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天憧ヤオヨロズ-神宿りの刃と鳥の歌-  作者: あらまき


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33/67

未覚醒交響曲


 メイドとぴよこが遅れてきた理由は、クラスで相談していたかららしい。

 内容は、俺のアマツをどうするかについて。


 この短期間で俺に合わせた物を一から製造するとなると、リスクもハードルも高い。

 だからその線は早々に省かれ、残った選択肢は『ベース』をどうするか。

 新しいアマツを手に入れるか、今の初期汎用型を使うか。


 俺のことなんて他人事だろうに、会議はやけに白熱しているらしい。

 なので、その辺りの選択は皆に託そうと思う。


 代わりに、俺は俺のすべきことを。

 すなわち――【覚醒】の習得。


「そもそもの話だけどさ、覚醒って何なんだ?」

 俺は南雲、メイドの二人に尋ねる。

 なんとなくは知っているけれど、具体的にどういうものかと答えられるほどの知識が俺にはなかった。


「そう……ですね。逆に、伊織様とアセリア様はどのくらいご存じですか?」

 俺とぴよこは顔を合わせた。


「えっと、アマツの真の力を引き出す的な奴だよね?」

 ぴよこの言葉に俺も頷く。

「実戦科なら必須の技能で、遅くても二年に上がるまでには実戦科全員が習得する……だったよな?」

 俺がそう答えると、メイドは首を横に振った。

「アセリア様のは正しいですが、伊織様の回答は少し違いますね」

「そうなのか?」

「はい。実戦科は二年に上がるまで全員覚醒を習得できるわけではありません。習得できなければ、退学を余儀なくされるだけです」

 その解答に、俺の顔がちょっとだけ引きつった。


「覚醒についての学術的な話は、教師の方々に任せましょう。私たちは必要最低限をわかりやすく……なのですが……うまく説明出来る自信はあまり……南雲様はどうでしょうか?」

