2-15.鬼
前回あらすじ:きな臭い話がありました
ゴブリンの巣の討伐依頼を終え、ラーディの近くまできた。
日が沈む前には街に入れそうだ。
このところクランが騒がしく俺たちにかまっていられない、護衛依頼が途絶えた。
「しかし、ゴブリン討伐だなんて今更な感じだな」
「トゥールさん仕方がないよ、私達2つ星なんだから。
普通ならゴブリンの巣の討伐は、4人では受けれないよ。
ギルドもわかってくれてるから受けれてるけど」
「でも、俺1人でも討伐できたんじゃないか」
最近、トゥールさんはこのパーティーで一番弱いことを自分でネタにしている。
気を使われるほうが嫌なのだ。
「お兄様、そんな言い方は止めて下さい」
キューさんはそんな自信のない兄がを嫌いなのだ。
でもトゥールさんは言うほど弱くない、多分この討伐依頼は1人でこなせただろう。
だからこそこの4人でゴブリンの巣の討伐を、今更と思ってしまうのは仕方がない。
依頼も歩きなら3日かかるので、報酬も少し高めだ。
馬のある俺たちには割がいいが、金には困っていないのでポイントが欲しい。
「困っている人がいたから依頼されているの、忘れない。
冒険者に依頼の中身は関係はない」
リーシェさんが冒険者としての正論を言って、トゥールさんの愚痴話は終る。
「今回マンティコアのおまけがついたから、よかったじゃないか」
帰りにいるのを俺が見つけた。
討伐依頼が出ていなかったので、まだ知られていなかったようだ。
この4人で、危なげなく倒している。
「あれな〜」
トゥールさんは言葉に困っている。
倒した時にも、遺体をギルドへの転送を止められた。
マンティコアに討伐部位の指定はない。
ランクが上の魔物には、そんな魔物も多い。
転送ナイフを持っているパーティーが前提になっているのだ。
転送ナイフは持っていたので、転送しようとしたら、
「マンティコアはまずいんじゃない」
との理由でリーシェさんとトゥールさんの2人に止められたのだ。
「トゥールさんは星を早く上げたいんだよね。
あれを送ってればポイント稼げたと思うんだけど」
「マンティコアはやりすぎだ、目立ちすぎる」
「何がやりすぎなの?」
俺にはわからない。
「ヨガはやっぱりわかってなかったのね」
俺だけなのか、キューさんを見ると自分はわかっているというようにうなずいている。
本当に俺だけらしい。
「前のマンティコア討伐依頼は、6つ星への昇級依頼だったのよ」
6つ星以上はポイントだけではなれない、ギルドが指定した特別な依頼をこなさなければならないのだ。
その条件の依頼は、昇級依頼と呼ばれている。
「そんな相手だったんだ」
「そうよ。
自覚持とうよ、私達かなり強いよ」
みんななんだ、俺だけじゃないというのも何故か嬉しい。
「目立つと、何が問題になるの?」
「小さな話なら、嫉妬。
だいたいの冒険者は大丈夫だが、中にはそんな者もいる。
しかもそんなのに限って面倒な奴らなんだよ」
トゥールさんには具体的な相手が見えている。
なら貴族関係者だ、俺も関わりたくはない。
「逆に囲い込もうとする人が出てくると思うわ。
貴族だったり、お金を持ってる商人だったり。
誰かの持ち物になるのはいやでしょう」
「まともな支援者の場合でも、支援を受けてしまうと自由には動けなくなるしな。
何より止められなくなる。
俺は4つ星になったらすぐやめるつもりだから、それは避けたいんだよ」
「支援なんて、受けなきゃいいじゃないか」
「こっちの意見が通る場合はね」
位の高い貴族の支援を断るのは無理か、目立たないほうがいい。
2人が転送を止めた理由が理解できた。
<前方に人が隠れてます。
9人、『黄金の翼』の人ですね。
様子から判断すると、ヨガたちを待ち伏せしています>
「この先に待ち伏せがある」
俺の注意でみんなに緊張が走る。
5日前、同じクランのメンバーで、帰って来ていないパーティーが有るのだ。
こんな時だから、クランは『黄金の翼』を疑ったが証拠がない。
俺らと同じクランの血の気が多いやつが切れて、『黄金の翼』の1人にケガをさせた。
普通、冒険者同士の喧嘩なら冒険者ギルドで裁かれるが、伯爵が出てきてしまい『アルテミラルの盾』が『黄金の翼』に賠償金を支払うことになってしまった。
貴族の爵位がものを言ってしまったのだ。
我慢の限界だ、ツェローラ子爵様から公爵へ連絡をした。
「やっちまおうせ」
「お兄様、子爵様から慎重にと言われています」
「でも私達を襲うつもりなんでしょう。
戦いは避けれないと思う」
「俺から1つ提案が有るんだけど。
3人はここから一度タード男爵領に向かってくれない」
「なんで家に?」
「俺らが全員馬を持っているのを知っていて、待ち伏せてる奴らも馬を持って来ている。
ここは魔境周辺だ、夜に移動手段をなくしたら魔物に襲われることもあるよね」
俺は今かなり悪い人相だと思う。
「リーシェさんの腕なら、真っ暗でも馬だけ当てることもできるでしょう?」
「そうね」
リーシェさんは、ピノの支援を受ければ明かりがなくても何があるかはわかる。
「ギリギリで助けてね。
彼らの証言は貴重だから」
「わかったけど、彼ら単独でやったと言われたら」
この襲撃者が罪を認めても、誰の指示でやったかの証拠は彼らの証言しかない。
「俺に考えがあるんだけど、任せてもらえない」
「ヨガ、危ないことしようとしてる?」
「大丈夫だよリーシェさん、全然危なくないよ」
「任せた」
「お兄様が言うのなら」
指立てる、キューさん最近"お兄様"をネタにしていないか?
