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平安幻想譚~源頼光伝異聞~  作者: さいたま人
2章 摂津争乱
70/210

【源頼光】雨降って地固まる

*人物紹介、用語説明は後書きを参照

*サブタイトルの【 】内の人物視点で書かれています


2025/8/14 修正

 ・一部加筆

 ・誤字修正


「……うぐ……なんだ……? 一体何がどうな―――」


「おおッ! 目を覚ましたぞ! まさに奇跡だ! 神よ! 神よ! 我らが主神・オーディンよ!!」


「「「神ッ! 神ッ! 神ッ! 神ッ! 神ッ! 神ッ! 神ッ!」」」


「………………………………………………………………………………」


Praise(主を) the Lord(讃えよ)。そう、讃える、デス。すべての御業、主の思し召し」


「「「うおおおおおおおおおおおおお!! 神ッ! 神ッ! 我らが主神ッ!!」」」


「マジで何がどうなってやがるッッッ!!??」


 まあ、目を覚ましたらこんな状況になってたら驚くわよねー。ギリギリ生きてた虎熊を治療した火車の奇跡を見て、見守ってた鬼たちは狂気を帯びた目で火車を、火車の信じる神様を讃えてる。まだ、教義は伝わってないとはいえ、完全に燃屍教ねんしきょうの教徒ね。


「虎熊も目を覚ましたし、これで一件落着ね。いやー誰も死なずに済んでよかったよかった」


「ッ! おい、テメエ! これは一体どういう…………………………えーと、なんか足がおかしな方向に曲がってやがるけどマジで何なんだ?」


「いやー、受け身を取る力も残ってないとこ爆風に飛ばされたもんで、そりゃもう、ぐしゃっと。闘いの中で死ぬなら武士としては本望だけど自爆で死ぬのはさすがに恥だから生きててよかったわー。まだまだ夢半ばだし死ぬ気もなかったけど」


 たははーと状況説明する私をよそに、虎熊は自分の体に目をやって「なんじゃこりゃ!?」と大声をあげてる。爆発の熱で胸当ては中央から溶けて真っ二つ。焼け切れた旗袍ちーぱおからは褐色の肌が覗いてる。火車が治す前はとんでもない火傷で目も当てられない状態だったけど、すっかり元通りきれいな肌になってる。


 意外だったのはあのめちゃくちゃ硬い胸当てがあっさり溶けたことかな。槍はひしゃげたとはいえ溶けてないってのに。


「熱に弱かったのね。槍先も同じ金属みたいだし、うまく誘って篝火に突っ込ませれば武器を壊せて楽に闘えたかも」


「そんな簡単にいく相手じゃなかったでしょー? 火車が言うにはミスリルとかいう銀らしいから篝火程度じゃ溶けないよ。おーい、そっち終わったらこっちも頼むよー」


 え、アレ銀なの? 色も違うし硬すぎない? そんなことよりこっちもって私の治療?


「いやいや、さっきも治療してもらったわけだし火車の負担になるでしょ。別に命にかかわらないなら今すぐ治さ――――痛だだだだだだだだだだだだ!!???」


 綱が私の折れた足に拳骨を乗せたと思ったらぐりぐりと回す。いや、折れてんの見りゃ分かるでしょ!? 洒落にならないわねこいつ!?


「いいからさっさと治してもらいなよ。……しかしあいつに耳元でささやかれた内容これかい。愛をささやかれて顔真っ赤にしてんのは似合わないなーとは思ったけど、まさか玩具をもらった子供の反応だったとはね。改造云々言ってたあの時、足吹っ飛ぶから止めろって言った記憶があるんだけど?」


 たしかに、そんなこと言ってたような。でも今折れてるのって着地に失敗したからだからなー。


「O.K.じゃあこっちも、すぐ治す、デス」


「あ、ほんとに大丈夫よ? 今日はもう2回治療してるし、今日はぐっすり休んでもらって、明日になったらで」


「? なんのこと……ああ、さっきお腹に穴空いてた時、デス? 私、死んだ人間、治せない。さっきの傷からの復活、Dragon になったときの自己修復」


 ……確かに傍から見ても死んでるように見えたけど……でも、倒れてる私に何かしてくれてるように見えたのは何だったんだろ?


