閑話 剣と盾 前篇
閑話です
裏設定を思い出して、書きました。
登場人物は2人(?)を覗いて、全員初登場です。
「逃げるのは終わりだ、この峠で迎え撃つ。
魔法が使える者は木を倒せ、道を塞いてバリケードを作る。
弓隊は位置に付け。
身の軽い者を選んで両側の崖を調べさせろ、抜け道がないか確認」
ヤン卿が、裏切るとは思わなかった。
先の大戦から、30年も経っていない。
やっと復興が見えたここに来て、旧王国の貴族共が口を出し始めた。
お前ら、いままでどこに隠れてたんだ。
今までにも、小規模な紛争は起きていた。
昔の特権を要求し、父に断られての事だが、当たり前だろう。
彼らは先の大戦に参加していないし、その後の復興にも協力していない。
そもそも亡国の貴族だ何の権利もない、無論そんな事は彼らも知っている。
挙兵の理由にしているだけだ。
その強引な理由で、旧テミラル王国のグルツラカ伯爵と名乗る男が、反乱を起こした。
父が大戦で荒れ果てたこの地に、新しい国を作るためどれだけ苦労したか。
その労が報われるこの時になって、横取りをしようと言うのだ、許されるはずがない。
挙兵したグルツラカ伯爵に対し、3方から鎮圧軍が向かった。
その一軍が私に任されていた。
この機会に不満を持つ者が、伯爵の元に集まれるよう、罠をはっていた。
逆にその罠に、はまってしまった。
レルゲルン卿やルークス卿が不満を持っていたのは知っていたが、大戦時に父と共に戦ったヤン卿が裏切るとは思っていなかった。
ヤン卿の軍が最も多い、本来主力と考えていたのだ。
「敵が見えました。
遅れている味方に追いつきそうです」
味方の重歩兵隊が遅れている。
いくら魔法の補助が有っても、全身鎧の彼らの移動は遅い。
それを見越して荷馬車を使っているが、それでも彼らが最後になってしまう。
敵は私の目には見えないが、監視役が見たのならば確かなのだろう。
騎馬隊が先行して私達を追っていたはずだ。
「出ます」
味方の救援に向かうつもりでいる。
「いや、ここで迎え撃つ準備を」
兵の数が足りない。
ヤン卿も敵に回ったため、向こうの戦力が3倍もあるのだ、無駄に出来ない。
「見捨てるのですか」
「見捨てるものか、ギリギリ間に合う。
それに多少の攻撃を受けても、騎兵では重歩兵へ致命的な被害を与えられない。
攻撃されても、応戦せずにそのまま全力で走らせろ」
不格好に走って逃げてもいい、生きていれば今回はお前たちの勝ちだ。
「弓隊、矢の準備。
魔法と魔法矢は使うな。
普通の矢では、盾を構えれば重歩兵に被害は出ない」
一瞬、驚かれた。
私が、味方もろとも、攻撃しろと言ったからだ。
だが彼らなら、矢を見れば盾を構えるはずだ、そう訓練をしている。
それに対して敵の騎馬隊の盾は、大きくない。
機動力を優先している為だ、剣や槍を防ぐ事が目的のものだ。
本当にギリギリで、目の前で追いつかれてしまった。
一斉に矢が放たれ、重歩兵は盾を構え防いでいる。
むろん矢は馬にも当たる、鎧や盾で守られている人より、多くの馬が倒れた。
重歩兵は馬車を捨て走り出している。
「騎馬隊が離れて行きます」
このままでは騎馬隊が一方的にやられる、いい判断だ。
走り込んできた歩兵達を、味方が歓声で迎えいれていた。
「ミミ重歩兵隊、ただいま到着いたしました。
助けていただきありがとうございます」
重歩兵隊の隊長が、報告に来た。
肩で息をしている。
「被害は?」
「死者2名、重症4名。
他は戦いに参加可能です」
2人が死んだか。
動けないのも4人以上いたな。
「無理はさせるな。
バリケードの後方に展開、防衛に専念しろ。
奴らの侵入を許すな」
「はっ!」
重い鎧を着ているとは思えない速さで戻って行く。
向こうは騎馬隊が先行して追ってきたはずだ、主力が来る頃には日が沈んでいる。
昔の貴族は、何故か戦闘を昼間しか行わない、夜の戦いは品が無いと言うのが理由だ。
魔王軍相手にそれをやって、大戦初期にはボロ負けしていたと聞いた。
グルツラカ伯爵を名乗っている奴も、そうあって欲しい。
「砂塵が見えます。
他の騎馬隊が来ました」
騎馬隊?
