感染者 -インフェクター- (V)
3
ふいに、僕は目を覚ました。頭の中には、一つの気持ちしかなかった。声に出てしまった。
「脳が揺れるー」
誰かにガックンガックン揺すられていた。せっかく目を覚ましたのにめまいで倒れそうだ。
「よかった〜。気がついたみたいだよ、タケル」
どこかで聞いたような声だ。ようやく揺れから解放された。この声…も……もしかして…。
「マリアさん?」
「はい。鈴村さん」
彼女はにこりと微笑んだ。こんなにも笑顔が似合う人は、マリアさん以外に見たことがない。
「ここはどこだか分かるか?少年」
タケルに言われ、僕は首を横に振る。
「ここは牢獄だ」
僕の表情筋が、一瞬麻痺した。そして、
「はいぃ?」
情緒不安定スキル発動。しかしなんだか今回は効果が薄いみたいだ。やったぜ。
「牢獄?」
「ああ牢獄だ。罪を犯した者が来るんだ」
「罪なんて犯してませんよ。なんなんですかこれは」
「お前、ログみたいなものを見なかったか?」
「ログ?」
ログ?もしかして、“殺っつけた!”のことか?
「見ましたね」
「あれが出るイコール罪を犯しましたという意味だ。一体何をやったんだ?」
「いや…。僕はデスライミュを倒しただけで…」
「どういった風に、ですか?」
マリアはいつも唐突に話に入ってくる。
「音系のスキルを使いました」
狂いに狂った笑いを披露していたら逃げ出したんだ、とか言えるわけも当然なく、それっぽくごまかしただけだが。
「逃げ出しましたね?」
「え…なんで分かったんですか?」
「この世界のモンスターって、異常なほどのストレスを受けると気絶したり逃げ出したりするんですよ。その後100%事切れるんです。要するに、これが犯罪にあたるわけです。殺モンスター罪ですね」
殺モンスター罪って……この罪名を考えた人のネーミングセンスはどうなっているんだろうか。
「通常攻撃なら、敵は死なないんですけどね」
「え…無敵ですか?」
「あの…」
マリアは急に話を切った。マリアを見ると、今まで全く気づかなかったが、全身がブルブルと細かく震えていた。
「はい?」
「敬語、もう使わなくてもいいですか?私、もう限界です」
「我慢してたんですか?別に、ご自由にどうぞ」
情緒不安定スキル発動。
「ひゃっはー…ッ!疲れたぜぇーっ!!!」
いやあ調子狂う。そういえば僕も情緒不安定スキルを発動していたはずだけれど。自制心とかいうヤツで、抑えられているんだろうピャ。
再発。
自制心はどこへ。
どこへ行ったんピャ。
「で、何の話だったんスカネエェ〜?」
「…。」
「スカネエェェエ〜〜??」
「……。」
マリアが「スカネエェェエ」を強調している。僕は毎回のようにこんなことを言って読者を困らせていたのか。本気で反省しなければ。
…ん?というかそもそも読者って何のことだ?
「通常攻撃では死なない、って言ってましたけど。じゃあどうやったら倒せるんですか?」
ピャは封印だ。頑張れ自制心。
「死なないってだけで、瀕死にはなるよ。ま、でも、それは犯罪にはならないんだ。殺ってないからスカネェエエ」
本当は「スカネェエエ」の後に「エ」が20個ほどついていたが、省略した。正直、タイプが面倒くさかった。
ん?タイプって何pyあ……
危ない危ない。封印だ。自制だ。
「殺ってなければいいんですか?」
「そうだよおおおおおおおお!!!!!」
「うるさいです」
「イエ〜ス ヒャッフォォオオオオ!!! ファフファフ」
「さわいだらめーめっでしゅよ!」
「チェケラチェケラ」
もうマリアの知能は幼児以下だから、幼児言葉で言ったら通じるような気がしたのだが、やはり通じない。ついに僕はキレた。
「おい」
「フォ?」
「黙れって言ってんだろうが」
「すみませんでした」
タケルによると、僕はゴミでも見るような目で、恐ろしく低い声で言っていたらしい。タケルは本気でドン引いていた。
続く




