第一話
目が覚めると、知らない場所に寝てるって・・・・・・・アリですか?
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「・・・・・・あり?ここ、どこ?」
目を開けると、真新しい木目が視界に広がっていた。
思わず上体を起こそうと身体に力を入れたが、全身が重く力が入らない。
「ん〜〜〜〜」
手をパタパタと動かし、寝かされている布団を叩く。
首を左右に振り、周りの状況を確かめる。
そこで、
「ん?なんか枕ちがう・・・・・・・・・ピヨちゃん・・・?」
首を乗せているものが、普段愛用している『ピヨピヨまくら』ではないと気づく。
感じるそれは、固く小さい。
柔らかくて頭を包み込むほどのピヨちゃんとは大違いだ。
(・・・なぜにピヨちゃんがいない?)
キョロキョロと首を動かし、黄色を探す。
だが、どこにもそれらしきものは見当たらない。
「・・・ピヨちゃん・・・?どこ?」
当然、返事無し。
ピヨがいたとしても、枕だから話せるわけがない。
わかってはいるが、問い掛けに応える声がないのは淋しい。
ましてや、今自分がいるのは見覚えのない場所。
「・・・ふぇ・・・っ」
「目が覚めたか?」
涙が溢れ、視界が歪みはじめた頃、凛とした声がかけられた。
「・・・っ・・・ふ?」
声がした方向に顔を向ける。
そこには高校生くらいの男の人が、着物姿で立っていた。
「おにーさん、だれ?」
「お前こそ、何者だ」
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「どうやって屋敷へ入った?」
「・・・・・・・・・・・・はい?」
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『どうやってって、気がついたらこの場所で寝てたんですよ』
そう言えたらどんなに楽だろう。
だが、言ったとしても信じてもらえそうにない雰囲気だ。
彼を取り巻く空気が信じられないほど冷たい。
(な、なんでこんなに怒ってるの?)
びくびくと怯えながら彼を窺うが、追及の視線が途切れることはない。
「答えられないのか?」
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「あのー」
「なんだ?」
「ここどこでしょう?」
とりあえず、自分がいる場所の名前を知っておきたい。
「・・・俺の屋敷だ」
いや、聞きたいのはそんなんじゃないんだけど・・・。
ついさっきまで、不安で泣いていたとは思えないほど苛ついてきた雪乃。
「お前は突然、庭にある池に現れた。前触れもなく、まるで物の怪のように」
ブチッとなにかが切れたのを、雪乃はどこか遠くで感じていた。
「・・・・・・『物の怪』?」
ムクリと起き上がり、ジトッと男を睨みつける。
「だぁ゛〜るぇがぁ物の怪じゃあーー!!!」
近くまで来ていた男の胸倉を掴み、怒鳴りつけた。
「わたしには、雪乃って名前があるのっ!『お前』でも『物の怪』でもない雪乃なの!!」
立ち上がり、精一杯彼を威嚇する。
「だいたい、何でここにいるのかなんて、わたしも知らないもん!ちゃんと家にいたんだからっ」
最後の方は、涙声になっていた。
言いたいことを言い終わり、荒い息を吐き出す。
俯いて、唇を噛み締めた。
ポロポロと涙がこぼれ落ちる。
男は黙って雪乃を見つめていた。
身体を震わせ嗚咽を堪える彼女が、怪しい者とはどうしても思えなかった。
「・・・・・・わるかった」
気づけば、自然と口から言葉が出ていた。
「俺は源頼久。この屋敷の主だ」
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