21.ダイゴロー
「ふう、今日もいっぱい走ったぁ」
一週間走り続けて、ストレッチや食事改善なども続けた結果、70キロ!
なんと正常値近くになりました。
すごくね?すごくね?と、自分で自分を褒めたい。
「毎日よく頑張ったな。褒めてやる」
「いーこいーこしてあげるー」
「あ、ありがとう………」
イケメンと美少女に頭を撫でられて照れちゃう。
これでもまだぽっちゃりだけど、もう少しで平均体重になれる。さようなら相撲取り。
嬉々としたその帰り、ふと足を止める。
「……ん?」
向こうの方でなんか騒ぐ声がする。
「妖精なんていねーよ!」
「いるもん!ほんとだもん!!」
子供同士の言い争いだ。
小さな茶髪の男の子が必死に叫んでいる。
「ここにいるもん!!」
周りの三人の子供たちは、バカにするように笑っている。
「どこだよ」
「見えねーじゃん」
「嘘つきダイゴロー」
ダイゴローと呼ばれた子だけが必死だった。
ああ、あの顔知ってる。少し前の孤独だった時の自分に重なって見える。だからこそ放っておけなくて、俺は声をかけた。
「君たち……何の話をしてるのかな」
振り向いた子供たちの一人が、こちらを見て鼻で笑った。
「……あん?なんだよクソデブ。ひっこんでろカスが」
「ぐへっ」
俺の心にクリティカルヒット。会心の一撃というか痛恨の一撃である。
体重が減ったとはいえ、まだデブ体型なのは変わらない。
「子供にまで言われた……っ」
しくしくと、その場で崩れ落ちそうになる。
最近の子供って口悪くないか?いや、昔からこんなもんか。
「クソガキが……殴ってやろうかなぁ」
ハヤミがゴキゴキと拳を鳴らす。
「やめとけ」
ヤマトが背後から制止する。
「たしかに腹は立つが大人気ないぞ」
「えーだってぇ」
彼が腕を組みながらすっと前へ出ると、
「おい」
重低音のような低い声で唸る。
子供たちがびくっとする。
「誰に向かって言ってる。その口の利き方、金玉に毛も生えてないガキが随分偉そうだな?」
まるで大やくざのような、王族仕込みのすごい威圧感を見せつけると、
「「ひっ……」」
いじめっ子数人が後ずさり、次第に涙目になっていた。
「ご、ごめん、なしゃい……!」
「っ、ひぐ、うわあああん」
「このお兄ちゃんこわいよーー!」
涙をこらえる子もいれば、ギャン泣きする子も出た。容赦なさすぎである。
「結局泣かせてんじゃん。大人げない」
「教育だ」
「いや、その前に王太子がでかい声で金玉とかもどうかと思いマッスル」
子供でも容赦しない所がやっぱり腹黒い王子様だ。そこまで怒らなくてもいいのに。たしかに生意気ではあるけれども。
「それで何を言い争っていたの」
俺が子供目線までしゃがみこんで訊いた。
「こいつがさ」
いじめっ子がダイゴロー君を指さす。
「変なこと言ってんだよ」
「妖精がいるとか」
「精霊が世界守ってるとか」
「ありえないって思ったんだ」
なるほど。それでからかう感じで言い争いに発展したわけか。
「ほんとだもん。ほんとうに……いるんだもん」
「いつまでそれ言ってんだよ」
「あたまおかしーんじゃないの」
もうやってられないとばかりに子供達がウンザリ顔だ。
「ここにいるって言ってんじゃん!!」
俺はなんとなくダイゴロー君が指をさしている方に視線を向けた。
目をじっとこらして見ていると、小さな淡い光が漂っている。それと小さな影。蛍くらいの大きさだ。くるくると飛び回っている。
「もしかして……この子たちのこと?」
「えっ」
ダイゴロー君が顔を上げる。
「……見えるの?」
「うん。ちゃんといるよ。三つくらい。キミの指先や肩に飛んでる」
「!!」
子供の目が一気に輝く。
「えぇーなにもいないけど?」
「残念ながら見えないな」
二人は眉をひそめている。
あれ、なんで見えないんだろ。確かに見えにくいけど、目をこらして見ればいるのに。そうしてひとつが俺の前に飛んできた。
『なんだこの豚みたいなでぶ』
『これが勇者とか無理じゃね。だりー』
『豚饅頭がしゃべってる。くそが』
「…………」
妖精にまで言われて膝から崩れ落ちた。ドブに千円札を落としたくらい悲しくなった。
「ちょっとユラどうしたの」
「なんかクソガキにクソデブ呼ばわりされた時より落ち込んでるな」
あのぅ、王太子が堂々とクソガキ呼びやめようよ。あとクソデブとか……あ、もういいです。
『でもちょっと光ってるこのデブ』
『ほんとだ。デブのくせに生意気だくそが』
『精霊様もデブと勇者まちがえてんじゃねー?』
「デブは関係ないから……しくしく」
ダイゴローがそっと俺の袖を引く。
「ねえ、ほんとに……見えるの?」
俺は少しだけ笑って頷く。
「うん。ちゃんといるよ。うそじゃない」
「でぶのねーちゃん……」
「ちょっと口は悪いけどね」
ダイゴローの目にじわっと涙が浮かんだ。
『ま、いーや。デブが勇者ならいくぞー』
妖精たちが、くるくると俺達の周りを飛び回る。
『このデブ連れてこーい』
「……え、なんで俺?」
『お前じゃないとダメだから』
『森、森ー』
『奥のほうー』
「……え、なに?」
『耳くそつまってんのかてめえ。森にいくんだろうがデブ』
「………」
やっぱりこの妖精達、口悪すぎない?ぼくちゃんマジ泣くわー。
「妖精が何か言ってるのか」
「え、あー……なんか着いてこいって言ってるんだ。森だって」
なんとも言えない吐き出せないもどかしい気持ち。辛いっす。
「じゃ、行くぞ」
「はい出発」
「軽っ」
さすがにここから森は少し遠いので、翌日に行く事になった。
この後は、ダイゴローの保護者がいる孤児院にお邪魔することにする。
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