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転生したから新世界を駆け巡ることにした  作者: 氷純
第五章  二人は摂理から外れている

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第二十三話  ベテラン達

 スカイが歩兵の作る陣地を越えて戻って来るなり、拡声器からボールドウィンが青羽根の仲間へ指示を出してくる。


「回収した精霊人機から魔力を移してくれ!」

「言われなくても準備できてる。さっさとこっち来い」


 整備士長が答えると、スカイが駐機状態になった。

 ロント小隊から伝令が走ってきて、ボールドウィンから四重甲羅についての情報を聞き出してロント小隊長へ伝えに戻って行く。

 スカイが抜けた穴を埋めるため、スイリュウが四重甲羅の大型スケルトンに向けて駆け出した。

 いくらウォーターカッターでも四重甲羅をまとめて貫く威力はない。改造シャムシール流曲刀であれば可能だろうが、突き刺した直後に甲羅を動かされると流曲刀が折れてしまいかねない。

 タリ・カラさんもそれを理解しているのか、足止めに専念しようとしているのがスイリュウの動きから読み取れた。

 スイリュウが抜けたために歩兵たちが繰り広げる白兵戦が凄絶さを増す。スイリュウが蹴散らしていた中、小型魔物が押し寄せてくるため、歩兵たちに負傷者が急激に増加していく。


「何か対策を立てないといけないんだけど、有効な策もないな」

「戦力が圧倒的に足りないからね」


 ロント小隊の精霊人機が二機も倒されたのは戦力的にかなりの痛手だ。

 この場で稼働している精霊人機は三機、魔力切れも近い。

 大型スケルトンも脅威だが、甲殻系魔物や通常のスケルトンの裏に隠れて魔術を放ってくるスケルトンも地味にいい仕事している。

 歩兵側からも魔術スケルトンへロックジャベリン等の反撃が飛んでいくが、ルェシの貝殻を二枚重ねた盾で防がれてしまう。うまく不意を突いた一撃も、首を傾げるような仕草で躱す。ようやく当てたと思えば、アップルシュリンプの甲殻で出来た簡易兜に防がれる。

