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基本的にはただお茶をするお話です。
「……これは夢か。」
そこには芝生と空が見渡す限り広がっていた。
そんな場所にぽつりと1つのテーブルと2つの椅子が置かれていた。
「夢など久々に見たな。」
ここ最近あまり寝ていなかった彼は少し辺りを見渡してから、椅子に座った。
すると、急に声が聞こえた。
「あれ?お客さん?珍しい。」
先ほどは気がつかなかったが、もう1つの椅子に少女が座っていたのだ。
一瞬驚いたが、ここが夢であることを思い出し、納得した。
「すまない。勝手に座って。」
夢であるとわかりつつも、礼儀を欠かせないのは、武人ゆえか、ただの性格か。
「ああ、いいの、いいの!ここは夢なんだから、何でもありなんだよ。」
少女はとても明るく愛想がいい性格のようである。
「まるで自分とは正反対だ。」と彼は思った。
「じゃあ、お茶にしようか!」
少女がそう言うと、ポッとまるでマジックののように紅茶らしきものが入ったティーカップが出てきた。
表情はそんなに変わらないが、彼はかなり驚いたようだ。
「何でもありって言ったでしょう?ほしいものは何だって出てくるよ!」
「……それはすごいな。」
まるでおもちゃを見せびらかす子供とその対応に困るおじさんのようだ。
実際の年齢は10くらいしかかわらないのようなのだが。
「それは学生服なのか?変わった形をしているな。」
少女が着ていたのはブレザーであった。
「うん。そっちこそ変な格好をしているね。」
彼は中世ヨーロッパ風の服を着ていた。
中世ヨーロッパ風とはいっても、貴族ではなく軍人のような格好であった。
「そうか。将軍たる者相応しいをしろと口煩く言ってくる者がいてな。」
少女は首を傾げた。
「将軍?」
「ああ、まだ名乗っていなかったな。俺は○○○○王国で将軍を務めてい…」
「あー!なるほど!異世界の人か。」
今度は彼が首を傾げる番であった。
「異世界?異なる世界ということか?」
「そうそう。私は○○○○王国なんて知らないし、私の世界ではもう将軍なんて役職ないし。」
少女があまりにあっけらかんと言うものだから、彼はそれが本当かどうか確信が持てなかった。
「……そうなのか?こちらの言葉も通じているようだが……」
少女はポッと出したクッキーを食べながら、あっけらかんと言う。
「だって、夢だしねー。」
「夢で言語の壁がなくなるなんて聞いたこともないが…」と思いつつ、彼は少女が先ほど彼に出した紅茶を飲んだ。
「変わった味がするな。甘ったるい。」
「あれ?甘いのダメ?本格的な紅茶なんて飲めないから、これペットボトルの午○の紅茶なんだけど。」
「そちらの飲み物か。甘いものは嫌いじゃない。」
少女が異世界から来たかどうかはともかく、自分の知らない場所から来たのは確かなようだと彼は思った。
それから他愛もないことを話しているうちに彼は夢から覚めたのである。
彼はなぜか夢のことをはっきりと覚えていた。
これだけなら、ただ不思議な夢を見たというだけで住んだのだが、彼はその日の晩も同じ夢を見たのである。
昨日と同じテーブルと椅子があり、少女はやはりお茶をしていた。
ただ景色は昨日のような空と芝生ではなく、今度は海辺であった。
「今日は海辺なのだな。」
「ん?そういう気分だったからね。」
少女の気分によって景色までも変えられるようである。
後になってわかったことなのだが、そういうことは少女だけができるというわけではなく、夢の中にいる人間は同じことができるようなのだ。
彼は今日も少女が出したお茶とお菓子を食べながら、少女と他愛もない話をする。
その不思議なお茶会は毎日行なわれた。
少女が作り出す景色や食べ物は彼が見たこともないものばかりで、彼は少女が異世界の人間であると認めざるを得なかった。
彼も時たま自分の国の景色や食べ物を出して少女に見せた。
とある晩、彼が書類仕事に忙殺されて一睡もできなかったため、お茶会が開かれかった。
彼は少し残念に思った。
とある日の夢の中。
「ここはどのようなところなのだ?」
少女が出す景色は本当に様々であったが、大体は草原や海辺などといった景色であった。
