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転生したから新世界を駆け巡ることにした  作者: 氷純
第四章  二人の世界は外界と交差する

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第四話  お食事会

 作戦会議を終えて解散した時、料理対決はすでに実食段階に移っていた。

 審査のために会議机を片付けて夕食を食べ始める大人団長組から距離を取る。

 調理に参加していない俺は料理対決の行く末を見守りながら、ディアの角に木の板を渡して簡易机を作った。

 どうやら、料理対決は実食に移る前からミツキの優勢とみられているらしい。

 得意げなミツキと、悔しそうな青羽根の食事担当兼整備士の姿に、俺は苦笑する。

 一時はどうなる事かと思ったけど、案外仲良くやれそうだ。

 俺と一緒に会議に参加していたため調理に加われなかったボールドウィンが寂しそうに対決の様子を眺めている。


「コトたちって、伊達に二人だけで開拓者やってないよな」

「ミツキは俺のだから」

「お、おぅ。スカイを獣型にはされたくないし、わきまえてるよ」


 ボールドウィンが挙動不審にスカイと俺とを見比べる。

 その時、ボールドウィンがふと気づいたように俺のディアを見た。


「そう言えば、なんでお前らって獣型の精霊兵器なんて使ってるんだ?」

「精霊人機に適性がなかったからだ。武術の才能もないからまともな歩兵としても戦えないし、それなら機動力重視の兵器を作って、精霊人機でも歩兵でも対処が面倒な中型を優先的に倒せるようにこれを作った」


 いつの間にか中型だけでなく小型から大型まで相手に出来るほど機能拡張していたけど。

 いやはや、進化したもんだ。

 精霊人機でも追い付けない速度にいくつもの補助機能、今では新武装まで積んでいるんだから。

 多分、ディアとパンサーの魔導核に刻まれている魔術式をすんなりと読み取れる技術者は俺とミツキだけだ。そう断言できるくらい、精霊人機の魔導核とは別物になっている。

 新型機ともてはやされているスカイと違って、ディアとパンサーは正真正銘の新兵器だ。

 誰も欲しがらないし、真似しないだろうけど。

 欲しければ作ってやると申し出た時のワステード司令官の顔を思い出して、俺は笑みを浮かべる。


「獣型のせいで不評だけど、俺とミツキの努力の結晶だ。あんまりに馬鹿にするな」


 誰にも馬鹿にされる謂れはない。

 ボールドウィンが頭を掻く。複雑そうな顔でディアを横目に見て、ため息を吐いた。


「理由があってのことだと分かったんだ。馬鹿にはしないさ。受け入れられないけど」

「それでいい」


 無理に受け入れろとは言わないが、排除しようとするならこちらも牙を向かせてもらう。それでこの話は終わりだ。


「……あぁ、負けたか」


 料理対決の結果が出て、ボールドウィンが苦笑する。

 大人団長組は満場一致でミツキの料理に軍配を上げていた。

 俺に向かってVサインをしてくるミツキに手を振る。

 洗い物は料理対決に負けた青羽根に任せて、ミツキが俺と自分の料理を持ってやってきた。


「勝利の味だよ」


 にこにこと笑いながら出してくるミツキから皿を受け取る。

 皿には数種類の香辛料を組み合わせたいい香りのするロールキャベツが乗っていた。

 デミグラスソースに似た物がかかっており、パンをつけて食べるのにもちょうどいい。

 食事を始めていると、何故かリーゼさんがやってきた。


「料理勝負を通しての交流なんてどんな風の吹き回しですか?」


 リーゼさんが不可解そうに俺たちと青羽根とを見比べる。

 今までを思えば当然の反応だった。


「まぁ、改心したのならそれでいいです」

「改心とは違う気もしますけど」


 ただ自覚して、逃げるのを止めただけだ。

 俺が笑いながら言うとリーゼさんは意外そうな顔をした。

 愛想笑いではなかったことに驚いているようだ。

 調子が狂いますね、とリーゼさんは微苦笑する。


「とはいえ、あとはコレをどうにかするだけですか」


 リーゼさんがコレと言って指差したのはディアだった。


「どうもしませんよ。ディアもパンサーも、プロトンだって俺とミツキの宝物なので」

「……子宝」


 ミツキさん、何を付け加えてるんですかね。まぁ、共同作業して作ったけどね。

 ひとり呟いてくすくす笑うミツキと違って、リーゼさんは眉を顰めていた。


「まだ変わりませんか」

「もう変わりませんよ」


 ディアとパンサーを否定するならすればいい。

 だが、それはリーゼさんの勝手な意見でしかないし、よしんば世界の総意だとしても俺は認めない。

 割り切る所は割り切るけど、切り捨てて良いモノと悪いモノがある。

 精霊獣機を切り捨てる事は今後もない。

 ミツキがリーゼさんを見て、口元に笑みを浮かべる。


「私たちを見ていればわかると思いますけど、あなたの価値観に世界中の人が従ってくれるわけではないんです。私たちは私たちの価値観に沿って生きていく事は変わらないですし、リーゼさんがリーゼさんの価値観に沿って生きていく事を否定しません」


