3-7.御前試合
前回あらすじ:兵隊たちを懲らしめました
約束の朝に王都へ行くと、衛兵が案内をしてくれた。
案内された場所は、前に連れて行かれた離宮ではなく大きなお屋敷だった。
また待たされる。
軽食と飲み物は用意されているが、いつまでここにいればいいのか誰も教えてくれない。
教えてくれないだけでなく、口も聞いてくれないのだ。
俺達の世話をするために給仕やメイドが部屋へ出入りするが、声をかけても頭を下げるだけで応えてはくれない。
何故と聞いても、困った顔をするだけだ。
「口を聞くことを禁止されているの?」
リーシェさんが不思議がる。
そう思うが何故なんだろう。
認識能力でまわりを探ってみると、俺たちが連れて来られたのはかなり大きな屋敷。
でも中にあまり人はいないようだ。
見えていた城へは入らなかったので王宮ではないが、隣接した場所だったので高級な区画になるのではないか。
近くに人が集まっている場所がある、ここも大きい、劇場かその類のものだろう。
昼飯が出されたが、少しづつまんでいたのでお腹は空いていない。
2人も同じで手をつけない。
食事より、いつまで待てばいいのかを教えて欲しいと、思っていると
「失礼する」
と、男が部屋に入って来た。
今までこの部屋に入って来た者達は、頭を下げるが声を出してはいない。
見れば中年で、仕立てのいい服を着ている。
上役の者が来たらしい、これでやっと話が聞ける。
「初めてお目にかかる、私はフレンメルス。
王より男爵の爵位を拝領しています。
本日は皆様を闘技会場へ案内する役を仰せつかっており、お迎えに参上いたしました」
「え?」
この人は何を言っている
「?」
俺の返事が意外だったようだ。
「フレンメルス男爵様、申し訳ありません、まず説明をお願いできないでしょうか。
『竜騎士』より来いと、手紙をいただいたので、ここへ来たのですが私は何のために呼ばれたのですか?
今、闘技会場と言われたと思うのですが、それはどういうことでしょうか」
この人に聞くしかない。
俺の質問に、フレンメルス男爵の目が見開いている。
驚いているようだが、驚くのはこっちだ。
「渡された手紙にも、何故呼ぶのか書かれてないのです。
ちょうど海へ行こうと思っていたので、ついでにカリギュナー王国へ寄ったのです」
男爵へ『竜騎士』からの手紙を渡した。
手紙を受け取り、内容を見て動かなくなっている。
しばらくそのままの姿勢をしているが、数行しか書かれていないので読むのにそんなに時間はかからないと思う。
よく見ると手が振るえている。
「申し訳ありません。
こちらの手違いです、このような内容で人を呼ぶなどあってはならないこと!」
あ、男爵はまともな人だ。
それに貴族なのに腰が低い、平民の俺達に謝っている。
男爵の顔は怒りなのか、恥ずかしいのか真っ赤になっている。
でも、あってはならないと怒る内容は、手違いとは言わないと思う。
「ここでも誰も教えてくれないのです。
嫌がらせかと思っていました」
「いえ、そのようなことはございません。
ここにいたのは、何も知らされずにヨガ殿たちをもてなすよう指示を受けていた者たちです。
ほんとに何も知らなかった者たちです」
「それならそう言ってほしかった。
まるで声を出すのも禁止されているようでしたよ」
リーシェさんの抗議に、男爵は後ろにいたメイドを見るが、メイドは視線を床に置いて顔をあげない。
深い溜息を1つついて、視線を俺に戻す。
「黙っていたのは、余計なことを言って罰を受けないためでしょう」
男爵はテーブルに座る、説明してくれるらしい、これでやっと状況がわかる。
「『竜騎士長』がヨガ殿を呼んだのは、自分と試合をして欲しいからです」
な、なんだそれは。
それ知ってたら、こんなとこ来なかったぞ。
「その様子ですと、知っていたら来なかったとお思いですね」
「だから、書かなかったの。
騙して呼び寄せるなんて恥ずべき行為だと思いますが、男爵はどうお考えで」
俺が言う前に、キューさんが男爵を責める。
「私からは、侯爵への評をお許しいただきたい」
『竜騎士長』は侯爵か、それは余計ダメなのでは。
「最近、ヨガ殿を『竜騎士』がお知りになり、その中にヨガ殿が最強とする噂があったのがことの始まりです。
『竜騎士』は自分達が最強と自負しており、噂であっても自分たちより強いと言われる者を許せないのです」
そういえば以前聞いたことがある、剣聖を最強と言った時、面倒になると言い直しされた。
たしかに面倒だ。
「だから剣聖、自分は剣士として一番を目指していると誤魔化してるのか」
「剣聖様も1度『竜騎士長』とお手合わせをしております。
その時は剣聖様の剣が折れ、『竜騎士長』の勝ちとなりましたが」
剣聖が負けた!
