表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
平安幻想譚~源頼光伝異聞~  作者: さいたま人
2章 摂津争乱
71/268

【源頼光】宴会 その1

*人物紹介、用語説明は後書きを参照

*サブタイトルの【 】内の人物視点で書かれています


2025/8/14 修正

 ・段落の設定

 招かれた屋敷で始まった大宴会。いつも皆で食事をしてるのか、通された板張りの大広間はぱっと見でも人間なら500人は入れる広さで、そこに100近い囲炉裏が設置されてる。そこに何人かの集団に分かれてそれぞれ鍋を囲んで盛り上がってる。


 体を清め、用意してもらった着物に着替えた私たちも、その一角で料理に舌鼓を打った。


「ぷはーーーーー!! うまー! お肉もお酒もお野菜も!」


「HAHAHA! いや、まさに! 今まで食べてこなかったのが悔やまれるほどに美味ですな!」


 私と一緒に鍋を囲むのは火車・致公むねきみくん・保昌やすまさ殿。もともと異国文化を積極的に取り込む保昌殿は、はじめ肉食に抵抗はあったみたいだけど1口食べてからはすっかり気に入ったみたいで、火車は猫精霊ケットシーさんたちを召喚して黙々と一心不乱に食べてる。致公くんはじっと椀とにらめっこして手を付けない。肉が嫌なら野菜だけ食べればいいと思うけど、1つの鍋で一緒に煮られてるのがダメみたいね。


 綱は私の後ろの板戸に寄りかかって肉は断固拒否とばかりに酒だけを飲み、酒呑は虎熊や丑御前をはじめ鬼たちに囲まれてがっつり飲まされてる。茨木ちゃんは熊童子についてって別室で料理をしてるらしい。


「もぐもぐ……綱、もぐもぐ……食わず嫌いは良くないわよ? もぐもぐ……1口でも食べてみたら?」


 仏門とかくそくらえって感じかと思ってた綱の行動が正直意外なのよね。むしろ生きるためなら泥水でも喜んですするってくらいなもんだと思ってたのに。


「はいはい。飲み込んでからしゃべりなー。昔、ネズミ喰って腹壊して死にかけたり、肉っていい思い出ないんだよねー」


「――ごくん。食べたうえで嫌いなら仕方ないか。火も通ってるしネズミでもないしいけると思うんだけどなー」


 私の言葉に口元だけ笑いながら瞳の光が消える綱。久しぶりに見たけど、初めて会ったときはこんな顔してたなー。もしかして心の闇に触れちゃった?


「こちとら嵯峨の爺様に集めれられた者同士で殺し合いさせられてた時、頼光と違って料理とか運ばれてこなかったんだよねー。必然殺した相手の死体を食べるか、それを食べに来たネズミを捕るか、あとは虫くらいだったよー。なんとか人を食べずには済んだけど、肉なんて食べる気にならないんだよねー」


 嵯峨ッ! おい嵯峨ッ! さらってきた子供を武士に仕立て上げるのにかなり無茶するとは聞いてたけどやりすぎでしょ!? 空気がどっしりと重くなったところ、急に綱が背にしてた板戸が開いた。


「おーい、追加が出来ただあよ。そちらのお貴族様にいただいた食材と調味料で色々作ってみただからこっちも―――」


「っしゃああああああああああ!!!」


「やめなさいっての!!」


 髭切ひげきりを抜いて熊童子に斬りかかろうとする綱の手首をつかみ、そのまま床板に押し倒す。気が付くと騒ぎを聞いた皆の視線が全部こっちに集まってる。


「おいおいどういうつもりだ? 熊童子に何かしやがったら全面戦争だぞ」


「ほんとにごめんなさい! こいつは誰かにいきなり背中に立たれると反射で斬りつけちゃうのよ。料理は縁側の方から運ばれてたから、1番遠くの場所を選んだつもりだったんだけど」


「あー、それは横着してこっちから来たおらも悪かっただなあ。何も気にせんと料理を楽しんでくれなあ」


「……熊童子がそれでいいっつうなら仕方ねえな」


 うーん、体だけじゃなく器もでっかいわねー。斬りつけられかけた熊童子が見せた寛容な対応と、なんだかんだ「いきなり背中取られたら仕方ねえわな」という頭源氏なご意見が各所からあがりすぐに騒ぎが収まる。やっぱり源氏と鬼は近いものがあるわね!


