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平安幻想譚~源頼光伝異聞~  作者: さいたま人
2章 摂津争乱
72/211

【源頼光】宴会 その2

*人物紹介、用語説明は後書きを参照

*サブタイトルの【 】内の人物視点で書かれています


2025/8/14 修正

 ・段落の設定

「おう」


 ぶっきらぼうに酒壺を向けられたから酒碗を差し出すと、なみなみと目一杯まで注がれる。雑に注いでるように見えて一滴たりとも零さないあたり相当慣れてるわね。


 一息に飲み干して空になった酒碗を渡し、負けじとどばっと注ぐとあふれ出た酒が虎熊の下衣を湿らせた。


「おいおい! 何してくれてんだテメエはよ!」


「ほんとごめんて」


 うん、慣れないことで張り合うのはダメね。親父以外だと初めて会った自分より強い存在、そんな虎熊相手だと何ごとでも負けたくないって感情が出てくるというかなんというか。私って案外負けず嫌いだったのね。「ったく」と呆れた虎熊も私に負けじと一息でそれを飲み干した。


「ふう……で、どうだ? もう大丈夫なんだよな?」


「それはあなたも身をもって知ってるでしょ。この通り怪我1つなくピンピンしてるわよ」


 傷跡1つ残ってないことを袖をまくって見せつけると、虎熊は私の腕を握って意味が分からないって顔をする。


「怪我はそっちのネコ娘が治せるってのは分かるが、飯食っただけで筋肉戻んのか……愚弟は元通りになるのに大分かかるって話なのに……。て、そうじゃなくてあれだ。もうイカれた状態にゃならねえんだよなって話だよ」


「Dragon、デスか。悪いもの、デス。直らない時、燃やす、デス」


「わあ、火車にしたら死体並みに許せないものなのね……。なんか怒りを煽る感じの声が聞こえて、我の力を求めよーみたいな感じだったけど、結局あれって何だったの?」


「Dragon、部下の傲慢・憤怒・強欲・嫉妬・色欲・暴食・怠惰それぞれの悪魔使って眷属にする、デス。Maybe、頼光誘ったの憤怒司る、Satan、デス」


「あ、それってさー怒りも自分の弱さに対してって話だよねー? それで力を求めるのは分かるんだけどさー、他ってどんなんなのー?」


「もっと力あれば、より高いところからマウントとれるのに、とか。力づくで何でも手に入る、とか。他人の幸せ奪える、とか。無理やり犯せる、とか。邪魔されず食事続けられる・サボれるとか、デスね」


「……うん! 怒りが一番まっとうな感じがしてかっこが付くわね!」


 あー良かった。他の要素でおかしなことになってたら、たとえ元に戻っても白い目で見られてた気がするわ!


「……分かんねえなー。自分の弱さに腹が立つなんて俺様からしたらいつもの事だが、そこで他人に力をくれとはならんだろ。より己を鍛える動機付けにはなるがな」


 そりゃね余裕があれば私もそうなるかもしれないけど、大切な人が目の前で殺されそうで今すぐ力をってなったら悠長なこと言ってられないでしょ。そういう意味じゃその悪魔ってのは、こっちが断れないって時を狙って出てきてるんじゃないかな。


「Dragon、主の敵、デス。その眷属と化した者、同じ、デス。死体燃やす主から与えられた使命、主の敵倒す、同じこと」


「何はともあれ、致公くんのおかげで元に戻れたのよね。戻れなかったら火車と闘うことになってたかもしれないし、感謝感謝よ」


「はい! それがしは父上の命に従っただけであります!」


 お礼とばかりにさっき茨木ちゃんが持ってきてくれた謎の激うま食べ物の皿を致公くんの側に寄せると、パリパリと食べて「おいしいであります!」と笑顔になった。遠慮してたのか全然食べてなかったのは見てたし、肉が入ってるのは嫌がってたのでろくに食事とれてなかったしね。そんなに気を使わなくてもって思うんだけど。


 ? なんとなく妙な視線を感じて振り向くと、綱が微妙な顔でうつむきがちにこっちの様子を窺ってる。肉に囲まれてるのがそんなにも昔の傷をえぐってるのかしら? それならそれで外の空気でもあたりに行かせた方がいいかも。