なら俺が勝てるわけがないじゃないか。
「『竜騎士長』はお強いのですね、剣聖に勝ったのならば私なんかよりお強い。
噂など気にしなくても良いではないですか。
試合を中止することはできないのでしょうか?」
「残念ながら、王もお越しになる『御前試合』になっております。
今更中止する訳にはまいりません。
申し訳ありませんが、このまま試合には出ていただけないでしょうか」
かってなことを、いい加減腹がたってきた。
「それに剣聖が敗れたのは、前に行われた6つ星の冒険者との試合のことをお聞きになっていたのでしょう。
『竜騎士』が勝つまで、試合が終わりませんでしたので」
「終わらない?」
「『竜騎士』はドラゴンと繋がっていますので、ドラゴンのマナを使えます。
ドラゴンの膨大なマナで全身を強化しているので、傷つくこともありませんし疲れも知りません。
1日中戦っていることが可能なのです」
ドラゴンのマナを使っての『マナまとい』か、それは反則じゃないか。
剣聖、面倒になってまともに戦ってないな、俺も真似しよう。
その後男爵に案内され、闘技場に向かう。
大げさな紹介とともに俺は会場に入り、正面の貴賓席に一礼する。
中は見えなくなっているが『御前試合』になっているなら、王がいるはずだ。
俺が来たのが5日前なので、今日の王の予定はその時に決まったことになる。
俺を呼び出したのも、この国の大臣と言っていた、審判をするそうだ。
めちゃくちゃだ、何もかもがありえない。
『竜騎士長』が紹介され入ってくる。
俺は完全に噛ませ犬だ、もういいさっさと終わらそう。
「国民よ聞け!」
入場するなり『竜騎士長』が中央で叫び始めた。
その前に自分の国の国王に挨拶はいいのか。
「そのヨガと言う男は、自分が最強と嘯いているそうだ。
だがそんなことは私が許さない!
なぜなら最強の名は我ら『竜騎士』のものである。
今日はその身の程を知らぬ者に、正義の鉄槌を加える」
『竜騎士長』は俺を指差し叫ぶ。
もう怒る気にさえならない。
何だこれは、くだらないプライドとか、そんなレベルじゃない。
『竜騎士長』は後ろにいる、キューさんに目が行くと。
「そうだ、勝負は真剣に行おう。
負けた場合の罰は受けてもらう、お前が負けたらその女たちを一晩俺の寝室によこせ」
俺は何も答えない。
『竜騎士長』は返事など不要と思っている、掛け声とともに剣を振るってきた。
審判の開始の合図さえない。
早い、そして重い一撃。
過剰なまでの『マナまとい』
普通の人にも『竜騎士長』は光って見えているんじゃないか。
普通『マナまとい』での高速攻撃は単発だ、マナがそんなに続かない。
格闘家の連続技も1つの技として単発なのだ。
だが『竜騎士長』の高速剣は連続してくる。
ドラゴンから貰った膨大なマナがあるおかげで、マナをケチる必要がない。
俺もピノの力を借りて高速で避けた。
それも数回、今はピノの力を借りなくとも避けることができている。
『竜騎士長』の攻撃はすぐに見切れてしまった、早いが単純な動きだ。
そして気づいたことがある、彼は剣を習ったことがない。
ただ振り回しているだけだ。
マナの力で早く重いが、それだけだ。
簡単にかわせてしまう、これなら剣聖どころか6つ星の冒険者もかわせたんじゃないだろうか。
身体強化の為のマナも、攻撃しているとムラが出ている。
そこをつけば、十分にダメージも与えられそうだ。
攻撃を受けていて感じたのは彼が子供だと言うこと。
そう思った瞬間に、色々なことが腑に落ちた。
『竜騎士長』は子供なのだ。
かなり小さい頃からドラゴンと繋がっていたのではないのか、その力のため誰も諌める人がいなかった。
それは騎士と名乗っているのに、剣の修行をしていないことでもわかる。
たとえ子供でも、ドラゴンと繋がっていたなら今の彼と変わらない力があったのだ、それだけで十分に強い。
子供なら自分より弱い者から、何かを学ぼうとしなかっただろう。
そして彼の、恥を知らない、まわりを気にしない行動も理解できる。
力を持った子供が、そのまま力を持った大人になったのが彼だ。
多分『竜騎士』は全てそうなのだろう。
剣聖も、子供を相手にしても馬鹿らしいので負けたのだろう。
だが俺は、さっきの『竜騎士長』の要求で負けるわけにはいかない。
さて、どうするか?