戦力を分散させて、追撃してきたのか。
先に来ていた部隊に手柄を渡したくないと思ったのか。
後からきた騎馬隊と合わせ、敵はかなりの数になる。
その数で、攻めてきた。
騎馬隊の指揮官が変わったな。
戦いにおいて絶対的な力の差が無い場合、有効な攻撃かは相手との相性によって決まる。
騎馬の攻撃は槍を持っての突撃、その機動力と攻撃力で、敵部隊を切り裂く。
が、一転、防御を固めた相手には効果がない。
飛び道具で待っている相手では、いいマトになってしまう。
今の指揮官は、その事を知らなかったようだ。
「弓隊、魔法攻撃が出来る者、突進してくる馬鹿どもを狙え。
精霊使いは、精霊をバリケードの前に召喚、攻撃から漏れた者を黙らせろ。
神官は、敵がバリケードを越えようとしたら障壁を作れ、短い時間でいい」
バリケードのこちらには、重歩兵が槍で構えて待っている、一瞬でも止まればそれで十分だ。
「ここが正念場だ、日がくれるまで耐えろ」
数回の突撃を防ぎ、日がくれた。
攻撃をしてこない、運がいい古い考えを持つものが上にいる。
「乗り切りましたな。
それに、向こうの犠牲が多い」
今後の作戦を決めるため、各隊の隊長が集まっている。
「たまたま、うまく行っただけだ、油断をするな」
確かに今日はしのげたが、こちらにも犠牲者が出ている。
倒した数はこちらが多いが、絶対的に兵の数の少ない、戦略的には負けている。
「しかし、ヤン子爵が敵側につくとは」
「ヤン子爵は元は旧テミアルの貴族、グルツラカ伯爵とは何かしらの縁が有ったのかもしれませんな」
私が自由な発言を許しているので、集まった者たちは思った事を口にしている。
ヤン卿にはもっと注意すべきだった。
そこを見逃していた、私の甘さが招いた結果だ。
「しかし、良く逃げ切れましたな」
副官は私を見ている、意見を聞きたいようだ。
「私達は、敵が逃げると思っていた反対側に走りましたから。
対応に遅れがでたので、助かったんです」
念話が出来る者の寝返りに気づいて、すぐに逃げだした。
ただし王都へ逃げ帰る道ではなく、グルツラカ伯爵との戦いの場に向けて。
敵は一部は王都への道で待ち構えていたはずだ。
残りはそのまま伯爵に味方する為に、この道を通る予定だったと思う。
「この峠で敵を足止めする。
向こうでは、兄が伯爵と名乗るふざけた者を、討伐しているはずだ。
私達の敵は、その戦いに加わろうとしていた」
この数が加われば、兄と言えど厳しい。
ここで食い止める。
「この戦い、敵を殲滅する事が目的ではない。
長く戦う事だ、だから無理はするな。
部隊を3班に分け、1班は必ず休ませるように。
出来るだけ戦力を温存して戦う、いいな」
「「「了解いたしました」」」
◇
3日間戦闘が続いている。
最初にバリケードをはった防衛線は、すでに放棄している。
後方に防衛線を築いて、後退しながら防御を続けていた、無理はしない。
3回目の夜になろうとしたが攻撃が止まない、夜も戦闘を続ける事にしたようだ。
最初からされていれば、ここまで持たなかっただろう。
向こうから一騎でてきた、あれはルークス卿か。
「カナーエフ王子。
いや王子とは名ばかりの不義の子よ」
両軍に聞こえる大声だ。
ここに来て、私の挑発を始めたのか。
「言われるまでもない」
自分の感情はなかなか抑えられない、小さく声が漏れてしまった。
隣にいた副官に目が行ったが、彼は下を向き目を合わせない。
不義の子
この隊に来た時、副官も陰で言っていたのを聞いている。
父は先の魔王大戦で、魔王軍を退け人に勝利をもたらした英雄。
守護竜の1体、銀鱗翼竜殿に乗る竜騎士。
戦後、アルテミラル王国を起こし初代国王・英雄王ミハイロファンとなり、戦いで荒れた国を復興した。