「斬られたところでーーーらいしたこらあーないッッッ!!!」


 あれー、丸く収まったところに急に立ち上がった酒呑。今度はそこに皆の視線が集まる。


「鬼っれもんはーーーーらろえ四肢を切りおろされらろしれもーーーーー、ピンピンしれれこそらろ思うのである!!」


「ソウダソウダ良ク言ッタ!!」


「ヒューッ! さすがニューボスだ。よくアンダスタンしてるぜ!」


 膝が悪くろくに動けないことに思うとこがあったんだろうね、星熊童子がまず声を上げると、「首領ッ! 首領ッ!」と周りの鬼たちも声を上げる。火車が言うには怪我は問題なく治せるらしいけど、長い間歩いてなかったから、リハビリ――歩く訓練が必要になるみたい。上半身が丸太なら下半身は細い枝みたいだし大変そうね。


「あらら、酒呑もすっかり出来上がってるわねー。けど、あんな楽しそうな姿は初めてだわ」


「Hey! 名前負けしてるぞ、ムッシュ酒呑!」


 こっちも酔ってきてるのか笑顔で野次を飛ばす保昌殿。それを気にも留めず、酒呑の演説は続く。


「鬼らるものーー首を刎ねられることがあっれもーー、生き続けれむしろ相手に噛みつくくらいろー……気概がーー必要らろれありますッッ! 以上ッ!!」


「よっしゃー良く言ったぞ! なかなか、かっけーとこあるじゃないか!」


 やんややんやと沸き立つ鬼たちに一通り手を振ると、酒呑は崩れるように席に着いた。


「あははー、ここに来るまでは渋ってたのに、すっかり新首領って感じじゃん」


「HAHAHA、べろんべろんに酔わされてなし崩しに受けさせられたって感じですかな」


「はい! いつも一歩引いて見てる感じの酒呑殿があんな風に……酒は、恐ろしいであります!」


「ま、よく見とけよ致公。古今東西、酒での失敗譚は数あれどあれはその典型だ。絶対後々大失敗するからさ」


「はい! 肝に銘じるであります!」


「なんや偉そうなこと言うとるけど、自分もそのいきなり斬りかかるん止めた方がええで? 絶対いつか問題なる思うわ」


 私に抑え込まれたまま、まだ幼く酒が苦手な致公くんに説教たれてた綱に向かって、熊童子に続いて料理を運んできた茨木ちゃんが言葉をかけてくる。


 うん。それはほんとにそう。戦闘感を鈍らせかねないけど、仲間内でもしでかすのは擁護のしようがないもの。唇を尖らせ不満顔の綱の前に初めて見る料理を置いた。薄くて硬いけど何かしらこれ? 保昌殿も火車も興味津々に見てるだけだし、異国のものでもない?


