No.9 初体験…
あれから毎日、仕事終わりに新垣さんが寄ってくれる。
そして、一緒に料理を作ったりして楽しく過ごしている。
なんか新婚さん気分だわ〜。
なぁんて ほくほくしていると、
「さて、始めるか…」
新垣さんが真剣な顔になり、ぐぐっと近づいてくる。
「あ…新垣さん」
私は思わず身を引いて、体を強ばらせる。
「大丈夫だ…もう慣れてきただろ?」
な、慣れるだなんて…!!
「そ、そんなすぐには慣れません」
私は目をギュウと閉じる。
「でも、慣れてもらわないと俺が困る。お前もツラいのは嫌だろ?」
優しく頭を撫でながら新垣さんが顔を覗きこんでくる。
…その目に、弱いの…。
泣きそうになりながら見上げると、私の手を引き寄せた。
「さぁ今日こそは最後までやるぞ?」
「ええ!?そんな、心の準備もなく最後まで!?」
昨日だって、結局 最後まで出来ずに終わったのに!?
「無理むりムリ〜!!」
「大丈夫だ!!俺が教えた通りにやれば必ずできる!!」
私の手をギュウと握りしめて、力強く笑った。
「さぁ、宿題やるか!!」
「は、はい…」
て、騙された?
いや、お約束だから薄々分かってた!?
「おい、お前 誰と会話してんだ?とっととノート広げんかい!!」
はいはい(泣)
もうさ、料理といい勉強といい、何が この人に火をつけるんだよ。
クソ真面目な上に妥協を許さない鬼軍曹め〜!!
恋人ごっこ どうしたんだよ〜!!
アタシは就職組なんだから勉強できなくてもいいの!!
埋まってないトコちゃっちゃっと教えてくれたら それでいいのに!!
なぁんて言える筈もなく、今夜もノートを広げるのであります。
「で、できた…」
じわりと涙が滲む。
「よくやったな!!」
がしがしと頭を撫でてもらった。
ちょっと、いや、かな〜り時間がかかったが、なんとか終わった!!
「お前は、やれば出来るんだよ」
「は、はい!!」
「毎回、怒鳴り声あげなきゃ出来ないのかと思ってたが、集中力の問題だと分かったからな」
そうなのだ。
私は極端に集中力がないらしく、合間合間に休憩を入れないと 全部が嫌になるみたい。
「これは今後の生活にも影響するから、適度に休憩を挟みながら頑張っていけよ?」
「はい!!」
「さて、今回はホントに頑張ったからな。何かご褒美でもやるかな」
わ、わ〜(笑)
「あんま、高いものは買えんけどな」
高くなくてイイ。
「じゃ、じゃあ今使ってるので何かください!!」
「はぁ?なんでそんなもんがいるんだ?」
だって身に付けてる物のほうが価値がある!!
百倍 嬉しいよ!!
私の期待に満ちた眼差しに深くため息をついてポケットをガサゴソする。
「なんもねぇぞ?」
バラバラとテーブルに転がった私物たち。
あ…!!
「これ!!これがいいです!!」
およそ新垣さんと不釣り合いな可愛い貝殻のついたビーズの携帯ストラップ。
「あ、いや…それは…」
言いよどむ。
「あ…」
そうか、彼女からのプレゼントなんだ……
すっかり忘れていたけど、新垣さんには彼女がいる。
そう気づいたら、さっきまでの嬉しい気持ちが急激に萎んでいった…。
人のもの、なのだ。
分かっていて、それでも今だけでイイからと傍にいるのだ。
なんだか気まずい空気が流れてしまった。
終わりがある関係だから、今を楽しもうと決めてたのに。
「じゃあ、このサイフ!!サイフください!!」
「はぁ!?これブランドもんだぞ?百年早いわっ!!」
あれもダメ、これもダメで、結局やっぱり何かを買ってもらうことになった。
新垣さんの彼女って、どんな人なんだろう。
可愛いお嬢様タイプらしいとオバチャンズは言ってたな〜。
新垣さんは料理するような女じゃね〜とも言ってたな。
深層のお姫様?
なら、新垣さんは それを守るナイト?
て、柄じゃないな。ぷぷぷっ。
「なに一人で笑ってんだ?キモいぞ?」
新垣さんが気持ち悪そうに私を見てた。
「ごほっ。な、なんですか?なんか用事ですか?」
わざわざバックヤードまで来て。
「ああ、まぁな。人前で渡すのもあれだし、今日はそっち行けね〜から先渡しだ」
そう言って薄っぺらい何かを投げてよこした。
「な、なんですか?」
「ご褒美」
一言いうと、スッとバックヤードから出ていった。
手の中には、新垣さん愛用のブランドの包装紙を身につけた綺麗な箱。
震える手で開けると、そこには女性用の可愛いサイフが入ってた。
『社会人になったら使いなさい』
見慣れた彼の文字。
初めてもらった男の人からのプレゼント……




