2-8.精霊
前回あらすじ:
ヒロインはテンプレートです
寝不足だ。
昨夜聞いた話のせいだ、リーシェさん王女なの。
正式ではないと思うけど。
考えても仕方がないことを一晩中考えていた。
「ヨガ君、何だねその顔は。
枕があわなかったか」
「いいえ、タード卿、大丈夫です。
少し考えごとをしていまして、目が冴えてしまったんです」
「目が真っ赤。
ホント、大丈夫」
リーシェさん貴方のせいです。
「リーシェ君、おはよう。
今日は何か予定があるかね」
「いいえ、なんの予定もないですね。
この付近に、見たほうがよい場所はありませんか」
本当は帰るつもりでいたのだ、タード卿が何日かいろと言われたのと。
トゥールさん達も久しぶりの家で少しゆっくりしたいようで、数日お世話になる事になった。
なので全く予定がない。
「なら、花の公園が良いかもしれないな。
キュー、案内したらどうだ」
「確かに、あそこならリーシェさんは行ったほうがいいですね。
俺も行こうかな、キューいいだろう」
「はい、お兄様」
「ヨガもどうだ」
「1人残されても困る、一緒に行くよ」
馬で行くことにした。
4人で馬を並べるのは初めてだ。
「ヨガ、軍馬はすぐ乗れたろう」
「トゥールさんが言ってたとおり、軍馬は頭がいいみたいだね。
すぐに乗れたよ」
「私も。
そう言えばキューさん、花の公園ってなにがあるの」
「お花がたくさん咲いている公園です。
敷地はお父様のものですが、誰でも自由に出入りできるようになっています」
「タード卿、花が好きなんですね」
「ヨガ、あの父上には似合ってないと思っただろう。
好きだったのは母上だ。
キューも覚えているだろう」
「ええ、お母様との思い出はここが多いですね」
広い公園だ、柵もない。
綺麗にされていた。
種類ごとに複数の花々が咲いている。
「お父様はここで薬草の栽培を許可していて、そのかわりにその人達が公園の整備をしてくれています」
中央に、池がありその真ん中には小さな島がある。
島には東屋が立っている。
近くまで行くと、池の中に少女がいる。
いや人の子供じゃない、かなり小さい。
その少女が、池の上に立ちこちらを見ている。
「お、今日は出てきてくれたんだ、運がいいね。
なんだかわかるリーシェさん」
「水の精霊ウンディーネですか?」
「そうこの池には、水の精霊『ウンディーネ』がいる」
「精霊使いは?」
「いない」
「え!
なんだ、それ。
そんなことあるのリーシェさん」
「ええ、あれは多分精霊使いに呼び出された後、何かの原因で戻れなくなった精霊だわ。
聞いた事はあったけど、本当にいるのね」
(ビチュレイリワ、精霊が見えている?)
[ヨガが見えている姿は、検出できませんね。
ただし精霊のマナはハッキリわかります。
今まで精霊は、精霊使いが造っているものだと考えていました。
その精霊使いがいないだなんて、精霊は単体で存在できるのですね。
私から見れば、精霊はマナそのものです。
しかし生命ではありえません、肉体がないのです。
私には理解できない存在です]
「あそこにシルフもいる」
リーシェさんが指さす。
『ウンディーネ』の近くを、別の少女が飛んでいる。
彼女が人でないのは、体が透けて向こう側が見えていることでわかる。
あれが風の精霊『シルフ』か。
リーシェさんは水、火、風の精霊魔法は使えるが、全て生活級のものだ。
火を起こしたり水を動かしたりはできるが、精霊は姿を持っていない。
『ウンディーネ』『シルフ』は姿を持つ精霊で、戦闘級以上の精霊魔法でなければ呼び出せない。
「『ウンディーネ』『シルフ』だけじゃなく、この花の公園には『サラマンダー』もいるぞ。
ほら、あの島の小屋の中に」
よく見ると、小島の東屋に明かりが見える。
小さい炎があるらしい。
「トゥールさんここはなんなの」
「父上が婚姻した時に、花が好きな母上のために作った公園と聞いている。
母上は、本当によくここにきていたな。
精霊は俺が小さいころからいた。
聞くとこの公園が出来た時からいたらしい。
父上も母上も特に問題にしていなかったしな、俺とキューにはいて当たり前の存在だ」