王妃ケイト様は、兄グリゼスを生んだのち出奔した。
父は「彼女にはまだすべき事がある、追うな」
と命じてその行方を探さなかった。
王妃不在となった後、その席へと母が入り、私が生まれた。
父は、王妃はケイト以外は認めていない。
母は寵妃という扱いになる。
父は母を政治的な理由で受け入れたが、女性として愛していたのは王妃だけだった。
だが誰でも知っている、私は父の子ではない。
不義の子。
それが私だ。
父は私を我が子とし、兄と同じに接してくれる、それがどれほど辛い事か。
先の大戦が始まった時、父はサジ王国の衛兵だった。
国が滅んだ後、同じ境遇の者をまとめ魔王軍との戦いを続けた。
その者達は国の枠を越え、人々のために戦った彼らは自由騎士と呼ぶようになる。
戦いで疲弊していた各国も父達を受け入れ、その勢力は大陸全体に広がり勝利に大きく貢献した。
大戦後、自由騎士の精神を守るため冒険者ギルドが創設される。
この組織の設立に父は助力し、冒険者の移動の自由を全大陸の国家に認めさせたのだ。
勇者であり守護竜の『銀鱗翼竜』の盟友、英雄王ミハイロファン。
荒れ果てた地に、新たにアルテミラルをおこし、『人界の盾十国』の再建に尽力した。
偉大なる英雄王。
兄も英雄の子に恥じない英傑だ。
今回もそれを示すだろう、倍の数が立てこもる砦を攻めている。
砦を落とすには倍の数がいると言われているが、その逆なのだ。
それでもあの兄ならばやり遂げるだろう。
それに、引き換え私は。
ヤン卿の裏切りにも気づけなかったため、父にお借りした兵を失っている。
みんなも兄の兵になりたかっただろう、俺みたいな不義の子ではなく。
ルークス卿は、まだ何かを叫んでいた。
「王子!
出撃の許可を
あの恥知らずな男を討ち取って参ります」
重歩兵の隊長が、出撃の許可を求めて来たが
「言わせて置け。
私を挑発して、おびき出すつもりだ。
あと連戦で疲れている兵達の不満を煽ってるのも有るかな」
「あのような、言葉を信じる者などこの軍にはおりません」
そう言ってはいるが、副官が震えている。
自分達の指揮官が、不義の子では恥ずかしいよな。
「お前達は、英雄王ミハイロファンの兵である。
この戦いは、祖国アルテミラル王国とその国民の為のものだ。
それを忘れるな」
ルークス卿よりも大きな声を出す。
兵たちが歓声で答えてくれた、まずはこれでいい。
俺が誰かなんて、この戦いには関係がない。
さすがに、夜も戦闘が続くと応じれなくなってきた。
「後退を始める、塀に火を放て。
火炎にまぎれて撤退するぞ」
2番目の防衛線も放棄した、残るは峠頂上付近に作ったものだけだ。
日が上り始めた。
4日目の戦闘が始まる。
「ヒドラです。
ヒドラが騎兵として出てきています」
見張りからの、声が届いた。
朝日の中にヒドラが見えた。
6本足の大きなトカゲ、背は引くいが体は大きい。
その背に数人の人が乗っている。
最近、魔物や魔獣を乗り騎兵として使う技術が生み出された聞いた。
グリフィンを乗りこなす実験が行われているとも。
ヒドラは魔境生まれの魔物ではないが、毒を吐く。
兵器として使われれば、驚異になる。
その数は10体ほど、今の兵では防げない。
こちらの攻撃が届く所は、向こうの毒も届いてしまう。
有効なのは、身体強化と毒無効化の魔法・奇跡をかけ、接近戦を仕掛けるしかないが。
兵の数が足りない、ここまでか。
放棄しよう。
2020/03/10
恥ずかしいので、泣き言削除 & 自由騎士とギルド創設の話、追加
ストリーで設定書ききれないから、閑話入れてるのに、入れなきゃならない話を入れ忘れててました...(回収しようとして書いてないの気づいた)