しかし、今回はビルの雑踏の中で、そこのとあるカフェテリアの一角にいつものテーブルと椅子が置かれていた。
「この前行ったカフェなんだけど、偶にはこういうのもいいかなって思って。」
彼は辺りを見回した。
そこには彼が今まで想像もしたことがないほど高く不思議な見た目をした建物(高層ビル)がたくさんあった。
「すごいな。」
「私はそっちのお城の方がすごいと思うけどね。」
今日のお菓子は少女がこのカフェで食べたというケーキである。
「このような大都市に住んでいたのだな。もっと穏やかな場所に住んでいるものだと思っていた。」
「ああ、いつものは適当に想像で作ったとこだったり、テレビで見て綺麗だなって思ったとこだったり……」
「そうなのか。」
彼は自分の屋敷の庭や身近な所、赴任先の景色が良かった所などを出していたのだが、少女はそうではなかったようだ。
「本当に全然違う世界なのだな。」
「そっちは昔のヨーロッパみたいだよね〜。」
少女はしばしば彼のいた世界を「中世のヨーロッパみたい」と表現した。
「ちょっと違うけどね。」
少女は彼の最初の印象の通りとても明るい性格で、いつも話題が尽きなかった。
少女はその日の少女の出来事から異世界の様々なことまで何でも話し、彼には彼の世界の様々なことを聞いた。
彼は普段そんなに口数の多い方ではないのだが、少女に聞かれたことには律儀に返事をしていたし、少女との会話は楽しく感じていた。
その日、彼は少女に頼まれて城のバルコニーを出した。
城の華やかで広大な庭を見渡せるその場所を少女は気に入ったようだ。
「うっわー!お城の中とか庭もいいけど、バルコニーもいいね!」
城の背景のとき少女の出すお菓子は一層豪華になる。
今日はミルフィーユとかいうものであった。
「ふふふ、やっぱりお城で食べるデザートは格別ね!」
ちなみに少女は1度彼にお菓子を出してもらおうとしたのだが、それは見事に失敗に終わった。
彼は普段好んで甘いものなど食べたりはしなかったため、想像だけで出したら、見た目はともかくものすごい味の食べ物ができあがったのだ。
彼はあまり想像力豊かな方ではないらしい。
「おいしい?」
「ああ、うまい。」
「ここではいつも普通に食べるんだから、現実でもお菓子とか食べればいいのに。」
少女はフォークでミルフィーユを切りながら少し不満げに言った。
「あちらでは、甘いものは女性や貴族が食するものという印象が強いからな。」
「ふーん。でも、あなたも貴族でしょ?」
「俺たちみたいな軍人はこのように茶会を開いたりはしないな。」
軍人の茶会を想像して彼は思わず苦笑いが漏れた。
「あははっ!確かに想像できないかも!」
少女と彼は夢の中での奇妙なお茶会を相変わらず開き続けているとある晩のことである。
彼はずっと少女に聞こうと思って聞けなかったことを聞いた。
「………この茶会は君が開いているのか?」
少女はいつも通り笑って口を開く。
「そりゃあ、お茶とかお菓子とか用意してるの私だし、そうなるんじゃ……」
彼の表情を見た少女は一瞬困ったような笑みを浮かべた。
そして、いつも通りの表情に戻り、話し方もいつも通りのようでどこか真剣さを帯びていた。
「そうだよ。ここが夢の中ってのは本当だし、想像で何でも出てくるってのも本当。」
「ただ、私の夢は少し普通じゃない。」
彼は少女を問い詰めたかったわけではない。
ただ、自分は自分の置かれている状況とそれを作り出す少女の心の内を知る必要があると思った。
いや、知りたかったのだ。少女がどうしてこのお茶会を開くのか。
「君はどうしてこの茶会を開ける?君は何のためにこの茶会を開く?答えてはくれないか。」
少女はやはり困ったように笑う。
少女は何かに気が付いたように顔を上げた。
「残念。時間切れだよ。でも、今度は……」
少女が言うように彼の意識は現実に戻りつつあった。
その事を一旦意識すると、もう夢の終わりはすぐそこまで近づいてくる。
「………よ。……も………!……約束だよ。」
少女の声は聞こえるのだが、内容はうまく聞き取れなかった。
ただ、最後の言葉だけはしっかり聞こえた。
彼は自分の寝室で目を覚ました。
「約束か……。君は俺に何を伝えようとしていたのだろうな……」
彼の言葉は誰もいない部屋の天井に吸い込まれていった。