 また突き放されていると思ったのか、リーゼさんがため息をつこうとしたその時、ミツキが続ける。


「どうしても私たちに精霊獣機を否定させたいなら喧嘩しましょう」


 理解されないからと無視するのではなく、正面から相手してやると言ってのけたミツキに、リーゼさんが固まった。

 もとより、リーゼさんの主張には正当性もなければ根拠もない。

 真っ向から論を戦わせれば、精霊獣機の実用性をいくつも挙げてミツキが押し切るに決まっている。

 リーゼさんはまだ納得のいかない顔をしていた。しかし、何かを言う前に、リーゼさんの後ろにドランさんが立った。


「リーゼ、こんなところで何をしている」


 呆れた調子で言うからには、ドランさんもリーゼさんが何をしていたか、おおよその見当がついているのだろう。

 ドランさんがリーゼさんの襟首を掴んで竜翼の下の整備車両へ引っ張っていく。流石は団長と副団長というべきか、遠慮がない。


「あれ、セクハラじゃね?」

「リーゼさんの顔を見てみなよ。きっと内心で喜んでるよ」


 ミツキに言われてリーゼさんを見る。確かに、不快そうな表情はしていなかった。


「もしかして、俺たちダシにされた?」

「性格を考えると、それはないんじゃないかな。的外れなことばっかり言ってる人だけど、自分に嘘は吐いてないみたいだから」

「どこも複雑な恋愛事情があるんだな」


 俺たちも大概だけど、という言葉は飲み込んで、食事を再開する。

 すると、洗い物を終えた青羽根の面々が揃って簡易机を持ってやってきた。

 先頭にいたボールドウィンが笑いかけてくる。


「一緒に食おうぜ」

「学生食堂のノリかよ」


 高校や大学に通っていた頃、クラスメイトや部活仲間と競争するように食堂へ駆けていったものだ。

 コース取りとか考えながら、それでも誰の迷惑にもならない様に暗黙のルールがあった。

 トレイに皿を乗せて、配給係の団員が流れ作業で料理を配って行く。その光景は学生食堂というより給食当番だった。

 ボールドウィンが俺とミツキのそばに机といすを並べつつ、首を傾げる。


「なんで開拓学校に入学できなかったコトが学生食堂のノリなんて知ってるんだ?」

「実は俺、透視能力を付加した千里眼の保持者なんだ」

「マジか。浴場を覗き放題じゃねぇか。みんな、ここに犯罪者がいるぞ!」

「黙れ! この能力が欲しければ他言は無用だ!」

「譲渡できる、だと……? お前はもてない男の救世主か?」


 バカなノリを続けている内に青羽根は食事を配り終え、やかましくしゃべりながら食べ始めた。

 俺たちの近くに陣取っているのはボールドウィンと青羽根の整備士長の二人だ。


「やっぱり人数増やした方が良いかな?」


 ボールドウィンが十人いる青羽根のメンバーを見回して、相談を持ちかけてくる。

 俺が知っている限り、青羽根は最小人数の開拓団だ。

 十人は精霊人機を運用するに当たり最低限必要な人数だろう。青羽根は開拓学校の卒業者で構成されているため培った技術力もあって手が足りている。しかし、そこらの開拓者の集団では人手が足りずに過労で倒れるだろう。


「スカイが新型になった以上、技術を盗みに来るやつもいるはずだ。見極めが必要だな」


 整備士長が言いながら、俺を見る。


「仲間を集めるとしたら、どこが良い?」

「というか、コトたちが青羽根に入ってくれればいいんだけどな」


 ボールドウィンが肩を叩いてくる。


「悪いけど、やる事があるんだ。この依頼が終わった後の予定もいっぱいだしな」

「私たちは人気者だからね」


 さらっと防衛拠点ボルスにいるだろうワステード司令官へ皮肉が飛んでいく。今頃くしゃみでもしているだろう。

 防衛拠点ボルスでリットン湖の攻略に参加した後はマライアさんから提供された情報をもとにバランド・ラート博士の研究所を訪れるつもりだ。

 行き先はガランク貿易都市。


「ガランク貿易都市か。仕事には困らないだろうな」


 俺の話を聞いて、ボールドウィンが腕を組んでそう言った。


「ついてくるつもりか?」

「いや、今の俺たちがリットン湖の攻略に参加できるとは思えないし、できたとしても実力が伴ってないから被害がでる。俺たちはガランク貿易都市で商隊護衛の依頼を優先的に受けようと思う」