 魔術師は防御力が低いってセオリー無視しやがって。

 建物の陰から魔術を使用するスケルトンの眼窩を狙って射撃し、アップルシュリンプの殻で出来た簡易兜を破壊。スケルトンの頭蓋骨の中で跳弾させて魔術を使用できなくする。

 現状、魔術スケルトンへの対抗策は俺の狙撃くらいしかなくなっている。

 だが、魔術スケルトンも俺に対して脅威を感じているのか、狙撃された直後に俺を指差して仲間に位置を知らせている。

 ディアを加速させて建物の陰を離脱すると、俺がいた場所にロックジャベリンが飛来してきて地面を穿った。

 一発ごとに大きく狙撃地点を変更しないといけないため、タイムロスが大きい。狙撃手としてはこちらの方が正しい姿と認識していても、いまは時間が惜しい。

 姿をまた建物の陰に隠しつつ、スコープを覗きこむ。


「――やばっ!」


 片手でディアを操作し、その場を飛び退く。

 ロックジャベリンが飛んできて、ディアの足をかすめた。

 俺がどこから狙撃するかを読んでいたらしい。

 狙撃さえ難しくなると、いよいよ魔術スケルトンへの有効策がなくなる。

 人間側の圧倒的な劣勢だ。前線も徐々に下がり始めている。

 ミツキがボルスの地図を広げた。


「こうなったら遠距離狙撃しかないと思うよ。ギルド館の屋根から狙えば、スケルトンの攻撃も届かないと思う」

「そうはいっても、暗すぎてこの距離からスケルトンの頭の中に鉛弾放り込むのも難しいくらいだ。ギルド館から前線までどれくらいあるんだよ」

「おおよそ八百メートルかな」


 前線まで八百なら、スケルトンまでの距離は九百メートルから一キロか。

 ディアの照準誘導を使っても難しい距離だ。頭蓋骨を吹っ飛ばすだけならいけるけど、眼窩を狙うとなると、正直なところ自信がない。

 地図を見ながら狙撃地点を選定していると、ロント小隊から伝令がやってきた。


「鉄の獣に精霊人機の魔導核、蓄魔石の二つを回収してきてほしい」

「無茶言うな。いま魔術スケルトンに――」


 言い返しかけて、俺は慌てて伝令の首根っこを掴んでディアを向かいの家の屋根に飛び乗らせた。

 直後に、俺たちが隠れていた民家がロックジャベリンでハチの巣にされる。

 伝令が建物の陰に隠れていなかったからとっさに行動したが、案の定か。

 魔術スケルトンでなくとも、人が建物の陰の何者かと話をしていたら何かあると思うよな。

 伝令が顔を青くするのを横目で確認しつつ、屋根を飛び下りる。

 頭上をファイアーボールが三つ、飛んで行った。

 地面に着地して、伝令を下ろす。


「こんなわけだ。外に出た瞬間、捌き切れない量の攻撃が飛んでくる。森の中に入るのは自殺行為なんだよ。諦めてくれ」


 こちらは手一杯だと伝えると、伝令も素直に頷いてくれた。


「ロント小隊長に伝えておきます」

「そうしてくれ。俺たちは隠れながらちまちま魔術スケルトンを削る」


 伝令と別れて、俺はミツキと共にギルド館の前に立つ建物の屋根にディアで飛び乗った。

 さすがの魔術スケルトンも、距離がありすぎて俺たちが見えていないらしく攻撃は飛んでこない。

 スコープ越しに魔術スケルトンを狙う。皮肉なことに、魔術スケルトンはアップルシュリンプの甲殻で頭を保護しているため容易に見分けがつく。

 だが、距離がある上に夜の闇の中という事もあって、スリット上の兜の正面を見ても眼窩の位置が判別できない。

 とはいえ、スケルトンの個体差なんてあってないようなものだ。人間に照らし合わせれば大体の位置はつかめる。


「では、狙撃開始と行こうか」


 引き金を引いて魔術スケルトンを仕留める。


「完璧だよ、ヨウ君」

「自分の才能が怖――」


 言いかけて、俺はミツキと一緒に建物の屋根から飛び降りた。

 直後、巨大な石の槍が建物を破壊してさらに奥のギルド館を崩壊させる。

 魔術スケルトンの代わりに四重甲羅の大型スケルトンがロックジャベリンをぶち込んできやがった。


「なに、アレ。まじで、何アレ。全力すぎるだろ」


 背筋に冷たいモノを感じながら、全速力で離脱する。


「スイリュウの足止めがあっても、魔術での遠距離攻撃は可能みたいだね」


 ミツキも青い顔をしながら、遠目に四重甲羅の大型スケルトンを警戒する。

 狙撃に気付いた魔術スケルトンが俺の事を指差しているのは離脱前にスコープで確認できたが、どうして位置がばれたのか分からない。

 姿を隠した後、もう一度スコープを覗きこんで魔術スケルトンを観察する。

 やはり、俺たちが見えている様子はない。

 魔術スケルトンを何体か確認して、気付く。


「あいつら、何体かのグループごとに別々の方角を向いて、狙撃された仲間の向いている方向から狙撃位置を割り出してるのか」


 眼窩を正確に撃って銃弾を頭蓋骨の中で暴れさせなければ魔術スケルトンは倒せない。つまり、ただのヘッドショットとは違う。

 東を向いている仲間が狙撃されて死んだなら、東側から狙撃されている。南側を向いていた仲間が狙撃されたなら南、西側を向いていたなら西。

 仲間の犠牲を前提に俺の位置を割り出そうとしているのだ。