俺は3人と別れて、ラーディに向かう。
追手が2人ついて来ようとしたが、ピノが本気を出して飛ばしているのだ、すぐに振り切った。
ビチュレイリワに調べて貰って、『黄金の翼」の目的はすぐにわかった。
ミツルもダルリ侯爵も関係なかった。
あまりにも身勝手な理由で、幼稚な計画が行われているのだ。
話を聞いて、早々に止めさせることにした。
ラーディに着くと1軒の酒場に向かった。
彼らのたまり場は調べている。
「話があるんだが、いいか」
中にいた『カルンの六翼』のリーダーに話しかける。
待ち伏せしていた中に『念話』ができる男がいた。
彼から連絡が入っている。
俺が3人と別れたのは知っていたと思うが、いきなり目の前に現れたので驚いている。
「なんだ、やるのか」
いきなり武器に手をかけて大声で応じた。
襲われる理由があると知っているのだ。
「喧嘩をしに来たんじゃない。
証拠に、ほら」
持っていた剣を、店主に投げる。
「ここで暴れるつもりはないから持ってて」
店で揉め事を起こされると思ってオロオロしていた、店主はホッとしている。
もう一度、向こうのリーダーに向き直って
「もう、こんなことはやめてくれ」
「何の事だ」
俺が武器を離したので、余裕ができたようだ。
声の大きさが戻る。
その彼に、俺は忠告をする
「お前たちは、雇い主の青年の言うことを信じているようだけど、えらい目にあうよ」
「なに!」
雇い主の青年と言うのは、無論伯爵の事だ。
伯爵は17才、ほんとに若い。
「ここじゃ話ができねえ、ちょっと顔を貸せ」
リーダーは席を立って、出ていこうとする。
他にいた仲間が、俺を囲んで一緒に外に出るよう促す。
店主に渡した剣は、そのまま店に預けて置くつもりだ。
視界の隅でニヤニヤした笑いが見える。
ここに武器を置いていくのは俺の計画通りだ。
俺が喧嘩をしに行くつもりがなかったことを、店の客が証人になってくれる。
『黄金の翼』の拠点につれて行かれ、リーダーと向かい合って座らされた。
まわりには、武器を持った仲間がいる。
かなり向こうに有利な状況だ。
「話をきこう、何か俺たちに言いたいことがあるのか。
それとも勘違いだったか」
俺がビビって、話しをやめると思っているのだ。
周りの男達も、下卑た笑いをしている。
これが冒険者の態度か、どう見てもならず者だろう。
ビチュレイリワは、彼らも雇い主の伯爵の前では紳士を装っているらしい。
「ここにいる皆さんは、雇い主の青年の話を信じているのかい。
お粗末な話だと思わなかったのか」
萎縮した様子も見せずに話を始めたので、予想外だったらしい。
「何を言い出しやがる。
知ったふうな口を聞くな。
そんなハッタリが俺に効くとでも」
「この話が、アルテミラルの剣から出ていると思っているようだけど違うよ。
公爵はまったく関係していない」
「なっ!」
アルテミラルの盾と呼ばれる我がクランの支援者、カナーエフ公爵。
この国には彼と並び、アルテミラルの剣と呼ばれる公爵様がいる。
ヴォタイン公爵様だ。
カナーエフ公爵様の政敵の、ヴォタイン公爵様がこの件の発信元と思っていたのだろう。
「俺達が、あの若造に騙されたとも言うのか」
自分達の雇い主の伯爵を、あの若造と言うのか、忠誠心がうかがえるな。
「彼は嘘はついてはいない、聞かされた嘘を信じているだけさ」
リーダーは黙った。
まわりの男達もだ。
「『黄金の翼」の目的は俺たち『アルテミラルの盾』と問題を起こすことだ。
このクランも続ける気がないから好き放題だ。
『アルテミラルの盾』と揉めるめなら何をやってもいいと思っている。
なぜなら、アルテミラルの剣の意向で動いているからだ。
でもそんな話はない」
