表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
平安幻想譚~源頼光伝異聞~  作者: さいたま人
序章 パラレル平安時代の誕生
4/268

悩み相談

*人物紹介、用語説明は後書きを参照

*サブタイトルの【 】内の人物視点で書かれています


2025/1/02 修正

 ・混沌のキャラクター性変更

 ・視点の変更 混沌視点→第3者視点

「さあて、と。とりあえず状況がよく分かってないのだけれど……何かこいつが迷惑をかけてしまったのだろうか?」


「いや、なんか全身真っ黒な人がいるなーって見に来ただけなんだけど……」


「なるほど……。いや、そうだね。それなら良かったよ……ははは」


 混沌の生み出す【観測者】は姿かたちこそ混沌そのものだが、それこそ影法師のように黒一色。そんな怪しい者を追いかけてこんな路地まで入って来たと聞いた混沌は、ますます目の前の人間のことが理解できなくなっていた。


 そんな彼女に対して、逆に女から質問が飛ぶ。


「それで結局あなた達はこんな市場の外れで何してるの?」


「ふむ、市場、市場ねえ~……。――ッ! そうそう! 私は占いをやっていてね! 運命に導かれたものだけに少しばかりの助言をしているのさ! 実を言うとこの影法師は選ばれたものにしか見えない――つまりキミは選ばれしものということさ!」


 とっさの嘘で乗り切ろうと決めた混沌は芝居がかった口調で女に語り掛ける。最近は喧嘩ばかりであったものの、話の通じない相手を説得しようとしてきた混沌にとって、人間の1人や2人適当に丸め込めると判断した。


「よろしければお名前をうかがっても? 占いの材料になるからねえ」


 5分に及ぶ営業マシンガントークにポカンとする女に対して、ここぞとばかりに情報を引き出そうと混沌は仕掛けた。どの未来であっても、残る名前は大体同じものであることを知っている。


 それを歴史の修正力とでも呼べばいいのかはわからないが、名前こそ数多の未来を覗いて来た混沌にとって最大の情報。見た目こそ若いものの、この結界にしれッと入り込んできているあたり、のちに名を遺す人物の可能性は高いと混沌は踏んだ。それこそ日本の歴史に疎い混沌であっても知ってるくらいの大人物だと。


 そしてそれが分かれば、この人間が喜ぶようなことを言ってやればいい。適当に煙に巻くことができればあとはもう逃げの一手を打つ。それが混沌の考えた最も安全な一手だった。


「私? 頼光らいこよ。源頼光みなもとのらいこ


「【みなもとのらいこ】……。ふぅん、キミは女性ということでいいのかい? それとも佩刀はいとうしてるから男性かな?」


「結構間違えられる時あるけど、れっきとした女よ。でも女で佩刀してるのってそんなに珍しい? つなは女の武士なんて珍しいものじゃないって言ってたけど」


 混沌は『源』という姓が日本の貴族のものであることは知っていたが、はっきりと名前を憶えてるのは頼朝と義経くらいで、それも何をしたかと言われたら平家という敵対した貴族と戦っていたという認識だけだった。


 名前さえわかればどうにかなるだろうと思っていたのに当てが外れた混沌。それ以前に社会が未発達ならどの世界でも男性中心なのに、外国の歴史上の女性など分かるはずもなかったと自省する。


 いっそ平家という貴族と戦えと言ってしまってもいいが、その戦いが終わるとともに平安時代が終わり、次の鎌倉時代に移ることは知っている。つまり特に条件も付けなければ人間が辿るであろう正規のルートでは、200年のギャップがあるものを勧めるのが正解なのか判断に迷った。


「それでどう? 私、陸奥守むつのかみになりたいんだけど、どうすればなれる?」


 黙り込んだ混沌に対して恐る恐る声をかけて来る頼光。たしか~守というのは、この時代の地方の領主みたいなものだったかと知識を漁る。


「そうだねえ。女性の武士が珍しくないのであれば、地道に手柄を立てていけばいずれ――」


「それじゃ遅いのよ!!」


 地方領主程度になるのが望みというなら、下手にリスクを取らず無難な助言をする方がマシという想いからの発言に、なぜか怒鳴り声で返され混沌は委縮する。何が地雷だったのか探るため無言でいると、幸運なことに頼光が勝手にぽつぽつと理由を語りだした。


「今年現任の国司の任期が切れるの。次に選ばれなかったら最低でも4年待たなきゃダメ。私はこれ以上富ちゃんを待たせる訳にはいかない」


 そう言うと頼光は1度目を瞑り、深く息を吐いた。


「私は陸奥守になりたい……いや、ならなきゃいけない。これは子供の時にずっと一緒に遊んでた、今も陸奥で1人で過ごしてる私の友達との大切な約束だから。今の私は仲間も少ないし、何をしたら望む未来にたどり着けるのか、全く分からず手探りで進んでるの。もし、あなたとの出会いが本当に運命だというのなら、どんなに難しいことでもいいから助言がほしい」


 再び開かれた瞳からは、どんな困難でも乗り越え成し遂げてやるという強い意志を感じる。ここまで覚悟の決まった、力の底が見えない相手に迂闊なことはもはや言えない。


 誰でも語れるようなやり方は論外。それこそ漫画や小説に書かれる実現性の疑われるような突拍子もないことをぶち上げた方が、気持ちよく帰ってもらえるのではないか。


 そこで混沌の頭に浮かんだのはやはり封神演義だった。仙人や妖怪が人間社会に入り込み、1つの国の興亡を巡る戦争に発展していく。


 その中で英雄的な活躍をすれば自ずと道が開けるなんて説ければいいが、国すら違うのにそれが通じるかどうか――――……。


「あ」


 天下をかけた大戦争などと大それたものでなく、実力とやる気さえあれば手っ取り早く手柄になりそうな部分。封神演義の1要素として存在し、かつ日本の伝承の中にもある共通項に混沌は気づいた。


