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雪華  作者: 火向 棗
2/2

第一話






 目が覚めると、知らない場所に寝てるって・・・・・・・アリですか?






.

 「・・・・・・あり?ここ、どこ?」


 目を開けると、真新しい木目が視界に広がっていた。

 思わず上体を起こそうと身体に力を入れたが、全身が重く力が入らない。


 「ん〜〜〜〜」


 手をパタパタと動かし、寝かされている布団を叩く。

 首を左右に振り、周りの状況を確かめる。


 そこで、


 「ん?なんか枕ちがう・・・・・・・・・ピヨちゃん・・・?」


 首を乗せているものが、普段愛用している『ピヨピヨまくら』ではないと気づく。


 感じるそれは、固く小さい。

柔らかくて頭を包み込むほどのピヨちゃんとは大違いだ。



 (・・・なぜにピヨちゃんがいない?)


 キョロキョロと首を動かし、黄色を探す。

 だが、どこにもそれらしきものは見当たらない。


 「・・・ピヨちゃん・・・?どこ?」


 当然、返事無し。

 ピヨがいたとしても、枕だから話せるわけがない。


 わかってはいるが、問い掛けに応える声がないのは淋しい。

 ましてや、今自分がいるのは見覚えのない場所。



 「・・・ふぇ・・・っ」


 「目が覚めたか?」


 涙が溢れ、視界が歪みはじめた頃、凛とした声がかけられた。



 「・・・っ・・・ふ?」


 声がした方向に顔を向ける。


 そこには高校生くらいの男の人が、着物姿で立っていた。


















 「おにーさん、だれ?」


 「お前こそ、何者だ」









.








 「どうやって屋敷へ入った?」









 「・・・・・・・・・・・・はい?」









.

 『どうやってって、気がついたらこの場所で寝てたんですよ』



 そう言えたらどんなに楽だろう。


 だが、言ったとしても信じてもらえそうにない雰囲気だ。


 彼を取り巻く空気が信じられないほど冷たい。



 (な、なんでこんなに怒ってるの?)


 びくびくと怯えながら彼を窺うが、追及の視線が途切れることはない。









 「答えられないのか?」


.

 「あのー」

 「なんだ?」

 「ここどこでしょう?」


 とりあえず、自分がいる場所の名前を知っておきたい。



 「・・・俺の屋敷だ」


 いや、聞きたいのはそんなんじゃないんだけど・・・。


 ついさっきまで、不安で泣いていたとは思えないほど苛ついてきた雪乃。



 「お前は突然、庭にある池に現れた。前触れもなく、まるで物の怪のように」


 ブチッとなにかが切れたのを、雪乃はどこか遠くで感じていた。


 「・・・・・・『物の怪』?」


 ムクリと起き上がり、ジトッと男を睨みつける。


 「だぁ゛〜るぇがぁ物の怪じゃあーー!!!」



 近くまで来ていた男の胸倉を掴み、怒鳴りつけた。


 「わたしには、雪乃って名前があるのっ!『お前』でも『物の怪』でもない雪乃なの!!」


 立ち上がり、精一杯彼を威嚇する。


 「だいたい、何でここにいるのかなんて、わたしも知らないもん!ちゃんと家にいたんだからっ」


 最後の方は、涙声になっていた。


 言いたいことを言い終わり、荒い息を吐き出す。


 俯いて、唇を噛み締めた。

 ポロポロと涙がこぼれ落ちる。




 男は黙って雪乃を見つめていた。


 身体を震わせ嗚咽を堪える彼女が、怪しい者とはどうしても思えなかった。



 「・・・・・・わるかった」


 気づけば、自然と口から言葉が出ていた。




 「俺は源頼久。この屋敷の主だ」

.

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