3-4.聖騎士
前回あらすじ:商人の国に来ました
街を歩いていると、見なれた町並みになってきた、場末の酒場が並んでいる。
そこをすぎると家と呼べない建物が並んでいる。
貧民区に入ったらしい、大勢の人が中にいるのがわかる。
路上に寝ている者までいる、死体かと一瞬思ったが、違うとピノに指摘された。
スラムはハバルやラーディにもあったが、ここのは大きい。
富が集まる街なら、その裏側も大きくなってしまうのは仕方がない。
ハバルやラーディのスラムには、まともに稼げていない低レベルの冒険者が、住むこともあった。
スラム出身であっても、冒険者になって抜け出す道もある。
ジェイルズは冒険者の街ではない、ここから抜け出る方法は何があるのだろう、思いつかない。
そんなことを考えていると、人が集まっている場所を見つけた、炊き出しが行われてるようだ。
教会の神官が食べ物を配っている。
集まっているのは、子供と言ってもいい若者と、年寄がほとんどだ。
3列に並んで、食べ物をもらっている。
食事を配っている中に、白い胸鎧を付けた戦士がいた。
戦士は整った容姿と目立つ白い鎧もあり、人々の視線を集めていた。
その中に、熱く彼を見つめている少年がいた。
その少年に近づいて
「今、彼を襲っても、あっさり殺されて終りだよ」
と忠告してあげる。
少年はナイフを隠してる、彼の視線には殺意があったので、気づいてしまった。
視界にはあの戦士しか入っていない様子だった、頭の中にも他の存在はなかったのだろう。
そこに突然俺が話しかけたのだ。
俺に声をかけられた少年は、驚き慌てている。
とっさにナイフを向けようとさえしたが
「何もしないから、落ち着いて」
と穏やかな声で続ける。
「見逃してくれませんか」
と泣いているのか怒っているのかわからない顔で、哀願されてしまった。
「見なかったことにしてもいいけど、今の君ではただ無駄に死んでしまう。
気づいたから声をかけている、このまま死なれてしまうと嫌な気分になってしまうのでね。
できれば、今日はやめてもらえないか」
さっきの少年の声が、意外と冷静だったので、ナイフを持つ腕を抑えて説得してみる。
「あの戦士と君との腕では差がありすぎる。
殺気も出すぎている、それだとすぐに気づかれてしまい近づくこともできないと思うよ」
人を殺そうとしている方に、肩入れしているのも変だが、俺はこの少年を死なせたくないと考えている。
少年に純粋さを感じてしまったからだ。
「ここで、食べれなかった分は俺がおごる。
一緒に行こう」
腕を掴んだまま、その場を離れる。
戦士は気づいていないが、その横にいた女性は常に視線の隅に少年をとらえていた。
少しでも変な動きをすれば、少年はそこで終わっていただろう。
無理やりその場を離れたが抵抗はしない、少年にも無理なことはわかっていた。
止めてもらって、安心したのかもしれない。
少し離れて、酒場に入ろうとすると
「申し訳ありませんお客様、そちらのかたも連れ様でしょうか」
と入口で止められてしまう。
よく見れば、少年はかなり汚い恰好をしていて匂いもある、飯屋に入るにはふさわしくない。
外にも椅子とテーブルがあったので
「あっちならいい?」
と指さす。
「はい、大丈夫です」
と再度店の人に謝られた。
目立たない席を選んで、適当に料理を頼む。
少年はテーブルの上を見ている、頼んだ料理が目の前に運ばれてきても、そのままだ。
「世の中は、俺たちみたいなのの敵なんだな」
「店に入れなかったことを言っているのかい。
それは違うな、単純に汚かったからさ。
明日風呂にでも入って綺麗な恰好をしてたら、君が何も変わってなくても店の中に入れてくれるよ。
そうだよね」
ちょうど料理を運んできた店の人に聞いてみた。
「え!
ははい、そうですね。
本日のお詫びに、とびきり良い席にご案内します」
と笑顔を少年に向ける。
言った店員が、店の中に戻ったのを確認して
「特別な席に案内するとは良く言うな、俺たちの顔もよく見ていないのに、覚える気もなかったんじゃないか。
あれは、ありえないと思って適当に言ったな。
俺も君もそれほど気にされていない証拠さ。
世の中は生きづらいけど、敵に回るほど俺たちのことを気にしていない。
敵だと思っていたなら、逆に自意識過剰と思う」
少年はまた黙ってしまった。
「冷めるから、食べよう」
と言っても黙っている。
仕方がなく、俺は酒を飲みながら待つ。
「なら、何故放っておいてくれなかったんだ。
なぜ俺からミリを奪った」
やっと出してくれた声はとても小さい、ピノの力を借りてどうにか聞こえた。
「ミリと言うのは、友達かい」
俺に聞かすために発した言葉ではない。
聞こえたことに驚いていた。
「幼馴染だった。
俺たちは親を知らない。
同じスラムで暮らしている仲間と協力し合いながら、何とか生きてきた。
綺麗事だけでは生きていけない、まともな稼ぎのない時は盗みもする。
4日間、何も食べ物が手に入らなかったあの日、パンを盗んだ。
店主の泥棒の声であの男が、先頭で逃げていたゴニスを切った。
血を噴き出して転がるゴニスの首を見て、その場にいた全員の動きが止まったそうだ。
そして仲間を全員殴り倒して、駆けつけた衛兵に突き出したのさ。
パン屋の親父はいいと許したんだぜ、それなのにあの男は、罪は償わなければならないと言いやがった。
パン1つだぞ、それで首を切るか。
俺はその時街にいなかった、いればミリだけでも助けられてたのに。
