お祝いの場での再会
世界各国に突如として現れたのは、地球とは異なった土地に通じる”門”であった。世界各国は”門”の向こうの世界と交流を行い始め、そしてそれは日本でも同じ事が言えたのだ。そして世界的に現在、”門”の向こうへの旅行が一大ブームを巻き起こし、私ことかがやまちは、異世界専門添乗員として、とある小さな旅行会社で働いているのである……
異世界の館の内装は、地球のどことも雰囲気という物が異なっている。こちらの考えや美意識などが、地球とは違う事を表しているだろう。
飾り物の壺などの装飾が、本当に違う。
「地球だとこういう壺は、割と東洋趣味みたいだって聞くけれど……こちらだとそう言う感じじゃないのね」
「壺の装飾は神話が多いんですよ」
「かがやさんは神話まで暗記していたりするの?」
「さすがにそこまでは網羅していませんが、そういう物だと教えてくれた人が居るんですよ」
「かがやさんの人脈すごそう」
「そうでもありませんよ」
私達はプライベートな船着き場から、案内の人の後を歩いている。内装の異世界っぽさに皆楽しそうな雰囲気だ。
普通の異世界パッケージツアーでは、こういう所に入る事なんて無いからだろう。
私はそこまで詳しくないけれども、他社の異世界パッケージツアーの内容が、うちと違って結構貧相らしいと言うアンケート結果が有るのは知っている。
一流ホテルにも泊まれないし、観光名所に立ち寄る事もあまり出来ないし、お買い物もかなりの制限がかかっているし……というわけだ。
それはこのディック諸島の提督の考えの表れだけれども、異世界からの訪問者が絶対に安全な場所しか、提督は観光を許していないのだ。
うちは……何故かその線引きがやや緩くて、絶対ではなくて、まあ安全という所らしい。
ツアー企画の担当者達曰く
「かがやさんいればなんとかなるから」
「かがやさんは異世界旅行専属だから。そのうち他の人達にもノウハウを教えてもらいたけれども、まだしっかり基礎やマニュアルが固まっていないから、それらが固まったらの方が安全よね」
という事でもある。私が一ヶ月のかなりの割合を、異世界で過ごす理由の一つだ。
異世界でのトラブルの色々なパターンを、私は記録し報告し、どういった方法で解決するべきなのかの回答を積み上げる係でもある。
そう言った回答が増えれば増えるほど、事前の案内や説明会の際の質疑応答で、どもったりしなくてすむわけだ。すぐに答えられる方が、お客様としては安心だろうし。
私も地球のご飯をもっと食べたいとかお風呂に入りたいとかはあるが、今の生活もそれなりに納得しているので妙な諍いは起きなくて済んでいる。
「かがやさんが来てくれたから、うちの利益が上がって会社的にうれしい。今度の賞与ははずむよ」
社長直々のお言葉があったが、それに対してのやっかみや嫉妬はない。……現地に入った人ほど、私と同程度の事が出来ない現実を知っているからだとか。
前に数回、本社や支社の人と打ち合わせをした際に
「あなたほどお客様アンケートの評判の良い添乗員さんが居ないんだ。異世界でのあなたはとても皆様から頼もしく思われているようです。これからも一緒に頑張りましょう」
と言われている。私はもっとお休みが欲しい時もあるが、それは有休消化日で調整をとりましょうと話し合いの結果決まっている。
さて裏事情はこれくらいにしておいて、ツアー参加者の皆様は周囲を見回して、スマホで写真が撮れれば良いのにと言ったりしているが、この異世界でスマホを安全袋から取り出したら数分で壊れると説明してあるので、それと引き換えにしてでも写真を撮りたい人は居ない様子だ。
……これも水面下で行われている事だけれど、地球のインスタントカメラの技術を、異世界に持ち込めないか……という研究が、実はうちのような異世界でそこそこの工房とやりとりが出来る会社と企業が合同して行っている。確かに絵画の絵はがきは素敵だけれど、自分達の映った思い出の写真が欲しい人は一定数居るわけだ。
異世界の素材は地球と色々性質が違うから、全くの無から作り出す難しい案件だと聞いている。
「きれい」
「こんな綺麗なお屋敷の見学が出来たってだけでも、ツアーでの思い出になるわ」
「かがやさん、ここは普通のツアーでは入れないんでしょう?」
