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白魔導師と龍の獣道 ~二匹の魔物が形見をお届けします~  作者: 世見人 白図
第2部 不香花の黒白
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33 天敵



原理は単純、彼女という存在の距離が攻撃の強弱。

近くから攻撃をしていれば強く作用するが遠くから魔力を使い攻撃しているならそれだけ消費する魔力も多くラグがある。



この"ソアラ"が何故彼女を実体化させたのかは分からない、分からないけれどその効果があるのなら近距離で放ちたい。



氷で作られたあらゆる武器や塊は一層増して激しくなっていく、ロロイを含む私達も出来るだけ攻撃を避けつつシメオンの一言を待っていた。


どんどんと激しくなる魔法による攻撃、唐突にその時は来た。


「左!」とシメオンの声が届いた瞬間、私はいつでも打てるように構え唱えた"ソアラ"。



唱えた瞬間、今まで姿を現さずいたイコライが現れる。その瞬間を誰よりも待ったロロイも攻撃を躱しながらすかさず現れたロロイの元へと走り出す。



「二度は無い」



現れて間も無く雪の如く風に乗って散る彼女は再びその身を消そうとする、しかし無駄だ。

一見すれば彼の攻撃が届く前に逃げられるがそれを許すはずも無く、彼女は再び実体をあらわにし彼の渾身の一撃は彼女の腹部目掛け鈍い音と共に地面に叩きつけられたのだ。



「やった!!」



悶え苦しみ地に伏せるイコライ、その顔は驚きを隠せない様子と共に痛みで歪んでいた。



「"囘唱(ロイロ)"、まさかこんな情けない魔法に使うとは思わなかったわ」



そんな軽口を叩くも嬉しそうに微笑むグラシー。

彼女の得意とする魔法学"復唱"、魔法をコピーし放てたり、特定の魔法を増強、打ち消しが出来る。



一見簡単にも思えるこれらは、瞬間的な想像力に応用力は勿論、紋章学や記憶力、読解力等を必要とする高等技術の為、実戦での活用はほぼ不可能に使い芸当であり、まさに天才にしかなせない技。



彼女が最強と言われる所以を私は垣間見た。



「な・・・にを・・」



苦しみながらも再びイコライは消えようとするがそんな隙を与える間もなく私はすぐ様"ソアラ"を唱えると彼女は実体のまま地に伏せていた。



「もう逃がさない、あなたを絶対に許さない」


吹雪く雪の中、彼女の攻撃は止まる。


追い詰めた、相手は物理の痛み等体制の無い魔女、鍛え上げられた戦士ですら悶絶するロロイの一撃を受けて立っていられる訳が無い。



「さて、どうする?」とグラシーは言う。


「どうあっても私達は裁く立場に無いです・・・。だから」


「だから拘束して下山?無理でしょ、私だって永遠にあなたの魔法を"復唱"出来ない。それに無事に帰してくれると思う?」



「・・・ならどうすれば・・・」


「簡単よ、ここで殺す」



静かにグラシーは強く主張する様に言い放った。



「あなたが出来なくとも私には出来る。それが許されている部隊なんだから」



「・・・でも」



「あなたには分からないでしょ、仲間が目の前で殺された。何も分からないまま」



それ以上私は彼女にかける言葉も思いつかなかった。

とても強い、もっともな言い分。口を挟む余地も無かった。



「一晩で街を滅ぼしてる。どっち道この女は殺されるのなら私達で処分したと報告した方が良い」



「・・・、グラシーさん多分ですけど彼女はあなたにも私にもどうする事が出来ないと思います」



「どういう事?」


「実は彼女に直接攻撃を叩き込めたのは私の使う"ソアラ"の力じゃなくてロロイの力なんです。あくまで私は実体を現しただけで」



その言葉を聞いたグラシーは躊躇せず腰に差していた短剣を取り出し彼女に刺し込むもその短剣は空を切り地面に突き刺さる。



「どういう・・・」


彼女の視線はロロイに向けられるが彼は答えず佇む。



「説明すると長いですけど、彼は物理の効かない魔力や魔法といった物体を有さない敵に対して物理で戦えます」



まだ理解にやや苦しむのかその場ではなんとか理解を示してくれたグラシー。


その場にいた誰もが彼女から目を離さずにいた、再び逃げよう物ならまた"ソアラ"とロロイの一撃を与えるだけ。

そう思っていた。



「この地は私達の物だった・・・、封じられていた仲間も全部、エルフのせい・・・。あいつ達が居なければ、あいつさえ居なければ・・・」



静かだったイコライは急に口走りったと思えばその鋭い視線はシメオンに向けられていた。その強い視線にたじろぐ彼女だが、威勢は良くとももう彼女に戦える程の形勢がある訳では無い。