「ヘイ! ニューボス! ここらで1つベリーにナイスなスピーチをプリーズだぜ!!」


「ソウダソウダ! 意味ハ分カンネエガ、ヤッチマエ相棒!」


「首領就任、挨拶しろってこと、デス」


 さっきおもむろに立ち上がって叫んだあと、崩れるように倒れたってのに無茶させるわねー。それでもよろよろと立ち上がり酔い覚ましに水を一杯ひっかける酒呑。その言葉を待って周りが静かになる。これは綱を外に出す機を逃したわ。


 ちらりと横目で見ると、いつもの綱に戻ってる。さっきのは一体何だったのかしら……。ん? まさか致公くんを褒めたのが気に入らないとかじゃないわよね?


「……オレは生まれたその時、親に捨てられ今まで苦労して生きてきた。ぶっちゃけ人生とかマジでくそすぎて話にならねえってのが素直な気持ちだ」


「わっはははははー! もー暗すぎるぞー! 明るい話をしろー」


 そうだそうだと騒ぐ鬼たちを手で制して、酒呑は言葉を続ける。まだ酔ってるけど呂律が回ってなかったさっきと違って大分聞きやすい。


「酒呑童子なんぞ名乗ったのも、オレにとっての楽しみ――いや、逃げ場が酒しかなかったからだ。それでも、外道丸と出会って、頼光と出会って、今大江山のお前らに出会って、今初めて心の底から酒を楽しんでるぞー! いえええええええええええええええ!!」


 がばっと頭から被るように酒壺を傾けて飲む酒呑に続き、あちこちで騒ぎながら鬼たちも酒碗を傾ける。


「まあ何だ。これからは人間としての生活の中でも、頼光みてえに鬼とも仲良くやれそうな奴らはいるからよ。山に引きこもってるだけじゃなくて、外の奴らとも仲良くやっていけるよう、人脈とか使っていきてえと思う。ついてこい野郎ども!」


 酒呑が叫ぶと、それに続く鬼たちの怒号が屋敷を揺らす。それを虎熊は黙ってみてるけど、口元にはわずかに笑みを浮かべてる。


「そういえば、そもそも何で酒呑に首領の座を譲ったのよ?」


 せっかく近くにいるわけだし、ここで聞いてみよう。強さで言えば虎熊の方が大分上だし、そもそも会ったばかりの相手に頼むようなことじゃないよね?


「ああ、俺様は少々歳を取りすぎたからな」


 虎熊は視線を酒呑たちに向けたまま答える。


「そもそも俺様は殷末期の、今でいうとこの唐国の人間どもの戦乱から一族を引き連れこの島国に逃げてきた。途中までは親父が引き連れてたが、敵に襲われ愚弟――星熊童子に首領の座を譲り、その愚弟もああなっちまったから俺様が引き継いてな」


 そこまで話すと1度酒を呷り、喉を湿らせる虎熊。そういえば1騎打ちを始める時にもそんなこと話してたわね。


「そんで大江山ここまで逃げ込んで、熊童子に受け入れられて後々首領の座を譲られたんだが……鬼の寿命ってのは妖力に因るものが大きくてな。当時の戦乱を知るのは俺様と愚弟だけしか生きてねえ。俺様からしたら手下どもを守るためにゃ人間とは関わりたくねえってのが本音だったんだが、正直若え連中はどう思ってるか分からねえ。いっそ他人の腹ん中が分かる酒呑童子に押し付けちまって、自分の事だけ考えて生きるのもいいかなってな」


「無責任ねえ」


「はッ! お互いにな」


 あれれ、私ってば無責任なの? そりゃ色々迷惑かけてるけど、責任もって皆の将来を預かってるつもりなのに。 


「でも今の演説で手下どもが大盛り上がりなのを見ると正解だったろ? 酒呑童子にしても周りみて方針決めただろうしな。ま、テメエらとは今後とも末永い付き合いになりそうだし、よろしく頼むぜ」


