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僕と君との迷宮攻略――序  作者: 御咲花 すゆ花
第一章――三つ子村
27/28

成員として――上

 戦闘地帯(バトル=エリア)


 その東側の経路(ルート)ではオウギがはじめての実戦を行おうとしていた。震える体、その原因は必ずしも怪我(けが)に対する恐れだけではない。自分のために動くという決意が少なからずオウギに力を与えていた。


 そんなオウギを見守るようにして近くに立っているのはボクノヤミである。オウギに最後の確認をするべく、いつものような穏やかな声で口を開いた。


(うろこ)の注意点は覚えていますか?」


 オウギは思う――異能(ギフト)が効きにくいことだっけ? でも、違う気がする。


 緊張からか、オウギはわかっているはずのことを忘れてしまっていた。


「……すみません、覚えてません」


「牙による特殊な攻撃をして来ることです。麻痺(スタン)についてはどうですか?」


「それならわかります。五秒間、異能(ギフト)も使えずに動けなくなります」


 満足したようにボクノヤミがうなずいた直後、出現(しゅつげん)した(うろこ)がオウギたちの前に姿を現した。


 先述したように、(うろこ)体貌(たいぼう)はおよそ(ヘビ)である。手足があることを踏まえれば蜥蜴(トカゲ)により近いのだろうが、動きは(ヘビ)のそれだ。攻撃するときは地面を手でしっかりとつかみ、自慢の尻尾を振り回す。斜め下から迫って来る攻撃はまさにボクノヤミと訓練した動きそのものだ。


 落ち着いて呼吸を整える。


 こちらから攻撃をあてない限り、魔物(まもの)は戦いに来ない。最優先攻撃目標(ターゲット)が存在しない以上、あくまでも優先順位は安全地帯(セーフティー=エリア)への到達である。


 掛け声とともにオウギが片手剣(かたてけん)を振りおろす。


 命中。


 すぐさま、(うろこ)の反撃がはじまった。


 予想より速く伸びる尻尾。


 剣はさがったままだ。


 叩き落とせない。


 無理せず後ろへと回避。幸い、東側の経路(ルート)にいる下人(ムルイ)はオウギを含めて三人だけである。間違っても接触はしない。


 今一度、呼吸を整えて剣を伸ばす。


 あてることに意識して尻尾を待つ。


 衝撃。


 伝わる振動。


 しびれる。


 手から落としそうになった。


 防戦一方。


 後退せざるをえない。


 だが、確実に防げてはいる。


 それが慣れへとつながっていく。


 頃合い(タイミング)を見て剣を振るう。


 次の瞬間。


 オウギには牙が迫って来ていた。


 瞬時にそれが特殊な攻撃であることを理解する。


 直線的な軌道。


 避けられない。


「――ッ!」


 だが、牙がオウギにあたることはなかった。


 ふいに(うろこ)の首が不自然に曲がる。それがボクノヤミによって下から切りあげられたためであるとオウギ気がついたとき、すでに(うろこ)は返す刀によって地面に叩きつけられていた。動けなくなった(うろこ)を引き裂くようにしてボクノヤミがとどめを刺す。鮮やかな手並みにオウギが感心していると、ボクノヤミが剣を鞘へとしまいながら口を開いた。


「大丈夫でしたか?」


「は、はい。ありがとうございます」


 その後、何度か戦っていくうちに緊張がほぐれ、一応は見好(みよ)いものができるようになった。ゆえに、油断があったのだろう。第三(ウェーブ)のおわりにオウギは軽い怪我(けが)をした。救援の合図があげられ、すぐにタヤが駆けつけて来た。


 タヤと(じか)に話すのはこれが初めてだ。そのようなことをオウギが思っていると、察したのかタヤが簡単な挨拶をして来た。


治療者(ヒーラー)のタヤです、よろしくね」


 オウギも応えつつ、タヤが中心(メイン)治療者(ヒーラー)であることを思い出していた。オウギの状態を確認したタヤがそのまま詠唱(えいしょう)を開始する(*1)はじまりの文句を口にするやいなや、オウギに手を振って所定の位置へと戻っていった。


 オウギは思う――少し、つかめた気がする。もう少しつづければ……。


 だが、そうは問屋がおろさない。鳴り響く笛の中、傷が治ったことを確認したボクノヤミがオウギへと口を開いた。


「では、オウギはこれでおしまいです」


 驚き、思わずオウギは反発する。


「そんな! もう少しだけさせてもらえませんか? あと少しでできそうなんです……」


 これまでオウギが積極的になったところを見ていないボクノヤミは「意外だ」と思ったものの、口に出すまではしなかった。


「やる気自体は高く評価するのですが、次の(ウェーブ)無作為(ランダム)な個体が多いので練習には適していません。焦らず、ゆっくり行きましょう」


 そのように言われてはオウギも引きさがらざるを得ない。渋々とうなずくオウギを横目にボクノヤミは安全地帯(セーフティー=エリア)までの案内をだれに頼もうかと周りを見回していた(*2)


「俺が行きますよ」


 そう言って手をあげたのはキブトコであった。


 キブトコは三つ子村(みつごむら)の中でもはっきりとした保守派の下人(ムルイ)である。何の理由もなく、転移者(てんいしゃ)であるオウギの案内を買ってでるとは考えにくい。企図があることは明らかであったが、いずれは通る道だろうと考えなおしたボクノヤミはキブトコに任せることにした。


「では、お願いします」


 (あご)を軽く動かしたキブトコがオウギを見つめる。「ついて来い」と言わんばかりの態度にオウギはうなずくと小走りをした。




〔注記〕

*1:タヤの詠唱(えいしょう)は次のとおりである。「大いなる存在に()して祈る。()け出す(きのこ)――野原の真珠(しんじゅ)、泉に(ひそ)んだ秘密の夕暮れ。水声山色(すいせいさんしょく)――切り岸(きりぎし)(いだ)く腕、溌溂(はつらつ)と空を飛び回る。(しょう)、佳句、(れい)、蘭、静寂(しじま)に託そう月の船。青嵐(せいらん)(あずさ)、時を刻む星。《緊急治療(スペシャリスト)》――これをもって(わざ)とする」。


*2:(ウェーブ)が移ったので、東側の経路(ルート)にも中央からの応援が来ている。必要であれば「三日目――迷宮(4)」を参照されたい。

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