「大変やったで。火車が頼光の死体を燃やそう燃やそうするから、今すぐは止めえって。ほんま、復活してくれて良かったわ」


「はい! 清和としてちゃんと供養するため、みやこまで連れて戻ることを主張していたであります!」


 あっぶなー!? 火車らしいっちゃ火車らしいけど、そんなやばい状況だったのね!? ある意味虎熊との闘い以上に肝を冷やしたわ……。


「……あははー、初耳ー。てっきり治療してくれたもんだとばかり。……つーか満仲おっさんも傷1つつかないだけじゃなく回復するかもしれないのか」


 怒りに身を任せてた時に起きた奇跡ってとこかな。いや、本を正せば母上が殺された時の怒りだし、母上が助けてくれたと考えよう。



「…………マジで怪我1つねえ。死すら覚悟したってのに信じらんねえ」


 自分の体を隅々まで確認した虎熊童子が困惑していると、上からどさっと、でぶと呼ばれる手下に預けていた虎柄の外套が被せられた。


「怪我は治るが服は直んねえからな、それを羽織っとけや」


 あらわになった胸元を隠せということだろうが、鬼はそんなこと気にするわけでもない。実際、虎熊童子をそっちのけで神に向かって大声で称賛の声を上げてる連中の多くは何も身に着けていない。


「はッ、随分紳士的じゃねえか。それとも男のくせに恥ずかしがってんのか?」


「なわけねえだろ。それより、ウチのネコ娘がなんかわりいな」


「わっはははははー! もーなんかすげえことになってんな! 腹いてー!」


 神、神、叫んでる連中を遠い目で見つめつつただ黙るしかない虎熊童子。さすがに命を救われた相手を悪く言うのは鬼の沽券にかかわると、複雑な思いを抱えながらも頬杖をついている。


「あー……なんつったっけ? あんたの弟」


「星熊童子だな!」


「そう、そいつ。足が動かせねえって聞いてるけど、そいつの足も治させるから飲み込んでくれ。鬼どもがどんだけ本気で騒いでんのか分かんねえけど、そう長くは続かねえだろ。多分」


 虎熊童子はその言葉に目を見開いて酒呑の顔を凝視する。そして自分の膝に1度目を移した後、再び酒呑を見て尋ねた。


「……治せるのか?」


「あー……悪い。適当なこと言ったかも。ただオレ自身半月前に負った傷を治してもらったりしたし、怪我した直後じゃないと無理ってことはねえはず」


「マ、アイツモ生キテル限リ治セルッテ言ッテルカラナ」


 目の前で火車が頼光にむけて手を掲げると、膝と反対の方向を向いていたつま先がみるみる正常の位置に収まるのを見る。気が付けば治ってたので実感のなかった能力を目の当たりにし、虎熊童子は小さい声で「そうか」とかみしめるように呟いた。


「で、仮に弟が回復したとしたら、あんたどうすんだ? まだ首領を続けるのか?」


「あ? どういうことだそりゃ。俺様が頭はってんのに文句あんのかよ?」


「いや、素直に尊敬してるぜ? ただ背負いこみすぎだとも思ってる。周りがあんたの責任感と優しさに寄っかかって好き勝手してんのに、あんただけ自分を追い込んで手下どもに尽くしてんのがなんていうか、哀れになった」


「………………………………はあああ?」


 心底意味が分からないと呆れ果てる虎熊童子とその横で笑い転げる丑御前。明らかに自分が的外れなことを言ってると思われている状況で、なおも酒呑童子は続ける。


「最初の乱闘のとき、あんた人一倍闘うのが好きなのに、手下どもが暴れてるときは引いて見てたよな。あれ、誰ぞ死にかけたらそこに横やり入れるつもりだっただろ? 自分も一緒に闘う乱戦の中じゃ、他への注意がそがれるからな」


