表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
平安幻想譚~源頼光伝異聞~  作者: さいたま人
序章 パラレル平安時代の誕生
5/166

人の未来のために

*人物紹介、用語説明は後書きを参照

*サブタイトルの【 】内の人物視点で書かれています


2025/1/02 修正

 ・混沌のキャラクター性変更

 ・視点の変更 混沌視点→第3者視点

 【観測者】から分かれて姿を見せたのは180㎝を超える大柄の女だった。


 褐色の肌に真紅のパンジャビドレスを身にまとっているが、腰に曲刀タルワールを佩いている。


 赤のフェイスヴェールで口元は隠れているが、真っ赤な瞳を宿した鋭い目つきと、細くもつり上がった凛々しい眉からを受ける印象は武人そのもの。きめ細やかな漆黒の長い髪を束ねているのも、派手に動いた時に邪魔にならないためだろう。


 全体的にインドの衣装のようだなと混沌は考えるが、曲刀の逆側につけた大きな瓢箪になんとも言えぬ異物感を覚えた。


『この出会いに感謝を。我はアラクシュミ。人とともにあり、その未来を繋げんとする者』


『あ~~~……サンスクリット語、話す、苦手。他、言葉、使える?』


「それはすまなかった。英語なら?」


「問題ないよ。確かヒンドゥーの神に、その名前を聞いたことあるのだけれど、間違っていないかな?」


「ああ、恐らく貴公が想像している神で間違いない。とにもかくにも、まずは我のメッセージを受け取ってくれたようで何よりだ」


 メッセージと聞いて一瞬混沌は困惑したが、それが手紙やテレパシーなどでないことに気が付き確認を取る。


「ふぅん? もしかして、いついかなる世界においても封神演義を書いていたのは――」


「我だ。もちろんオリジナルの作者というわけではなく流用させてもらったがな。人間の生み出す数多の創作物に敬意を表すものとして、著者の権利を侵害してしまったことに心苦しさを感じている」


 そう言ってポケットから文庫本を取り出すアラクシュミ。それは明らかにこの世界で書かれたものではないことは混沌にも分かった。


「ほう。もしかしてキミも未来のシミュレーションできるのかな?」


「いや、我の能力は【現在より過去にあたるパラレルワールドの自分と融合することで過去に飛ぶ】というものだ。未来のことは実際にその時間を過ごしたことで知っている」


 その融合の際、身に着けていたものは服からポケットに入れていたものから、全部持ち込めるという話を聞き、混沌はその便利さを羨んだ。


 条件をつけてトライ&エラーを重ねて知識を積み重ねるだけの混沌からしたら、その世界の娯楽などは【観測者】からのまた聞きのような形でしか入って来ないのだから無理もないが。


 そんな混沌の気持ちに気づかないまま、アラクシュミは混沌をこの世界に招いた理由でもある真面目な話にシフトする。


「貴公も知っているだろうが、これより1300年ほどで人類は滅ぶ。我はそれを防ぐため貴公の助力を望んでいるのだ。封神演義の宝貝ぱおぺえは仙人や道士――つまりは激しい修行を乗り越えた人間のみが使えるもの。魅力的な道具を使いたいという欲を餌に人間の努力を促したというわけだ。道具の高性能化だけではなく、人間そのものの能力を向上させること。それこそが侵略者と戦う鍵となるということが我々の結論であってな」


「まあ、そうだねえ。確かに答えの1つではあるよ。人の身に持て余す道具を持たせるだけでは、滅びの危険が早まるだけだもの。合わせて人には心も体も強くなってもらう方がいいに決まっているからねえ……」


 そこまで言ったところで混沌は先ほどの源頼光について考える。少々能力を盛り過ぎな気もするが、あれが外れ値なのかスタンダードなのかでまた印象は変わる。


「それでなのだが貴公にはこのままこの世界で、我らと行動を共にしてもらいたい。現世に残してある肉体を呼びだして融合することで、この未来を現実とする可能と聞いている」


「はあ? いやいや、それって急過ぎやしないかね? もっとシミュレーションを重ねて、最高の条件を試行錯誤すればいいじゃないか? 事実この世界今までで1番面白い結末が見られそうなのに、なにをそんなに急ぐ必要があるんだい」