この国は罪人への罰が重い、2度と犯罪をしようとは思わないようにする為らしい。
だからと言って14の少女を娼館に入れるか、そっちの方がよっぽどだ。
ミリは娼館に行くのが嫌で、自分で死んだ」
話す相手もなく今まで我慢してたのだろう、抱え込んでいたものを一気に吐き出すように泣きながら話した。
この時俺は、少年を見殺すことはしないと決めた。
「何もできないのが悔しいかい。
今の君では彼に復讐なんてできないよ」
「それでも、かまわない!」
「それは、ミリさんのためには何にもなってない。
たぶん彼女は君には死んでほしくないはずだ、そんなことは言われなくても分かっているんだろう。
でも君は怒りが抑えられない。
その怒りはミリさんのためのものじゃない、自分のためのものだ、たとえ自分が死ぬとわかっていても止められない。
それが、無理なこともわかっているのに」
「じゃあ、どうすればいいんだよ!」
怒りが俺に向かう。
「今は、と言ったよ」
少年は何を言われたのか理解できない、冷静でない証拠だ。
「その怒りを10年もっていられるかい。
君が必死に修行すれば、10年後彼に一太刀浴びせられるようになると思う。
彼も衰えるだろうからね。
彼女の思いも、君の望みも叶うと思うが」
今度の言葉は理解してくれた、俺に向けた目に固い意志が見える。
「今、ここで無駄なことをしないと約束してくれないか。
約束してくれたら手を貸してあげる。
冒険者になるためのお金を貸してあげよう。
冒険者になって強くなる、それを君にできるかい?」
「やる」
「そうか。
でも冒険者になるならラーディの方がいいな、この国で冒険者になるのは厳しそうだ」
最初から集団での狩りを前提としているジュア・ニフスでは、仮冒険者から1つ星冒険者になるのは難しい。
「君がこの国を出れるよう考えるよ、一応聞くが君は市民権はないよな」
少年は首を横に振る。
領民が領地を出るときは領主の許可がいる、そんなに手間ではないんだけど、市民権のない人間の場合どうなるんだろう。
準備ができたら、スラム街に行くと言って分かれた。
宿に戻ると、ジェロイさんから『明日の夕食の招待』が来ていた。
『急で申し訳ない』とのお詫びもある、何かあったようだ。
国を出るための方法は、その時聞いてみよう、この国を見たかぎりではそんなに厳しいことはないように思える。
翌日の昼も2人とは別れて行動した。
武器を探したが基本ここは安全な街、冒険者用の道具は扱っていない。
装備は諦めて、旅に使うものを揃えた。
妙に気分が高揚している、女性陣の買い物好きを少し理解できたかも。
夕食に招かれた場所は高級店だ、案内された部屋も豪華な作りになっている。
「これが肩の凝らない場所ですか」
先に来ていた代表に、思わず責める口調になってしまう。
「すまない、本当はヨガさんをダシに酒場でも貸し切って、久しぶりに羽目を外そうと考えていたんだが。
急に来客があってね。
しかも、ヨガさん達がこの街に来ていることを知っていて会いたいと言うのだ」
「そういうことは先に言ってください、その人は誰なんですか。
勝手に会いたいと言われても、こっちは合いたくない人かもしれません」
「そう言われるかも知れないと思って黙ってたのです。
聖騎士カルド様が、ヨガさんに会いたいと言われてね、諦めて下さい」
「聖騎士様がこの街にいらっしゃるのですか」
キューさんがまた猫をかぶって声を出す。
「キューさん聖騎士って、何?」
「ヨガ知らないの?
聖騎士と言うのは、教会が世界を守る者として正式に認めたかたです。
世界で2人しかいません」
「キューさんの情報は古いですな、プリルさんはカソーエナの国王になる時に聖騎士の名を返上しています。
今はカルド様しかおられません」
言い方の端から、ジェロイさんが聖騎士殿に良い感情を持っていないことが漏れている。
逆にキューさんは恋する少女のような顔だし、お兄様をもう忘れている?
どんな人だろうと思っていた丁度その時に来訪の知らせが来る。
キューさんは、当然のように出迎えに立ったジェロイさんの後に付いていこうとする。
俺とリーシェさんは顔を見合わせ、遅れて席を離れた。
予感があったが、来たのは少年の仇の戦士だった。
昼に見た女性も一緒にいる。
出迎えの挨拶の後、ジェロイさんが俺たちの紹介を初めたが、俺の名を言った途端
「君がヨガ君か、最近噂を聞くようになってね、1度忠告をしたほうが良いと思っていたのだ。
デ・リヒが君この街にいるかもと言うので、代表に会えるようお願いした]
リーシェさんやキューさんの紹介がまだだが、彼はいきなり俺に話始めた。
「君の強さは神に与えられたものだ、自分の欲望のままに使ってはいけない。
かつて私と同じ聖騎士として神の加護を受けながら、自分の欲望のままに生きることを選び、この役にいれなくなった者を知っている。
嘆かわしいものだ、たかが国王に成りたいという欲の為に、神の使徒を辞めるなど考えられない。
ヨガ君もそう思うだろう」
いきなり元同僚の悪口を言い始めた、それを聞いた俺は何と返せばいいんだ。
さっきまで聖騎士も知らなかったのに。
それに俺は、国民の幸せを左右する国王というものを、『たかが』とは流せない。
彼に対しては『他者を気にしていない、自分しかいいない』人という印象を持った。
実生活が忙しくなってきて、更新が遅れます。
でも週1は更新するつもり。
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