「私は覚えていませんが、小さい頃は精霊と遊んだそうです。
お母様に、そう聞いたことがあります」
「キューさんのお母さん精霊使いだったの?」
「いいえ違います、普通の人でした。
お母様が一緒の時は、精霊はよく出てきてくれていました。
精霊もお母様が呼ぶと応えていましたね」
「それおかしいわ、精霊の名前はその精霊と絆を築けた精霊使いしか知らないはずよ。
絶対に他の人には教えない。
トゥールさんのお母さんはどうして知っていたの」
「俺たちには、わからない。
母上に聞いても、笑顔でごまかされていた。
母上は名前を知っているだけで、話はできなかったようだぞ。
話している様子はなかったからな。
そうだったよなキュー」
「ええ、精霊は呼ばれると笑顔を返してくれたけど、それだけだったようですね。
精霊の気が向けば近寄ってきたけど」
「2人はその名前覚えていない?」
「子供のころだったし、小さな声だったからな。
覚えていない」
「こんな所に精霊がいたら、精霊使いが捕まえようとするはずよ」
「流石リーシェさん精霊使いだね。
過去に何人も、彼女達を捕まえに精霊使いが来てるよ」
「今でもここにいると言うことは全員失敗しているのね」
「だから、リーシェさんも試してみたらと思って誘った」
「トゥールさんが、リーシェさんに来たほうがいいと言った理由はそれですか」
「リーシェさんが、精霊達を使えるようになれば、パーティー戦力の底上げになる。
それに、知らない奴に連れて行かれるより、リーシェさんがいいと思ってね」
「トゥールさんありがとう、でも今の私では無理。
それこそ精霊の名前でも知っていれば別だけど」
「精霊の名前か、なにかヒントがあれば良いんだけど」
俺もリーシェさんが、あの精霊を使えるようになるのは賛成だ。
タード卿がここに来ることを勧めてきた、ならリーシェさんだけにわかるヒントがあるはずだ。
認識能力を使って小島を見てみるが、何も見えない。
マナは感じているが、あそこにあの小島は認識できない。
(ビチュレイリワ、あの小島ってもしかして精霊?)
ピノの能力では『ウンディーネ』も『シルフ』も同じようにマナしか感知できていない。
その姿は俺の目でしか確認出来ていないのだ。
[私には判断出来ません。
ですが普通の島で無いことは確かです]
ならここには、四大精霊が揃っていることになる。
「トゥールさん、この公園で四方に4つあるものって思いつきませんか」
四大精霊は方位と関係づけられている。
風の精霊が南、火の精霊が東、土の精霊は北、水の精霊が西になる。
「勘がいいねヨガ。
この公園には、四方に入り口がある。
それぞれの入り口には石碑があって、文字が刻まれている。
たしか
南がボドイゼズ。
東がエワクォカナ。
北がミュンヒハウゼン。
西がチロレエル。
だけどヨガの推理は、過去に精霊使いもしたことがある。
無論この名で読んでも反応する精霊はいなかった」
でも、この中にリーシェさんへのヒントがある。
「リーシェさん、この中にタルクさん関連で何か思い当たるものがないですか」
「え、どうして父が?」
「タード卿はタルクさんを知っていました。
なら逆にタルクさんが、タード卿の奥様を知っていた可能性もある。
ここの精霊の名前を知っていたなら、精霊使いのリーシェさんにヒントを残していると思うんです」
この4つの名前に、何か関連が。
「ミュンヒハウゼンと言えば、その名前の男爵のお話がありましたよね」
このキューさんの、一言に
「ホラ吹き男爵か。
それは今関係無いだろう」
トゥールさんが否定したが、その話が当たりだった。
「お父さんに昔のパーティーによく嘘をつく人がいて、嘘つき男爵というあだ名が付いたって聞いたことがある」
「「それだ」」
「リーシェさん、タルクさんからその人の名前も聞いているよね。
口にしないで、それが精霊の名前なら俺たちは知らないほうがいい。
北の石碑なら、土の精霊の名前の可能性がある」
「おいヨガ、この公園には土の精霊『ノーム』はいないぞ。