 南雲はウィンクを飛ばし、頷く。

 それはとても自信に溢れた態度で、メイドはとても感心した様子を見せた。


「さすが南雲様です。では、ご高説お願いいたしますね」

「ええ。任せて頂戴。というわけで伊織ちゃん。小鳥ちゃん。覚醒ってのはね……」

「ああ。覚醒とは……」


「BLE〇CHの始解みたいなものよ」

 メイドの笑みが、一瞬引きつった。

「いえ、南雲様。その説明は……」

「でも、わかりやすいでしょう?」

 南雲の言葉にぴよこは手を挙げた。

「大体わかった!」

 俺も頷く。

「ああ。それで、どんな修行をすれば良い? 刀との同調……いや、対話だな?」

「ね? 二人ともちゃんとわかったでしょ?」

 自慢げな南雲に、メイドは笑みを向ける。

 ただし、その笑みは決して優しいものではない。

 どこまでも――冷たい笑みだった。


「すみません。先の説明は忘れて下さい。教科書通りですが、私が説明しますので」

 溜息を吐いた後、メイドは最低限の知識を軽く語った。




 俺はアマツを使っているつもりだったが、実際はスイッチの入ってない状態でふりまわしていただけに過ぎなかった。


 アマツを含めた特定の霊的構造を持つ道具のスイッチをオンにすること。

 それが、【覚醒】である。


 休眠状態の現時点でも、影に対しては大きな力を発揮する。

 だが、ただ威力があるだけなら、単なる刃でしかなかったのならば、これほどまでに扶桑は刀に取りつかれることはなかっただろう。


「休眠状態なんですよ、普段は。それを目覚めさせるのが覚醒です」

 メイドはそう説明した。

「それで、覚醒したらどうなるんだ?」

「アマツ次第なところもございますので、一概には言いづらいのですが……例えば、伊織様が今持っている初期状態のアマツ。それで覚醒したとしましょう」

「ああ」

「身体能力は数倍になり、斬撃は今の倍以上重く。さらに防御能力も全身盾をまとっているかのように頑強になります」

「……冗談、だよな?」

「いいえ、マジでございます」

 にっこりと微笑み、メイドは告げる。


 言われてみれば、テレビで見た大きな大会なんかはフィールドが砕けたり数メートルジャンプしたり、あと斬撃飛ばしたり身体が輝いたりと割とびっくり人間仕様だった。

 成長すればああなれると思ったが、冷静に考えたらそんなわけがない。


「それじゃあ、覚醒した奴に未覚醒の奴って絶対に勝てないんじゃ……」

「おおむねその通りですね。ちなみに同じ理由で、アマツではカムイ持ちにも勝てません。カムイの強化値はアマツの数倍も上ですので」

「……じゃあさ、俺が覚醒さえすれば、先輩にも決闘で勝てるってことか?」

「相手が普通の方でしたら、その理屈で正しいのですが……」

 歯切れの悪いメイドの態度は、口にするより雄弁に答えを物語っていた。


「そんな甘くはない……か。まあ、覚醒についてはわかった。それで、どうやれば良い? 何か条件があるのか?」

「いえ、そこまで難しい条件はないです。一度覚えたら自転車のように忘れませんし。ただ……」

「ただ?」

「本来、一月で習得するようなものではないんです。それに、努力や根気でどうこうできるものでも」

「じゃあ、何が重要なんだ?」

「才能と、運と、時間です。なので、最悪の場合、間に合わないこともご留意ください」

「わかった。教えてくれ」

「アマツを全身に感じたまま、目を閉じ、意識を続けてください。それで感じられるものがあれば……」

「やっぱり始解じゃないか」

 メイドは静かに、冷たい笑みを向けてくる。

 俺はそっと顔を反らし、訓練に入った。




 言われた通り、俺は色々とやってみた。

 座禅のような恰好でアマツを抱いて瞑想してみたり、鞘から抜いて構えて瞑想してみたり、寝転がってアマツと添い寝するような恰好をとってみたり。


 けれど、何も起きなかった。

 そのまま三十分ほど過ぎ、メイドからストップの声がかかった。


「本日はここまでにして通常訓練に移行しましょう。おそらく、これ以上は無駄です」

「待ってくれ! まだ俺は……。いや、そうだな。その通りだ」

 受け入れたくない。

 だが手応えがまるでない以上、それは事実でしかなかった。


「けれど最後にさ、メイド。覚醒を見せてくれないか? もしかしたら人のを見て何か感じることができるかもしれないからさ」

「ああ。それは良いアイディアです。では――」

「ちょっと待って頂戴」

 そう言って、南雲が話を遮った。

 皆の視線が、南雲に注がれる。


「どうしたなっちゃん。何かあるのか?」

 南雲は、少し悲しそうな顔をした後、じっと俺の方を見てきた。

「丁度良い機会なのもそうだけど、落ち込むなら早い方が良いと私は思うの。才能に打ちのめされても、伊織ちゃんなら立ち上がるって信じてるから」

「なんかすごく期待してくれているのは嬉しいけどさ、マジで何の話だ? そもそも才能に打ちのめされるって、誰に対してだ?」

 俺はこのアラハバキにおいて完全なる劣等生であり、はなから自分に期待していない。

 だから、才能に打ちのめされるというのは正直ピンと来なかった。


「伊織ちゃんと小鳥ちゃんって、実力はどんな感じなの?」

「ぴよっ? 大体同じくらいだよ?」

 そう、ぴよこが言った言葉を俺は即座に否定した。


「同じくらい()()()だな。アマツを持ってから差は格段に広がった」

「そかな?」

「そうだよ。まあ追いつくつもりではあるがな」

「……それなら、なおのこと覚悟して頂戴」

「え?」


「小鳥ちゃん。アマツに霊力を流してみて。わからないなら、飛ぶ時のことを思い出して」

「へ? え?」

 戸惑いながらも、ぴよこはアマツを片手に握り、構える。


 ぴりっとした、独特の空気を俺は感じた。

 その気配は、ぴよこから広がっている。


 直後、ふわりとぴよこの長い髪が浮いた。

 まるで、彼女の周りの重力が軽くなったかのように。


 そして――。

 ぴよこから、圧のようなものを放たれた。


 同時に、ぴよこが持つ脇差より短いアマツ。

 その刃の中からバタフライナイフのように刃が生じて、通常の刀に等しい刀身へと変化した。


「【ギミック】持ちはわかりやすいわね。ま、そういうこと。人が何か月も、場合によっては年をかけないとできない覚醒を、いともたやすく行う。それが亜人よ」

 南雲は俺に、突き放すようにそう告げた。

 らしくない態度は、俺が八つ当たりしやすいようにの配慮だろう。


 ただ……南雲は一つ、思い違いをしていた。


「なっちゃん。その配慮は嬉しいけど、余計だ」

「どういうこと?」

「ぴよこ相手に嫉妬はしない」

 どうしてかと聞かれたら、ちょっと答えにくい。


 だが、ぴよこが世界最強になっても神様になろうとも、それが幸せならば俺に不満は一切ない。

 それは、俺にとっての心の底からの本心だった。


「……そう。本当に良い関係なのね。あなたたち」

「さあな。しいて言えば……ちょっとだけ期待が重くなったことかな」

「期待?」

「あいつは、俺が絶対自分を追い越すって信じてるんだよ。口にしないくらい当然のように」

「ふふ、だったら頑張らなきゃね。男の子なんだから」

「ああ、そうだな。その通りだ」


 決意を新たに、遠くでメイドと談笑しているぴよこに目を向ける。

 ぴよこの方もこっちに気づき、微笑んだ後――どや顔を見せてきやがった。

 これでもかと馬鹿にするように、それでいてムカつく、そんな顔で。


「……それはそれとしてやっぱムカつくな」

「本当に良い関係ね。あなたたち。見てて飽きないわ」

 のほほんとした口調で、南雲は呟く。


 その後わちゃわちゃしながら、基礎訓練を重ねた。

 地道で、つまらなくて、足踏みしているように感じて早く先に進みたいと願う、そんな地味な訓練を。


 きっとその足掻くような地味な時間こそ、今の俺に一番必要なもののはずだから。


ありがとうございました。

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