」
少しだけ視線が泳いで、ルルは目を逸らした。
その仕草が、妙に胸に残った。
⸻
その日の夕方。
ギルドに呼び出された。
「被害額の算定が出ました」
受付の男が紙を差し出してくる。
俺はそれを受け取り――固まった。
「……桁がおかしくないか?」
「城壁の全損、周辺建築の半壊、商業区の損失」
淡々と説明が続く。
「合計で、金貨三万八千枚となります」
沈黙。
横でグレンが笑った。
「はは、国が飛ぶぞ」
「笑えない」
セラが小さく息を吐く。
「レオン……これ、どうするの」
どうするも何もない。
答えは一つだった。
⸻
夜。
宿の部屋。
ルルは床に座って、こっちを見ている。
いつものように近くに来ようとはしない。
「……なあ、ルル子」
名前を呼ぶと、少しだけ顔が上がる。
「なんで?」
先に聞かれた。
「なんで、怒ってるの?」
俺は少しだけ黙ってから言った。
「怒ってるんじゃない」
「じゃあなに?」
まっすぐな目だった。
だから、嘘はつけなかった。
「……お前がいると、勝てる」
「うん!」
嬉しそうに頷く。
だから続けた。
「でもな」
一拍。
「世界が持たない」
ルルは、きょとんとした。
「……わかんない」
そうだろうな。
「分からなくていい」
俺は立ち上がる。
「ルル子、お前は――」
一度だけ迷って、それでも言った。
「パーティから外れる」
沈黙。
しっぽが、止まった。
「……なんで?」
小さな声だった。
⸻
翌朝。
俺たちは街を出た。
「これでいいの?」
セラが小さく聞く。
「これしかない」
俺は答えた。
そして三歩進んだところで、
「見つけた!」
背後から声がした。
全員が固まる。
振り向く。
そこには――
満面の笑みで手を振るルルがいた。
「レオン!」
しっぽが、全力で揺れていた。