「保昌様にもろたこれを薄ーく切ってごま油であげたんに塩を振りかけたんや。まあ熊童子のおっちゃんの即興やけど、ちゃんと味見してるから安心し」


「Oh、papaじゃがいもデスね。マヤーでは、よく食べた。デスがこの食べ方、初めて」


「んーーーー! これはいいわね! 酒のあてにもぴったりだわ」


「たしかに、なかなか癖になるなー」


 パリパリと手軽に食べられるせいで減るわ減るわ。それを満足そうに見てる茨木ちゃんだけど、そういえばさっきから手伝ってばかりで全然宴会に参加してないわね。


「せっかくだし茨木ちゃんも頂いたら? 熊童子もずっと働きっぱなしだし、なんか悪い気が―――」


「何言うてんねん! 熊童子のおっちゃんに料理を教わる好機、今逃したらまたしばらくないかもしれへんねんで! 京で商売すれば仰山儲かりそうなもんほっとけるかい!」


 あー、なるほど。こっちはこっちで銭の匂いを嗅ぎつけて楽しくやってたわけね。こうなると付き合わされてる熊童子が1番大変そう。


「でも保昌殿が持ってた量も限界があるでしょ? 商売になるの?」


「これに限らず色々試しとるとこやけど、このパパいうのはいくつか植えてみよういうことなったしそれ次第やな。ダメならダメで摂津で仕入れられんか聞いてみよう思とる」


「いやあ茨木童子いうたか? こん娘はほんとおに大したもんだなあ。おらたちは狩猟ばかりだから農耕とかの発想はなくてなあ、お貴族様にいただいたもん全部使おうしたんを止めて植えてみよういうたんも、なるほどなあ思うただし。味付けとかも横で見とるだけで全部覚えてしまうからなあ」


「それはただ目分量で測うとるだけやし。熊童子のおっちゃんが凄いねん」


 それぞれの席に料理を配り終えて戻ってきた熊童子がぐりぐりと撫でながら茨木ちゃんを褒めると、茨木ちゃんもまんざらでもなさそうに頬を赤らめる。変態どもに囲まれてた過去を持つ茨木ちゃんが、なすがままに受け入れてるとはやるわね熊童子。丑御前が言うには虎熊の前の首領らしいけど、なんでまた交代したのかしら? 器の大きさならこっちの方が上の気がしてならないんだけどなー?


「―――なんか、失礼なことを考えてやがるな?」


 声をかけられて振り向くと、藍色に染めた麻の半袖の上衣と下衣に身を包んだ虎熊が、しかめっ面で立ってた。

【人物紹介】(*は今作内でのオリジナル人物)

【源頼光】――芦屋道満直属、摂津源氏の長。幼い頃の約束のため陸奥守を目指している。

【渡辺綱】――摂津源氏。平安4強の1人。源氏の狂犬の異名を持つ。

【茨木童子】――摂津源氏。大商人を目指す少女。商才に芯が通っている。本名月子。

【酒呑童子】――摂津源氏。人の体と鬼の体が同居する半人半鬼。相手の表情から考えていることを読める。

*【外道丸】――酒呑童子に取り憑き、半身を持っていった鬼。

【火車】――摂津源氏。ブリターニャ出身の精霊術師ドルイダス。生者を救い、死者を燃やすことを使命とする。本名キャス=パリューグ。

【猫精霊】――火車に従う3柱の精霊たち。青白い炎に包まれた手押し車を押し死体を回収して回る。

【藤原保昌】――藤原道長配下。異国かぶれの異名を持つ。

【源致公】――源満季の養子。本当の父は源忠賢。

【丑御前】――大江山に住む鬼。頼光を姐御と慕う。

【虎熊童子】――大江山首領。虎柄のコートを羽織った槍使い。

【星熊童子】――大江山に住む鬼。虎熊童子の弟で弓使い。

【熊童子】――大江山前首領。料理が得意。


【用語説明】(*は今作内での造語又は現実とは違うもの)

*【嵯峨源氏】――源氏の系統の1つ。『謀略の嵯峨』と呼ばれ、覇成死合に勝つために手段を選ばない。子供をさらってきては殺し合いをさせ、見込みのあるのを嵯峨源氏所属の武士として登用する。

【髭切・膝丸】――渡辺綱の愛刀。

*【頭源氏】――脳筋・戦闘狂など人によって意味が異なる。摂津源氏においてはそれぞれがイメージする頼光みたいな考え方のやつという意味。

papa――原産地である中南米の言葉でじゃがいも。potateの語源になってる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