「人様のおうちですからね……晩餐会の際も、決められた通路と晩餐室しか入れないので。自由見学はありませんし」
「友達に自慢できちゃうわ。運良く提督のお誕生日だったって!」
「そうですね。お誕生日のお祝いに、観光客の皆さんを招待してくれる太っ腹な方です」
「かがやさんは提督に会った事があるんですか?」
「はい。お会いした事がありますよ。やはり諸島を回って観光するので、ご挨拶をする事がありまして」
私は嘘を言わないで、微妙に誤魔化した。提督関連は面倒くさい問題があるので、あまり関係性を深く聞かれたくなかったので。
案内もそろそろ終わり、トイレなどの場所もしっかり聞いて、いよいよ誕生日のお祝いがされている広間の扉の前まで来た。皆さん期待と緊張で少し静かだ。
「皆さん、こちらがお祝いをしている場所です。まずはじめに、提督にご挨拶をしてから、お祝いの宴を楽しみましょう」
私の言葉に皆さんが頷いて……扉が開けられた。
扉の中は、数多のろうそくやカンテラやシャンデリアで、光源を思い切り増幅させた、贅沢な空間だった。このキラキラとした反射だけでも、この屋敷の贅沢さがよく分かるレベルである。
そしてそこには、思い切り着飾った数多の、諸島に来ている貴族達が居て、歓談している。
それだけではなく、立食形式という事もあり、豪華によそわれた料理と、それらを食べるためのテーブルもふんだんに設置されている。そろいの制服を着た人達が飲み物を配ったりする様は、提督が招待客に不自由させないようにしている事がなんとなく分かる。
誕生日のお祝いだけれども、招待した人のもてなしの具合が伝わってくる世界だった。
私達はぞろぞろと、まずは提督へのご挨拶なのでその本人を探して……人に囲まれた場所に近付いた。
「提督、お誕生日おめでとうございます」
「ありがとう。今年も諸島は平和に一年が過ぎていきましたよ」
「提督、そろそろ身を固めると言う事をお考えですか? うちの親族の娘は器量よしで……」
「そう言った話は誕生日には聞かせないでくれよ」
「提督、私達とお話ししていただけませんか? 提督とお話がしたくて……」
「まだ挨拶回りが終わって居ないんだ、申し訳ない」
提督が数多の貴族達と会話している。そんな中使用人の一人が素早く提督の方だろう場所に近付いて……きっと耳打ちしている。
「あいつが?」
……提督の声が妙にはっきりと響く。人垣がさっと別れて、その中心にいた人と、ツアーの参加者の皆さんを先導していた私が正面で出会う形になる。
中心にいた色男が……私を見てにんまりと笑って近付いてくる。
「楽しみに待っていたぜ」
正面で会話できる距離まで近付いてきたその色男に、ツアー参加者の皆さんがざわめいているが、私は冷静であるように自分に言い聞かせ、相手の言葉を待った。
「お前が予定通りこちらに来ると知っていたからな。お前の所の企画担当だの何だのに、連絡しておいて良かったぜ」
「お誕生日おめでとうございます、提督」
私はできるだけ事務的にそう言おうとして……彼がカラカラと笑ってこう言い放った。
「会いたかったぜ、千里眼。お前と来たらこちらに来ても、仕事中だの案内中だの報告書を仕上げなければならないだので、オレの誘いをことごとく断るものだから」
誕生日くらいは、お前を自由に出来るだろう? 彼の言葉の含みに、背後の皆さんがざわめいている。私は努めて冷静に告げる。
「今現在も仕事中なので、そのご要望はお受けいたしかねます」
「つれないなあ。オレ相手にそれだけバッサリと言う奴もそうそういないぜ。まあ、そんな所も気に入っている訳だが。……しかし地味だな、お前もう少し飾る余地のある衣装はないのか」
「私は添乗員なので、皆様と同じように飾るのはマナー違反でしょう、……キャプテン・シン」
あきれてそう言うと、彼……キャプテン・シンは笑って私を抱きしめ……そこでもどよめきが起きたが……離してから私の頬の両側にキスをして言う。
「お前にとってはいつまでたっても、オレがキャプテン・シンって所も気に入ってるぜ、千里眼」
この男……今は提督となった男キャプテン・シンは、私が前の職場で働いていた際に、異世界の無人島で出会い、命を助け、妙な縁が出来てずるずるとそれが続いている男で。
私の事を恋人のように扱う男でもあるのだ。