 ボールドウィンが整備士長に視線で意見を訊ねる。

 整備士長もボールドウィンの意見に否やはないようだ。


「ボールも新型スカイに慣れないといけないからな。しばらくは実地訓練を兼ねて商隊護衛を受けるのはありだ。ガランク貿易都市なら大規模なキャラバンも多い」

「大規模なキャラバンが多いと何かあるのか?」


 整備士長の補足の意味が分からなかったのか、ボールドウィンが首をかしげる。

 あきれ顔の整備士長の代わりに、ミツキがボールドウィンに質問に答えた。


「他の開拓団と一緒に依頼を受けて、いろいろ教わろうって魂胆でしょ」


 青羽根は、俺たちと出会ったばかりの頃とはやはり意識が違う。開拓者として生きるための知識をどん欲に学ぶ姿勢を持っていた。

 もしかすると、開拓学校に通っていたために学ぶことに抵抗がないのかもしれない。新しい知識を得る事は現状の打破につながるが、今までのやり方を崩すことに抵抗のある者も多い。

 学ぶことに抵抗のない青羽根は今後さまざまな失敗と成功を重ねながら急成長していくだろう。

 俺は整備士長の意見を後押しするため、ボールドウィンに声を掛ける。


「ギルド登録された新型機って話題性で、興味を引かれた他の開拓団も一緒に仕事をしたがるはずだ。技術流出にさえ気をつければ、いい環境だと思うぞ」


 学ぶ相手がより取り見取りだ。

 ガランク貿易都市は姉妹都市のトロンク貿易都市と並んで商業の中心地でもあり、キャラバンの護衛に特化した開拓団や道の安全確保のために定期的に出される魔物の討伐依頼に特化した開拓団なども多いと聞いている。


「コトもこう言ってるし、行くか。ガランク貿易都市」


 ボールドウィンが決定して、整備士長と細かい予定をすり合わせる。

 ついでに、とボールドウィンが俺を見た。


「向こうに着いたら、バランド・ラートの研究所も調べておいてやるよ。ただ、俺たちにも仕事もあるから、あまり期待すんなよ」

「助かるよ。でも、調べないでくれ。どうも軍の方でバランド・ラート博士の殺害事件がらみできな臭い動きがある」

「へぇ、軍でね。派閥争いがらみか?」


 開拓学校でも軍内部の派閥争いって有名なのか。

 ボールドウィンがため息を吐く。


「悪い。そういう事なら協力は出来ないな。俺たちの規模で軍に睨まれると簡単に潰される」

「だろうな。大丈夫、調べるだけなら俺たちでもできるから」


 最初からミツキと二人で調べるつもりだった。それに、転生にまつわる事情に無関係の他人を関わらせるのは避けた方が良い。


「軍の派閥争いねぇ。デュラにも所属不明の回収部隊が入ったらしいけど、そいつらは何を持ち出したんだろうな?」


 整備士長が不思議そうに疑問を口にする。


「マッカシー山砦司令官ホッグスの隠し資産か何かだとギルドは考えてるみたいだよ」


 ミツキが答えると、整備士長はますます不思議そうな顔をした。


「港まで戦闘の跡があったのか?」

「俺たちがデュラに入った時は港側まで行かなかったから、何とも。デュラを人型魔物から奪還した後、調査することになるだろうな」


 幸いというべきか、件のホッグスはいま防衛拠点ボルスの暫定司令官としてリットン湖攻略の指揮を取るため現地入りしている。

 俺たちがデュラを奪還した時、ホッグスは不在だ。つまり、調査し放題である。

 マライアさんが俺たちに声を張り上げた。


「いつまで食ってるんだい! 明日は大事な作戦なんだ。さっさと寝ちまいな!」

「はい、マライア姐さん!」


 ほぼ条件反射のような速さで、ボールドウィン達青羽根が応じた。

 俺はミツキと顔を見合わせる。


「順調に飛蝗流に染まってきてるな」

「凄い感染力だね……」


 俺たちもジャケットを進呈されないように注意しようと思いながら、マライアさんに急かされて夕食を口の中へ詰め込む青羽根に同情した。



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