小話 深海に届くもの
5話・秘めた復讐者より。
襲撃直前のキール。かなり短いです。
蒼
一面の、蒼い世界
蒼い世界に広がる、紅
「…おとう、さん……?」
伏したまま動かない父親を、ただ呆然と見つめる幼い少年。
そんな少年の腕を取る者がいた。
だが、少年はそれを振り払う。
「さわるな!」
払われた方は、僅かに顔を顰めた。
青い世界に揺れる、長い髪。
ローブ。
独特の耳に、手から伸びる長いヒレ。
多くの同胞が、彼らを囲んでいる。
「ゆるさない…ぜったいに……ゆるさないからな!」
少年の言葉に、水妖の王は顔を歪めた。
歪んだ笑みは、少年の怒りを煽った。
死体の手元に転がる銃を取る。
「…私を撃つか……?」
少年の手が震えていた。
王は手を伸ばす。
少年はそれに反応し、思わず引き金を引いていた。
……弾丸は当たらなかった。
掠めもしなかった。
王は更に顔を歪める。
長い爪が、少年の眼前に迫っていた。
◆
あの時、伯父が現れてくれなかったら……
今でもぞっとする。
伯父は世間で噂されるような、ろくでもない人間でも何でもない。
自分を守るため、己の力を全て使ってくれた。
財力、権力、医学の知識……そして、水妖に威力を発揮する、一発の弾丸
「お前がこれを使う機会が、一生無いように祈っているよ」
それは叶わぬ願いなのかもしれない。
父が遺した銃に、伯父がくれた弾丸を込める。
伯父が自分を守ってくれたように、今の自分にも守りたい存在がある。
失ってしまったら、今度こそ生きていけない。そもそも、生きていく意味がない。
けれど、弾丸をくれた時の伯父の哀しげな微笑みが、胸の奥に微かな痛みを生む。
「お父さん、父上…ごめんなさい」
銃を額に当て、謝罪の言葉を紡ぐ。
これから、守ってくれた人たちに背く行動を取る。これから守っていく人たちの為に。
篝火が闇を照らす。それは同時に更に深い闇を作りだす。
その闇に目を向ける。
「先生!」
振り返れば、眩しい金色の光。
目を細めたのは、ただの眩しさからだったのか。
判らないまま光に応えた。
自サイトのお題より、改稿して転載しました。
年越しに載せる話じゃない。