 丑御前は笑うのをやめて、虎熊童子は憮然として表情で黙って聞いている。


「他にも闘い方がとにかく守備的。頼光が態勢を崩したときにも追撃しなかったり、とにかく気持ちと行動がまるで一致してねえ。100に1つでも反撃喰らって死んじまったら手下にも被害が行くからな。頼光が元に戻ってからの捨て身の攻撃してる時こそ、あんたの本質に近いだろ? 手下のこと考えず命のやり取りしてる時のあんたはかなり輝いてたぜ」


「…………テメエに俺様の何が分かるってんだよ」


「ギャハハ! ウチノ相棒、人ノ顔色ヲ窺ウダケノ人生送ッテキタカラヨ! ソウイウノ分カッチマウノヨ!」


「ま、うちの大将も仲間は大事にする人間だけど、なんだかんだ考えてらんねーってなった時は信頼して丸投げするからな。仲間のことも敵のことも。あんたのこと信頼してなきゃ、道満うえから殺しはすんなって言われてて、自分自身も人殺しを忌避する奴が、あんなわけ分かんねー必殺技ふつう撃たねえわ。あんたも弟が頼りになるなら任せちまってもいいんじゃねえのって話よ。足が悪くて動けねえんじゃ仕方ねえけど、治ればまた状況も変わるだろ」


「おおい。みんなー、飯の準備できたけど、終わったべかー?」 


 酒呑の言葉を聞き頭を搔きながら黙る虎熊童子。そこにのんきな太い声が飛んできた。



「おー! 熊童子のおっさん! 今終わったとこだぞ! それでな、オレ丑御前って名前もらったんだぜ? かっけーだろ!」


「おお、おお、良かったなあ。おめえはずうううっと名前欲しがってたからなあ」


 ずんずんと大きな足音をたてて現れたのは3mをゆうに超えるでっかい鬼。虎熊よりも黒く日に焼けた肌に、動物の毛皮を左肩だけ通して身に着けてる。髪の毛は黒くちりちりとした短髪で、そこから2本のだんだら角が生えてる。そして身長のわりに足は1mくらいと短い。


 その巨大な鬼が丑御前の頭をぐりぐりと撫でまわしてるけど、その手もものすごくでかくて丑御前の頭がすっぽり手のひらに収まってる。


 これがもう1柱の名持の鬼か。綱たちは警戒態勢に入ってるけど、正直今まで会ってきた鬼たちと違って全く闘う意思ってやつを感じない。


「熊童子、何人か客を入れると言ったら、そいつらの分も用意できるか?」


「ふぁーふぁーふぁ! そういうと思ってなあ、いつもより多めに作ってるだあよ。酒もたんと用意しとるで宴会といくべや」


「だ、そうだ。ついてきな頼光。熊童子の料理はうまいぞ」


 そう言って立ち上がる虎熊は焼けた羊肉を1口放り込むと、ぶっと吐き出す。


「まっず!? テメエこんなんで喜んでんなら、熊童子の飯食ったら目ん玉回すぞ」


 あ? 2回戦に突入したいのかしらこいつは。私と虎熊の間で再び一触即発状態になったとき、熊童子が大声で笑う。


「ふぁーふぁーふぁ! 虎熊童子よお、そいつは時間置いたからだあ。羊肉は油が固まりやすいで、焼いたらすぐ食わねえとダメらしいだあよ。焼けてんのは表面だけで中はまだだなあ、どれ屋敷に戻って焼き直してやるでえ」


「熊童子は羊を知ってるの?」


 昔寒さの厳しい陸奥の冬を越すために、津軽を交易の拠点と変えた母禮もれという英雄として祀られてる大領主が大量に異国から持ち込んで家畜化させた動物だけに、綱や季武も知らなかったのに。