「妖怪退治か?」


「え?」


「そうとも! たった今運命の扉は開かれた! 妖怪退治さ! 人の身にあっては通常届かぬ物の怪を倒せばそれは圧倒的な功績! 今すぐ行動に移すべきだとも! 具体的に言えば何とか山に住む何とか童子をね!」


「具体的っていうわりには、かなり曖昧なんだけど……」


 確か大江山の酒呑童子だったか。その名を混沌はぼんやりと知っていたし、思えばその妖怪を倒したのが源なんたらだったことも記憶の端にあった。


 だけど大江山は京都にあり、もしかしたら「いや、そこに妖怪なんていないけど?」と返される恐れもある。そもそも妖怪なんて本来人間の想像力が生み出した存在しないもの。仮に存在するパラレルワールドが誕生したとしても、バランサーである窮奇に滅ぼされるだろう。


 だからこそ、あえてぼやかした。存在することよりも、存在しないことを証明するほうがはるかに難しい。妖怪の存在に懐疑的でもそれを探し当てて倒すことが運命だと言ってやれば、他にさっさと手柄を立てる考えが浮かばないなら縋るしかない。


「それは仕方ないだろう? 占いとは所詮道を示すもので答えを与えるものではないのだよ。でもねえ、この程度の運命を切り開けもしない者が真に陸奥守にふさわしいと、キミはそう思うのかい?」


 あとは陸奥守の適正みたいなことを擦ってやるだけ。自分が目標とするもの、しかも子供のころに思い描いてたキラキラした夢なら、示された道が困難であればあるほど気持ちは燃え上がる!


 少なくとも混沌の見立てでは、目の前の人間はそういうタイプであるのだ。


「なにもキミ1人で抱える必要はないんじゃないかな。綱さん、だったかな? 女性の武士は珍しくないって言っていたキミの仲間とも相談してみたらいいじゃないか」


「……なるほど。うん、それもそうね!」


 うんうんと頷く頼光をニコニコと見ながら。混沌は心の中でガッツポーズした。


 勝った。あとはさっさと結界から追い出して、現実世界に戻る! そしてこの世界の結末を見守った後、良い結果が認められれば改めて同じ条件で世界を進めればいい。


 数え切れないくらい繰り返してきたシミュレーションの中で唯一エラーをはいた世界。そこで得体のしれない人物とのやりとりをしたことが、逆に結末を期待させる。


 すべてうまく行けば女媧じょか饕餮とうてつに何を言われたところでもはや勝ち確。どれだけ苦労してきたのかは決して理解されないにしても、混沌の心が決して乱されることはない。


「そうだ! 何かお礼をしたいんだけど……荷物は綱に預けてるし何も持ってないのよね……そうなると―――……」


「いやいや、私は運命の導きに従っただけさ。お礼とかいいからさっさと行ってくれたまえ」


「それじゃ私の気持ちが――……うん、分かったわ。今度会えたときには改めてお礼をさせてもらうってことでいい?」


「もちろんだとも。そういうことで結構ですから気をつけて―――って速ッや!?」


 混沌の両手を掴んでぶんぶん握手を交わした頼光はとんでもない速さで駆けていった。


 その速さは混沌が知る中で最強の存在、女媧の持つ武の全てを持って生み出された同僚の檮杌とうこつにも勝るのではないか。そうなるとこの世界の人間はやはり神に匹敵する力を持っているのではと疑問がわく。


「やれやれ、私の分身が作った結界を突破してきたり、この世界の人間のスペックおかしくないかい? 窮奇の奴、人間の脅威となる存在を排除するのではなくて人間そのものを強化するように考えを変えたのかな?」


 今までの窮奇からは想像もつかない方針の変化に若干の違和感を覚えながらも、今回の危機を乗り切ったことに混沌はようやく安堵のため息を吐いた。


「まあいいさ、とにかくこれでミッションコンプリート。エラーも解消ってことだろうしさっさと帰って続きを見守ろうじゃないか。いやあこれだけイレギュラーな世界。どうなるか見ものだねえ」


『それは困る。貴公に話がある故、我がこの地に呼んだのだから』


 いきなりかけられた声に慌てて振り返るも、そこにあるのは【観測者】の姿のみ。


 さっき頼光の件を丸投げしてきた声は分身たる【観測者】の――混沌自身の声そのものだったのに、今かけられた声はハスキーでまるで別物。何より言語が違う。


 混沌が警戒を強めると、【観測者】の左肩がぼこりと膨れ上がると地面に垂れ、1度水たまりのように広がると、今度は人型に膨れ上がった。

【人物紹介】

【混沌】――女媧に生み出された神の1柱。政治担当。人々の繁栄を目指すのが仕事。未来をシミュレートする術をはじめ様々な術が使える。現代知識も豊富。

【源頼光】――女媧にすら破れないはずの結界に入り込んでるやべえ人間の女性。神が驚くほど足が速い。

【渡辺綱】――頼光の配下。

【窮奇】――女媧に生み出された神の1柱。統率担当のイケメン。人間中心の世界を作るためのバランス調整が仕事。

【檮杌】――女媧に生み出された神の1柱。武力担当。


【用語説明】(*は今作内での造語又は現実とは違うもの)

*【仮想未来】――混沌の未来シミュレーションによって作られるパラレルワールド。

【陸奥守】――現在の青森・岩手・宮城・福島にまたがる地方の国司。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