シメオンは少し強ばりながらも彼女に言う。



「何の話?」


「あなた達さえ居なければ良かったと言ってるの・・・。"シメオン"・・・その名を聞く度腹が立つ」



この言葉から察するに恐らくシメオンの仲間を殺したのもどうやら彼女なのだろう。



私の憶測では遭難者や魔獣に襲われ亡くなった旅人から物を物色し盗んで生きる彼女達がイコライの探す指輪を誰かが持っているのではないかと思っていた。


それは同じくイコライも同様に考えてはいたであろう、だからこそ彼女達を殺していたに違いない。



もう少しこの考えに早く辿り着けられれば、彼女が一連の犯人であると気が付けたと思うと街の人達を助けられたのでは無いだろうかと自身の情けなさにより一層腹が立つ。



しかし彼女の語るそれは思っていた考えとは少し違う。もっと因縁深い、まるで仇の如くその声は今にも荒らげそうなフツフツと煮え滾る殺意を感じさせる怒りの声だった。




「あなたの仲間・・・そっか、あなたも"シメオン"だった?一人残らず殺したつもりがあなたがまだいたなんて・・・、最後のシメオン・・・この地にいる最後のエルフ・・・、一番惨い殺し方で殺してあげる」



ロロイはすぐ様彼女の両腕を掴み背中に回し地面に伏せさせ叩きつける。

何か行動を起こす前に私達は彼女に魔法を常に掛けた状態でいた。



「ちょっと、そこの!一体この魔女に何したのよ!」とグラシーはシメオンに問うも、彼女も黙ったままイコライの殺気に押され、自然とその足は後ろに下がり彼女との距離を取っていた。



「知らない、少なくとも私はこの女を知ってはいない。氷の魔女にも覚えが無い」



「リフレシアが言ってた。シメオンが街に・・・いや、イコライを避けている理由。


彼女の存在を探知出来るのも特殊な能力じゃない、逃走本能。それは体に刻み込まれた天敵に対する警戒能力、それって生きてきて直ぐ身につくものじゃない。


シメオンの古い祖先からの記憶」



きっと彼女自身も知らない氷の魔女とシメオンと名乗るエルフには深い因縁と戦いがあったのだろう。

その中でシメオン達は何かしらの理由があって魔女を避ける様になった、そう考えるのが自然だ。



しかしそれを知らないシメオンに、因縁と共に指輪を求め自身の種族の復活を狙うイコライ。


皮肉な物だ。



「・・・あ、リフレシア!リフレシアの氷を解いて!」


ふと我に返り思い出した氷漬けの彼女の事、死んではいない。それだけは分かる、なぜなら私の腕に付けられた彼女との契約の紋章、それが消えていないのだから。


「解くはずも無いでしょ、それに私はまだ負けてない・・・」


怪しく笑みを見せるイコライ。呪いや魔術を解く能力や魔法が使える人材がいない今、彼女に解除してもらう他方法は無い。



「そこのロロイって男は使えないの?・・・物理でどうこう出来るんでしょ?」



グラシーはロロイを指差すが彼は特殊な相手に対抗しうる特異体質であるだけで解術や魔法等、ましてや魔力に至る魔法に関する能力は皆無。


ロロイは彼女の問いに首を横に振る、その返答に当然ながらグラシーも不思議そうな顔をし「あんた何なのよ!」と顔を顰める。



「助けを待つのは難しい、あの氷塊を持っての下山も不可能。ならやっぱりこの女を殺すか、あの口煩いガキを見殺すかだけど・・・どうします?カペラさん?」



グラシーの意地悪な問いに私は困ってしまい、直ぐに回答出来ず口ごもってしまった。しかし彼女の言う通りだ。


決断力が無く私はその場で答えを出せない。その優柔不断な行いは愚かな私に罰を与えた。


与えられた僅か数分に至る時間はイコライにとっては十分過ぎる程の時間だった、油断した私達に彼女は一言こう呟く。



「あなたとは覚悟が違う。どれだけ卑劣でどれだけの相手を敵に回しても成し遂げたい野望がある。そんな相手を前にする油断はどれ程愚かか」



たちまち山頂の方から轟音が鳴り響く。その音と共に大きく大地を揺らし、雪の波が私達を飲み込まんと崩れ襲い掛かる。


「雪崩!?」


「私はこの地その物、いくら実体にしようと死にはしない。死ぬのはあなた達だけなんだから」



急速に襲い掛かる雪崩は私達が動こうとするその前にその雪はの波は私達を飲み込んで行った。





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