「おお、おお。おらは料理が好きで異国の書物も読むんだ、知識だけで実物は見たことなかったけど、食材の見た目や調理法はすべて頭に入ってるだあよ」


「なるほどね。料理方面に特化した芯が通ってるのね……ってちょっと待った。書物を読んでって……手紙渡したとき字が読めないって言ったじゃない!?」


「ああ、俺様は読めねえから噓は言ってねえぜ? あの後、熊童子に読んでもらったが、協力体制を取りたいって話だったな」


 何それ!? 全然闘う必要なかったじゃん! こんにゃろ自分が闘いたいからって難癖つけてきやがったわね……。


「いや、手下どもを暴れさせたかったんだろうよ。丑御前が喧嘩を買って人里に降りちまったわけだし、他の奴らも続かないように麓を焼かれて溜まってた鬱憤をどうにかしたかったんだろ」


「……ほんと、こんなとこまで迷惑をかけるなんて、叔父上たちは源氏の恥であります」


 私の顔色を読んだ酒呑が虎熊の糸を伝えてくる。なるほど、播磨の連中が暴れたせいで迷惑が掛かったなら、その遠因は私にあるわけだしそれは受け止めるのが筋ね……。


「……でだ。頼光よお、協力するのはまあいいけどよ、1つこっちから要求がある」


「ん? 私にできることってそんなにないわよ? 道満さまにお伺いを立てないと」


「ああ、難しい話じゃねえよ。協力体制っていうならお前の仲間の誰かを大江山に置いといた方が色々都合いいだろ――」


 そこで虎熊は話を切り、酒呑の方を指さした。


「そいつくれ。大江山の新首領になってもらう」


「「は?」」


 私と酒呑の声が重なる。さっき何か話してたみたいだけど、酒呑にしても寝耳に水の提案だったみたいでえらく動揺してる。


「「「新首領だと!?」」」


 さっきまで神を讃えてた鬼たちは酒呑のとこに駆け寄ると皆で胴上げを始めた。


 ……うん、もともと酒呑は居場所を求めてたわけだし、返事は酒呑に任せるしかないわね。

【人物紹介】(*は今作内でのオリジナル人物)

【源頼光】――芦屋道満直属、摂津源氏の長。幼い頃の約束のため陸奥守を目指している。

【渡辺綱】――摂津源氏。平安4強の1人。源氏の狂犬の異名を持つ。

【茨木童子】――摂津源氏。大商人を目指す少女。商才に芯が通っている。本名月子。

【酒呑童子】――摂津源氏。人の体と鬼の体が同居する半人半鬼。相手の表情から考えていることを読める。

*【外道丸】――酒呑童子に取り憑き、半身を持っていった鬼。

【火車】――摂津源氏。ブリターニャ出身の精霊術師ドルイダス。生者を救い、死者を燃やすことを使命とする。本名キャス=パリューグ。

【藤原保昌】――藤原道長配下。異国かぶれの異名を持つ。

【源致公】――源満季の養子。本当の父は源忠賢。

【丑御前】――大江山に住む鬼。頼光を姐御と慕う。

【虎熊童子】――大江山首領。虎柄のコートを羽織った槍使い。


【用語説明】(*は今作内での造語又は現実とは違うもの)

*【燃屍教】――破闇是無鏖留ばーあんぜーむーおーるーと唱えながら屍体を燃やすことを正義として信仰を集める新興宗教。

旗袍ちーぱお】――チャイナドレス。本来は満州人の衣装で、中国に入るのは清の時代以降。

*【ミスリル】――魔力を込めながら製錬された銀。込められた魔力量に比例して硬度が上がる。最高品質のものはオリハルコンに匹敵する。ただし、込められる魔力量に上限があり、硬さを追求すると融点が銀そのままだったりと他に弱点が生まれる。

*【Dragon】――『心を見透かす者』の名を冠する悪魔王(第6天魔王と同一存在)、またはその眷属(天狗と同一存在)を指す言葉。

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