「どうした、守ってばかりではないか、攻撃する余裕がないのか。
これでは私の勝だ。
いいな」
革鎧の胸部を切り裂いてみる。
『マナまとい』で強化してあった部分だが簡単に切れる。
<当たる瞬間、ソニックブレードにしてみました。
あまり硬くはなれないようですね>
それ以後は、少し攻撃を当てている。
鎧だけでなく、頬や腕を軽くかすり傷を作ってみるが、すぐに血が止まっている。
治癒魔法も行えるのか、長くなるな。
(ピノ、俺ってどのくらい戦い続けられる?)
『竜騎士長』が1日戦えると聞いていたが、俺はどうなのだろうと思って確認してみた。
<今のレベルで良いなら3日は余裕ですよ。
眠ってないので、その後は少しだるくなると思いますが>
だるくなる程度で済むのか、毎回だが自分の体には驚かされる。
攻撃が1回も当たらないで少しずつ傷ついていれば、実力の差は子供でも気づくだろう。
そして俺が勝負に勝とうとしていないことも。
俺が引き分けを狙っているとわかれば乗ってくれるかな、観客には悪いがじっくり待とう。
時間の余裕は俺にありそうだ。
案外それほど時間がかからないで終わるかも、ほら『竜騎士長』はイライラしてきた。
いきなり背後から、火球が飛んできた。
これはピノの力を借りて、なんとか避けることができた。
火球は反対の壁にぶつかり爆発、観客は悲鳴を上げて逃げ出している。
振り返って確認するまでもなく、場外にいたドラゴンが吐き出したものだ。
その後も俺を狙ってくる。
「卑怯だぞ」
「卑怯ではない、俺は『竜騎士』だ、ドラゴンの攻撃も俺の攻撃だ」
格闘場の舞台の外からの攻撃が卑怯と言っているのだが、理屈が通らない。
なら、あのドラゴンも俺の倒す相手だよな。
もう関係はない、殺ってやる。
「そこまでです。
『竜騎士長』お止め下さい。
ドラゴンの使い手たる『竜騎士』に勝てるものなどおりません。
最初からこの勝負は『竜騎士長』の勝ちと決まっていたのです」
さっきの審判が止めに入る。
ふざけるな、こんな茶番で2人を!
「ヨガ殿も冷静に、『竜騎士長』の言った戯言を本気にしないで下さい。
そうでしょう『竜騎士長』」
戯言?
やつはガキだ、あれは何も考えずに言ったことで冗談ではなかったはずだ。
「ああ、俺が勝ったらというやつか。
そうだったな」
『竜騎士長』はキューさんを見て笑う。
「ペレリオス様!」
審判が大声を出す。
『竜騎士長』だろう、名前を叫ばれ『竜騎士長』が審判を睨む。
そう言えば、『竜騎士長』の名前を初めて聞いた、呼び出しの時も『竜騎士』の隊長だったからだ。
「俺は女には不自由していない。
そうだな、そんなチンケな女よりその剣をよこせ。
俺が持っていたほうがその剣・・」
『竜騎士長』の言葉は、キーンという音で止まった。
俺の剣が『竜騎士長』の足元に突き刺さった音だ。
「どうぞ、お納め下さい」
俺は一礼して、その場を後にした。
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