「どうしたもんかな」

「四重甲羅の大型スケルトンをどうにかしないと、本当に負け戦だね」


 ミツキが双眼鏡を四重甲羅の大型スケルトンに向ける。

 スイリュウが挑発するように四重甲羅をシャムシールで弾くが、一枚目の甲羅を弾いた直後にその後ろの二枚が突き出される。

 甲羅の一枚一枚が独立しているため、一番前の甲羅を弾いて隙ができたスイリュウに二枚目が間髪を入れずに襲ってくるのだ。

 スイリュウが二枚目の甲羅をサイドステップで躱し距離を取る合間に、大型スケルトンは弾かれた甲羅を元に戻していた。

 攻め手に欠けている。

 両手ハンマーと交戦中のロント小隊の精霊人機も動きに精彩を欠いていた。同僚を二人も失った直後だから無理もない。

 魔力の補充を終えたスカイが立ち上がり、戦線に復帰する。

 スイリュウと共に四重甲羅に対処し始めたスカイに内心で喝采を送りつつ、俺は魔術スケルトンへの狙撃を再開した。

 四重甲羅をスイリュウとスカイが抑えてくれている間に、魔術スケルトンの数をとことん減らしてやろう。

 ミツキに四重甲羅の大型スケルトンを警戒してもらいつつ、魔術スケルトンの攻撃範囲外から一方的に銃撃を加えていく。

 五体目の魔術スケルトンを撃ち殺して弾倉を入れ替えた時、スイリュウが魔力切れを宣言して下がった。

 四重甲羅に対処しようとするとどうしても無理な動きをすることになるため、魔力の消費が激しいらしい。

 すでに狙撃位置が割れているのは間違いないため、俺たちはすぐに別の場所へ隠れた。

 四重甲羅とスカイが激しい戦闘を繰り広げる。戦闘の余波で森の木々が倒れて広場のようになっていた。

 連なる四重の甲羅が蛇のように縦や横に振り回される度、スカイはハンマーを小さく振って甲羅にかち合わせていく。圧空による加速があるため速度の上でも威力の上でも四重甲羅に競り負けずに済んでいるが、魔力消費は激しい。

 夜明けが近付いてくる。

 星明かりも消え失せて日の出前の暗闇が訪れた。

 これでは狙撃もままならない、そう思った矢先――

 四重甲羅が炎を纏った。

 暗闇に煌々と燃え上がった四重甲羅で、大型スケルトンはスカイを弾き飛ばす。

 闇の中で唐突に炎を纏わせた四重甲羅は実際以上に大きく見える。間近で命をかけた戦いをしているボールドウィンにとってはなおさらだろう。

 スカイが大きく回避行動をとりつつ、追撃に備えてハンマーを構えた瞬間、四重甲羅の大型スケルトンの頭蓋がボルスに向けられた。

 ぞっとしたのは、俺やミツキだけではなかったはずだ。

 大きく回避行動をとったボールドウィンの判断ミスをあざ笑うように、四重甲羅の大型スケルトンは大地を蹴る。

 向かう先は――歩兵隊。


「――しまった!」


 炎を纏わせた四重の甲羅を振りかぶりながらの大型スケルトンの疾走にスカイが遅れて駆け出す。

 だが、両手ハンマーの大型スケルトンがロント小隊の精霊人機からわずかに距離を取ってスカイをけん制した。

 敵ながら見事な連携だ。

 骨ばかりにもかかわらず巨大な足で重々しい疾走音を立てながら、四重甲羅の大型スケルトンが歩兵部隊へ突貫する。

 甲殻系魔物を踏み潰しながらも急停止した大型スケルトンは、歩兵部隊を端から蹂躙するように炎を揺らめかせる四重甲羅を横に振る。

 熱波を放つ四つの甲羅が端にいた歩兵部隊を轢き殺し、焼き尽くす。

 絶望に染まった叫び声が木霊する。

 とどめの一撃とばかりに、大型スケルトンが四重甲羅を振り上げる。夜明け前の漆黒の闇に炎を噴き上げるそれは、もはや破壊の象徴だった。

 ひどくゆっくりと時間が流れていく。実際にはほんの一瞬の出来事でしかないはずの大型スケルトンの動作が圧倒的な情報量で網膜に焼きつけられる。

 振り下ろされる四重の甲羅と、それが纏う炎の揺らめき、タラスクの肉が焼ける猟奇的な臭気、歪な形で闇空へ上がる汚い煙。

 刹那、風を切り裂く轟音と共に、地面と水平に巨大な石の矢がボルスの上空を飛び越え、大型スケルトンが構えていた四重甲羅の最奥の一枚を弾き飛ばした。

 大型スケルトンが動きを止める。

 飛んでいく甲羅の行方を大型スケルトンが見送る間に、さらにもう一本の矢が高速で迫り、甲羅をまた一枚、彼方へと弾き飛ばす。


「――ここはボルスと申しまして」


 拡声器越しの静かな声が響いてくる。

 直後、疾風を纏う石の矢が二枚に減った炎を纏う甲羅の一枚を弾き飛ばす。


「英雄が眠る土地故」


 静かな、怒りをはらんだ声はさらなる矢を伴って大型スケルトンに届く。


「お静かに願います」


 大型スケルトンがとっさに炎を纏う最後の甲羅を掲げた瞬間、防御されることを見越したようにわずかに狙いを逸らした石の矢が甲羅の端に衝突する。

 端に加えられた衝撃で、炎を纏う甲羅が疾風に煽られた風見鶏のように回転する。

 大型スケルトンが弾き飛ばされた三枚の甲羅を回収するため開いた左手を伸ばした瞬間、雷雲のような黒に染められた大型の機体が森から飛び出した。黒塗りの遊離装甲が重なり合い、雷鳴にも似た音が轟く。