 基本的に混沌は危険を冒すことを嫌う。


 仮に頼光がこの世界の人間のスタンダードだとしたら、そんな魔界に自分の身を晒すなど以ての外だ。


 その様子を見たアラクシュミはその意をくんで深く頷くが、それでもなお拙速に行動する理由を語る。


「言わんとすることは分かる。だが残念ながら貴公に時間がないかもしれんのだ」


「んん? 私に時間がない……それって一体どういうことだい?」


「現状、貴公が存在するパラレルワールドがここしか残されていない。パラレルワールドは自然と発生する故無限にあるが、他の世界では貴公は女媧じょかという最高神の不興を買い、寝ている間に始末された、と貴公の後釜に座った者から異世界の私が聞かされている」


 結界の外の音は全て遮断されているため、2柱の神だけの世界に長い長い沈黙が流れる。


 逡巡を終えた混沌は大きくため息を吐くと、すとんとその場に胡坐をかいた。


「あほらしいねえ……。どこまでも理解がない主上のために働くことの愚かさを、いまさらながら痛感したよ。まったく、もはや人間の未来のために動く気にもなれない。存在意義を失ってしまった以上、生きてても仕方がないのかもしれないねえ」


「死んでどうなる。それよりも主神からの命令としてではなく、志を同じとする我らと貴公自身のために、この世界に転移して我らと人の未来を守らないか」


「断るよ。私自身、人間なんてどうなっても構わないと思っているのだから。主上がなぜ人間を繁栄させようとした理由を知っているかい? 世界に生きる生物の中で人間の姿が、主上の上半身に似ていたから、たったそれだけの理由さ。キミがそこまで人間に肩入れする理由こそ分からないよ」


 使命感や義務感といった行動原理をすべて失った混沌。光を失った異国の神に、アラクシュミは文庫本を入れていた逆のポケットから何かを取り出して混沌に渡した。


 そして混沌の背中から覆いかぶさるようにその説明を始める。


「そこの電源を入れてだな……よし、その【はじめから】にカーソルを合わせてスタートボタンを押すんだ」


 軽快で楽し気な音楽と共に表示される【ポケットクリーチャー】の文字。その手で触れるのは初めてだが、それが何かは知っている。


「ゲームじゃないか!」


「その通りだ。先ほども言ったが、創作活動において人間に勝るものなどいない。特にこの【ポケクリ】はいいぞ!」


 先ほどまで武骨でとっつきにくそうな印象のあったアラクシュミがキラキラと輝いた目で、抗議する混沌の顔を待っすぐに見つめる。それはまさにマニアがあわよくば自分と同じ世界に引きずり込もうと、好きなものを目いっぱい語ろうとする力強い表情だった。


「……はぁ参ったね。まさかキミがこんな奴だったなんてねえ」


 文句を言いながらもすでに現実に帰る気も失せた混沌は、仕方なくアラクシュミの趣味に付き合ってやることにした。



 20分後―――


「ああああああああ! 何をやっているんだい! そこは手加減したまえよ!」


 好みな見た目のクリーチャーに、無慈悲にもとどめを刺す味方クリーチャーに大声で叫ぶ混沌。


 結果から言えば、混沌はハマった。ドはまりした。


「神が【つくる】と言えば【創る】であり、【作る】ではない。もちろん天地や生物を創るのは主神クラスでなければできぬが、他の神のやることと言えばすでに世界に存在するものの管理くらいだろう。貴公は料理をしたり、私が託した封神演義に書かれた宝貝を作ったが、それは人間のアイデアあってのことで、貴公の発想からはでなかったのではないか?」


 たしかに、好奇心旺盛な性格から、シミュレーションの中で得たものを混沌は良く作った。小屋を建てたり、服や寝具などを仲間に広めたのも混沌だ。


「我は数多の人の世界を巡り、その創作物の素晴らしさを思い知らされてきた。1度滅びたのち、再び何千万という歳月を経れば再び人のような生命が生まれるかもしれないが、今さら原始人の方がまだ文化的と呼べる、神の社会では1ヶ月も生活することができぬよ。それが我が人を救いたい理由だ」