「な、なんでお前ごときが、そんな話を知ってるんだ。
国の中央にいる人間の事を、お前ていどの奴がしっているわけないだろう」
横にいた冒険者が言う。
『カルンの六翼』の斧使いだ、あと反対側には同じく『カルンの六翼』の武道家がいる。
「そうだな。
危なく信じるとこだった。
だが知らなくてもいい話は知っているようだな、誰に聞いた」
自分達の知っている話は何処かで聞いた受け入れられたが、知らない話は作り話だとしている。
なんて都合いい頭なんだ。
「どこから聞いた、話してもらおうか」
「言うとでも」
ビチュレイリワから聞いたんだが、本当の事を言っても信じないだろう。
「仲間の命が惜しくないのか。
男はもう死んでるだろうが、女は連れてくるよう指示してる。
いい女がいるじゃないか、たっぷり楽しませてもらうよ。
俺は遠慮しておくが、ガキが好きなやつも多くてな」
本当にこんな事を言う奴がいるんだ。
しかも、俺を怒らせるには十分な、下品な顔と笑い方をくてくれる。
「襲撃の指示を自白してくれましたね」
一応、指摘をしておこう。
リーダーは立ち上がって、ゆっくりつ近づいてくる。
脅しているつもりらしい、演技過剰だ、思わず笑いそうになる。
「かわいそうに、仲間の運命は決まったな。
もうすぐ死ぬやつに、何を聞かれても、問題ねえよ。
知っている事を吐いて楽に死ぬか、苦しんで死ぬかどっちがいい」
彼には決め台詞だったのだろうか。
「さっきから、3人を襲うメンバーからの連絡がないでしょう。
おかしいとは思わないの」
念話できる冒険者を最初に倒すよう、リーシェさんに言ってある。
「なに!」
「うちの精霊使いは四大精霊を使役しているし、神官は神撃を使える。
あの7人では相手にもならない。
俺たちをなめすぎなんだよ」
<ここに入る前、ピノから連絡を受けている。
無事に7人捕まえたと>
リーダーの
「やれ」
を合図に、4人の武器が俺に襲いかかる。
俺は椅子に座ったまま動かない。
大きな斧は首の後ろに、槍は左目を突いて、1つの剣は後ろから心臓を狙い、もう1つの剣は前から腹を引き裂きにきていた。
が、どれも俺をキズ1付けることはなかった。
前にビチュレイリワが、俺は普通の武器で切られることはないと言った。
本当に無傷だ。
「で、何かしたのかい」
今度は俺が彼らを脅す番だ。
それも、二度と俺の前に立てないほどの、恐怖を植え付ける。
「やるじゃないか、
お前こっちが本職か」
武道家が俺を自分と同じだと考えたようだ。
俺がやった事を武道家が行う『マナまとい』だと思ったらしい。
マナは使っていないが、見えないのなら仕方がない。
武道家はマナをまとって顔を殴りにきた、彼の力なら顔が吹き飛ぶ。
顔に当たる直前で手首を掴んで止めた。
握り潰そうとしたが、『マナまとい』は硬い。
「...」
武道家は続けて足技を出そうとした
その前に、彼のマナに干渉して手首を握り潰す。
拳が目の前に有ったので、血が俺に向かって吹き出る。
全身が血だらけだ。
もう1人。
後ろに回った斧使いを、向こうの壁まで蹴り飛ばした。
彼は壁をぶち抜いて、突き刺さっていいる。
全身血まみれだ、口元に笑みを作った。
ここにいる全員に恐怖を味わってもらう。
立ち上がって、目の前のリーダーに近づく。
「仲間がどうなっても良いのか」
まだ、そんな事を言っている。
よく見れば震えている、逃げる事もできなくなっているのかもしれない。
「念話ができなくなった時点で襲撃が失敗したことに気づけよ。
そしてその汚い口で、彼女たちのことを口にするな」
掌拳で彼の下顎を吹き飛ばした。
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