リーシェさん、『ノーム』って小人の姿だっけ。
そんなのは、いままで見たことない」
「そうなんだけど、『ノーム』は姿を見せない精霊でもあるの。
变化していて別の姿になっている事も多い」
「ならあの小島が、土の精霊だと思う。
キューさんあの島からマナを感じない」
「感じるけど『サラマンダー」のものじゃないの」
「リーシェさん、その嘘つき男爵の名前を、あの小島が『ノーム』だと思って呼びかけてみて」
「わかったわヨガ」
リーシェさんは池のふちまで進んで、胸に手を当て島を見る。
そして深呼吸を深くすると、目をつぶる。
『ノーム』に呼びかけているのだろう。
すると突然、湖から小島の前に何かが浮上した。
大きな亀の頭だ。
やはり『ノーム』は姿を変えて島になっていた。
亀がリーシェさんの方へ近寄ってきた。
頭を陸地につける、小島までの橋のつもりなのだろう。
リーシェさんが、俺の方を振り向いて。
『ヨガ、どうすればいいの』
「他の3体の精霊の名前が、あの東屋にあると思う。
ここは、リーシェさん1人で行くべきだよ」
他の2人も、頷いて同意している。
もう一度深呼吸をすると、小島に渡っていく。
リーシェさんが、東屋に近づくと炎が大きくなった。
リーシェさんは東屋をいろいろ調べているようだ、名前を探しているのだろう。
あの『サラマンダー』の炎が大きくなったのもヒントなのだろう。
精霊達もリーシェさんと絆を結びたいんだ。
何かを見つけたようだ。
『サラマンダー』の炎が一瞬大きくなり消えた。
『シルフ』が喜びながらリーシェさんの胸に飛び込んで消える。
『ウンディーネ』も池の中に消えてしまった。
そしてリーシェさんが乗っていた小島が、突然消える。
「キャー」
慌てて池に飛び込もうとする俺を、キューさんが腕を掴んで止めた。
「リーシェさんは大丈夫。
ほら」
リーシェさんは、池の上に座っている。
ビックリした顔をしている。
座ったまま、こちらに滑って移動し始めた。
無事に陸に上ってみれば、濡れてもいない。
「ありがとう」
リーシェさんは、右手を池の水に付けて礼を言っている。
水の精霊に言ったのだろう。
こっそり小さな亀も上陸している。
「ビックリさせないで」
姿勢を低くして、亀の前に両手を広げた。
亀は彼女の手によじ登ると消えてしまった。
「やったのか、リーシェさん」
「すごい」
トゥール達2人にも思うところがあるだろう。
精霊達は母との思い出の中にいたのだから。
俺も笑って祝福した。
これはリーシェさんに決められた運命なんだろう。
それが良いのか悪いのかはわからない。
(精霊は精霊界にいったの?)
[リーシェさんの中に入りました]
(どういうこと?)
「私は1人にはマナは'1つ'しかないと考えていました」
(普通そうだろう、違うのか)
「リーシェさんの中にマナは1つしか検出出来ません。
ですがこれは、私がマナの個数を検出できないためと考えられます。
私は生命にある最大のマナを検出していたようです。
精霊のマナ量は以前リーシェさんのマナより少しだけ多いものでした。
今のリーシェさんは精霊のマナ量を示しています。
精霊のマナがリーシェさんの中に入り、そのマナを検出したためと思われます」
(じゃあ今のリーシェさんには本人の物と新しい精霊4つ分のマナがあるの?)
[それが精霊使いが自分のマナをそれほど使わないで、精霊魔法を行える理由のようです]
(じゃ俺も同じ方法でマナを増やせるじゃないか)
「残念ながら、ヨガには出来ないでしょう。
貴方は心の底では精霊を信じていません。
私と接触した影響です」
「精霊がリーシェさんの中に取り込まれたように見えたんだけど、キューさんは見えた?」
「ヨガさん何を言っているの、精霊は呼び出されるまで精霊界にいるものでしょう」
これが、常識だからな。
<私からも1つ。
池の底の下には、遺体があります>
(遺体?)
<弔われた人骨が、眠っています>
この花の公園は、その人の墓だ。
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