「俗物だねえ」


 アラクシュミの想いを聞いていた混沌は、しっかりとセーブした後に画面から目を離してその目をヒンドゥーの神に向ける。


「だけど、女媧の言いつけでやらされるよりかは、ずっと真っ当な動機になるのは確かだ」


「ふ……、それは協力してもらえるということでいいのかな」


 アラクシュミから差し出された右手をがっちりと握り返し、混沌は天界より本体を召喚した。



 眠っていた本体と夢の中で動いていた意識の融合を果たした混沌に、アラクシュミが話しかける。


「同志はもう1人。北欧の運命神でスクルドという者がいる。貴公の……観測者と呼べばいいのか? それに干渉しこの結界の中へもフリーパスとなっているから、すぐに来るはずだ」


「そうかい。その神も何かしらの未来を知る手段を持っているのかな?」


「いや、最終戦争ラグナロクに向け、英霊を集めて死者の軍団として統率する能力を持っている」


「ふぅん? ああ、そうだ。私にも1柱、できることならコンタクトを取りたい神がいるんだが、今どこにいるかわからないかい?」


「何という者だ?」


窮奇きゅうき。私と同じタイミングに作られた1柱なんだが、唯一の理解者と言っていい奴だよ」


「名前に聞き覚えはある……」


 記憶を頼りに考え込むアラクシュミに、少しでも思案の助けになればと混沌は追加の情報を伝える。


「世界のバランサー……か。我やスクルドとは考え方が違う相手のようだな。我らとすれば人には強くなるため、上位種と競わせたいところだが……しかしそのような者がいるのなら、なぜ今の世界は我らが望むような、人間の上位種が跋扈する世界に――」


 何か思い出したアラクシュミはポンと手を打つと、まっすぐに混沌の目を見つめる。


「その者なら殷と周の戦争の中で死んだぞ」


「は?」


「この世界での貴公――観測者に加え、檮杌とうこつ饕餮とうてつが周に加担したことで監視も兼ねて周に従軍していたのだが、その中で命を落とした。なるほど、バランサーが死んだからこそ今の環境があるわけか」


「え~~~……と? ちょっと待ってくれたまえ。え、窮奇、死んだのかい? ほんとうに?」


「嘘を吐いたところで仕方あるまい。先ほどの源頼光の能力が、我の言葉に説得力を持たせるのではないか? ところで、この観測者はどうするつもりだ?」


「あ、ああ……もちろん融合して1つになるさ。ただ、数千年分の情報量があるからね、これを無造作に取り込むと脳への負荷が尋常ではないからね。時間をかけて丁寧に情報を取り出していくさ」


「ふむ。1度にしてしまうと、脳に対するDoSアタックみたいになるわけだな」


「そうそう。前にうっかり200年分くらいの情報でやったときでさえパーになるかと思ったからねえ、慎重に取り扱って――――」


「あなたが新しい仲間ね!! あたしの足を引っ張るんじゃないわよ!!」


 アラクシュミと話す中、突如背後に現れた金髪ツインテールの女性に背中を思い切り叩かれた混沌は、そのまま観測者の方へよろめく。


 そして距離がゼロになり、強制的に融合を果たすこととなった。

【人物紹介】

【混沌】――女媧に生み出された神の1柱。政治担当。人々の繁栄を目指すのが仕事。未来をシミュレートする術をはじめ様々な術が使える。現代知識も豊富。

【アラクシュミ】――ヒンドゥーの神。現在地点より昔のパラレルワールドの自分と融合することで、過去に飛ぶことが可能。幸福の神だが人類の滅亡に何度も立ち会っているため、不幸の神と自虐気味。混沌同様に現代知識が豊富。ゲームが大好きで創作活動を保護するため人類救済に動いている。

【窮奇】――女媧に生み出された神の1柱。統率担当のイケメン。人間中心の世界を作るためのバランス調整が仕事。死んだことで世界のバランスがぶっ壊れた。

【檮杌】――女媧に生み出された神の1柱。武力担当。

【饕餮】――女媧に生み出された神の1柱。女媧と同じ知識を持ち、『全知』の異名を持つ。

【女媧】――中国のおいて人間を生み出した最高神。

【スクルド】――北欧神話に出てくる3姉妹神の末っ子。未来を司る。


【用語説明】(*は今作内での造語又は現実とは違うもの)

*【観測者】――仮想未来のデータ収集を行う混沌の分身体。

*【仮想未来】――混沌の未来シミュレーションによって作られるパラレルワールド。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