「貴様が相手であれば、整備士たちも文句を言うまい」


 稲妻の如く鋭く素早い突きが大型スケルトンの左手を砕き、尺骨、上腕骨を粉砕する。

 大型スケルトンは一歩下がって一枚になった甲羅を掲げ、追撃を防ごうとした。

 しかし、黒い機体は槍を半回転させ甲羅の側面に柄をぶつけて弾き、一歩踏み込みながら石突きを大型スケルトンへ繰り出した。


「光栄に思え。この私が殺す気で相手をしてやる」


 拡声器越しに宣言したのはワステード元司令官、操る黒い機体は雷槍隊隊長機、ライディンガル。

 国軍が誇る専用機の中でも特注の、ワステード専用機体。


「――機体を壊すつもりでな」


 次の瞬間、ライディンガルが猛攻を開始した。

 槍が縦横無尽に閃き、大型スケルトンが身に纏っている遊離装甲を弾き飛ばしていく。

 大型スケルトンは甲羅を盾に身を守ろうとしているが、明らかに速度負けしていて追い付いていない。それどころか、ライディンガルは甲羅にわざと攻撃を当てることで大型スケルトンの右手に圧力を加えて動きを封じるのに利用している。

 仲間の窮地に気付いたハンマー両手持ちの大型スケルトンがスカイとロント小隊の精霊人機をけん制しながらロックジャベリンを放つ。

 飛来するロックジャベリンは正確に操縦席を狙っていたが、ライディンガルは槍を反転させる片手間にロックジャベリンの側面を正確に叩いて軌道を逸らす。同時に蹴りを放って甲羅持ちの大型スケルトンの足を覆っていた遊離装甲を弾いた。

 群れのボスの窮地に、魔術スケルトンが一斉にライディンガルへ攻撃を加えようとする。

 ライディンガルが大型スケルトンが持つ甲羅から垂れ下がっているタラスクの足を槍の穂先で斬りつけた。

 軽く槍が振るわれると魔術スケルトンに血の雨が降り注ぐ。

 パリッと槍の穂先から紫電が舞った直後、魔術スケルトンに雷が降り注いだ。

 その合間にも、石突きによって甲羅持ちのスケルトンは身を守るための遊離装甲を弾き飛ばされている。

 広範囲への隙のない攻撃。まさに、攻撃は最大の防御と言わんばかりに相手から余裕を奪い去る壮絶なまでの猛攻。

 機体の剛性も弾性も知り尽くした精密な動きに、嵐のような激しさと雷のような鋭さが混ざる。

 気付けば、甲羅持ちの大型スケルトンは歩兵の作る前線から離されていた。

 ライディンガルの猛攻を前に後退を余儀なくされたのだ。

 空が白み始める。

 スケルトンたちが浮足立ち、撤退を開始した。

 両手ハンマーの大型スケルトンは魔力切れが近いロント小隊の精霊人機を弾き飛ばし、スカイに片手のハンマーを投げつけて隙を作り、撤退する。

 甲羅持ちの大型スケルトンが最後の一枚の甲羅をライディンガルに投げつけて大きく飛び退き、逃げ出そうと背を向けた瞬間、動きを止めた。

 森の中から、雷槍隊機が次々と姿を現す。

 機体の黒さで日の出前の暗闇にまぎれて森に入り、片膝をついた駐機姿勢で隠れていたのだ。

 大型スケルトンはライディンガルに追い立てられ、雷槍隊の作る包囲網の中に飛び込んでいた。


「――指揮官が何も考えずに特攻するとでも思ったか?」


 大型スケルトンの背中に声をかけて、ライディンガルが槍を突き出す。

身体強化で硬化した背骨にひびが入った。


「硬いな。まぁいい。囲めばじきに終わる」


 雷槍隊の五機が一斉に槍を構え、大型スケルトンの頭蓋骨目がけて突きを放つ。

 周りを囲まれてはなすすべもなく、大型スケルトンは急所である頭蓋骨を砕かれた。


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