「あ、私は近いうちに陸奥守になって遠く行く予定だから」


「こうやって大江山うちのこと振り回しといて、くそ無責任だなおい!?」


 そんなこと言っても仕方ないじゃん、夢なんだから。納得いかない感じで食って掛かろうとしてきた虎熊だけど、料理を持ってきた熊童子に止められる。


「んだ熊童子! 今は大事な話を――――んぐ!?」


「まあまあ、今は楽しい酒宴の席だからなあ。これでも食って落ち着くだあよ」


 後ろについてきた茨木ちゃんから同じものを配られて1切れ口に運ぶ。ん? 味付けは相当凝ってるけどこれって……。


「ほう! うめえなこいつは! 何の肉だ?」


 うまい、ね。んふふふふー。そうでしょうそうでしょう。私がにやにやしてるのをいぶかしんだ虎熊が「なんだコラ」と絡んできたところ熊童子が答える。


「そらあ羊肉だあ。さっき頼光が食ってたやつだあよ」


 さっきはマズいとか言ってくれたからねえー? え、どうよ? 今どんな気持ち?


「~~~~~~!! あー、くそ! ムカつく! こうなったら勝負だ頼光! 俺様が勝ったら陸奥守とやらは諦めてこっちで住んでろや」


 おいおいおい、照れ隠しなのか知らないけどめちゃくちゃ言うわね。そもそも火車の回復は今日はもう無理だし勝負とか言われても……。すると虎熊は酒壺を私たちの間にどんと置いた。


「飲み比べだ。互いに酒碗を飲み進めて先に潰れた方が負けだ。俺様はさっき酒吞童子を酔わせるために50杯くらい飲んだが、これならいい勝負になるんじゃねえか?」


 自信があるのかニヤニヤしてる虎熊。たしかにこれなら平和でいいわね。


「いや、死ぬからやめよ?」


 急に横から真顔で入ってきた綱の言葉に、一緒に鍋を囲んでた3人もうんうんと頷いてる。飲み比べってそんなに危険かな……?


「ははははは! ま、しっぽ巻いて逃げるってんならそれでもいいぜ? 人が鬼に酒で勝てるわけが――」


「逆。死ぬの、虎熊、デス」


 火車が綱のわきに積み上がった酒壺を指さす。私が飲んで空になったのを綱がどかしてたんだけど、その数は30くらい。1つにつき酒碗だと5~6杯くらいになるのかな? いちいち酒碗に注いだりしないから良く分からないのよねー。


「付き合い長いけど頼光が酒に酔ったのマジで見たことないからね? 別の勝負したら?」


「うるせえ! 鬼が1度吐いた言葉呑み込めるか! 熊童子、どんどん持ってこい!」


 引くに引けなくなった虎熊との飲み比べ。3桁を超えたあたりで虎熊が倒れると、見守ってた鬼たちから歓声が上がる。死闘を演じた相手との楽しい酒宴は日が昇るまで続いた。

【人物紹介】(*は今作内でのオリジナル人物)

【源頼光】――芦屋道満直属、摂津源氏の長。幼い頃の約束のため陸奥守を目指している。

【渡辺綱】――摂津源氏。平安4強の1人。源氏の狂犬の異名を持つ。

【茨木童子】――摂津源氏。大商人を目指す少女。商才に芯が通っている。本名月子。

【酒呑童子】――摂津源氏。人の体と鬼の体が同居する半人半鬼。相手の表情から考えていることを読める。

*【外道丸】――酒呑童子に取り憑き、半身を持っていった鬼。

【火車】――摂津源氏。ブリターニャ出身の精霊術師ドルイダス。生者を救い、死者を燃やすことを使命とする。本名キャス=パリューグ。

【猫精霊】――火車に従う3柱の精霊たち。青白い炎に包まれた手押し車を押し死体を回収して回る。

【藤原保昌】――藤原道長配下。異国かぶれの異名を持つ。

【源致公】――源満季の養子。本当の父は源忠賢。

【丑御前】――大江山に住む鬼。頼光を姐御と慕う。

【虎熊童子】――大江山首領。虎柄のコートを羽織った槍使い。

【星熊童子】――大江山に住む鬼。虎熊童子の弟で弓使い。

【熊童子】――大江山前首領。料理が得意。


【用語説明】(*は今作内での造語又は現実とは違うもの)

*【Dragon】――『心を見透かす者』の名を冠する悪魔王(第6天魔王と同一存在)、またはその眷属(天狗と同一存在)を指す言葉。

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