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白魔導師と龍の獣道 ~二匹の魔物が形見をお届けします~  作者: 世見人 白図
第2部 不香花の黒白
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31 分水嶺②



「じゃあ・・・街の人は」


「恐らく皆、凍死してる」


状況を飲み込むのに時間がかかった。言葉に詰まる私にグラシーは口を開く。


「・・・ところで、あの女何者なの・・・」


その事について誰も分かっていなかった。明確に誰で何が目的なのかも分かってはいない、直ぐに答えられる事が出来る人はおらず一瞬の沈黙を答えに彼女はため息をつく。



「このメンツを見る限りあの生意気娘(リフレシア)は死んだって事でいいかしら?」



リフレシアも一向に姿を見せないがそんな簡単に死ぬとも思えない。

しかし龍である彼女の元の姿を現せば、私以外彼女達に見せてしまうとこれまたパニックになる。


どうにか人の姿で現れて欲しい所だが・・・。



辺りを警戒しながら見回すが吹雪は一向に止む気配も無く、彼女の姿も無い。冷たい風と凍える程の気温は間違いなく徐々に私達の体力を奪っていく。



そんな状況にも関わらず皆こんな自体になりながらも冷静で誰一人としてその場から離れず辺りを警戒していた。

下山するにも位置も場所も土地勘も何も無い、視界も悪く夜闇が包む白くも暗黒の世界。



「目的はその指輪、はいどうぞと渡して見逃すとは思えない訳だけど。どうします?カペラさん?」



意地悪な言い方の問い、しかしそれは誰もが思っている事。シメオンもロロイも私の方を見る。



「イコライを倒す他にここから脱出出来る道が無い・・・よね」


「敵が姿を素直に現してくれれば・・・だが」



シメオンの言う通りでこの場にただ留まらせるだけで私達はいずれ体力を消耗し、この極寒の地で息絶える。

最良の策はリフレシアによる炎の魔法にブレスがあれば多少なりとも寒さは凌げられる。なんて馬鹿げた考えさえしてしまう。



しかしそれは守りの手段でしかない、明らかに我慢比べには分が悪い。



イコライを倒せばこの吹雪きが止むのかも怪しい。先の見えないこの状況の打開策が見当たらない中、悩む私にグラシーは言う。



「危機的この状況、打つ手も浮かばない訳ね。悩んでそのまま死ぬくらいなら動いた方がいい。そう思わない?」


「グラシーさん」



彼女の言う通りだ。生きたいのなら、どうせ何もせず死ぬのなら、この状況に絶望している暇なんてない。


「皆!ついてきて!!」


私の掛け声と共に皆走り出す。

山を下る、方向も位置も分からない、けれどとにかく足を動かし山を降りる。


誰かの一言が欲しかった。何かを示すための言葉、私の号令はこの白銀の世界に響き渡る。



傾斜は若干ある。とりあえずは下りるという事は出来る。


私の後を追ってロロイもシメオンも何も言わず着いてきてくれた。


何処かで雪に足を取られ落ちてしまうかもしれない恐怖もある中、暗闇と猛吹雪を駆け抜けて行く。



冷たさも寒さも気にならない程に一心不乱に走ると突然シメオンの声が響く。



「右、2時の方向!!」



彼女の言う方を見るとすぐそこに氷の槍が幾つも飛んで来ていた、間一髪で私達は幾重にも飛んで来る氷の槍を避ける事が出来た。


視界も最悪、吹雪風の音でまともに何かが飛んで来る音さえも聞き取りずらい、そんな中シメオンは攻撃を感じ取り私達に伝えたのだ。



「ありがとう!シメオン!」


「礼は後にしな!黙って走れ!」


グラシーの一言に私達は再び走り出した。

何故彼女がイコライの攻撃する場所が分かったのか分からないが、今はそんな事どうでも良かった。



それからまるで傍観し勝手に死ぬのを待つ事をやめたのか、暗闇の中から突如何度も何度も氷の槍が私達に降り注ぐ。


攻撃は全てシメオンの報告によりなんとか躱す事が出来る。



攻撃の規則性、そして何よりわざわざ闇雲に進む私達に対して今になって攻撃に転じたのか。

攻撃で誘導し間違った行き先へと進ませようとしているのだろうか、攻撃の方向があからさまだ。



戦闘経験が明らかに違いが出ている。相手もそれ程必死なのだろう。

いつの間にか編成は自然に変わり、先頭にはシメオン、続いて私とロロイとグラシー。打ち合わせも無く役割は自然と組み上がっていた。




「左から来る!」



シメオンの指示を受け瞬時に躱す、避けきれない氷の槍はロロイが打ち砕く。


「右に寄りすぎ!もっと左!!」


ロロイに抱えられながらグラシーは後方から位置の修正。的確な指示と敵の攻撃への対応、神経をすり減らしながら闇の中を駆ける。


止まぬ吹雪、明るさを微塵も感じ無い闇の中。

一切の緊張を緩められない中での逃走、一体いつまで続くのだろうと不安と疲労感は心を蝕む。



「逃げろ!!!」



曖昧な指示が前方から聞こえてくる、咄嗟の言葉。その異変を感じ取る間も無く降り注ぐ氷槍。



四方から放たれる透明の氷槍はこの暗闇の中、反射神経だけで避けるには苦しい。


本気だ。


まるで吹雪く雪の如く降り注ぐ氷の槍、目の前に現れては絶望するしか無かった。避け切れる訳も降り注ぐ氷槍は私達を容赦無く切り裂く。



そんな最悪の光景を想像した瞬間だった。雪景色に似合わぬ丹碧の炎。

炎に焼き払われる氷は瞬く間に溶けて消える、この炎は間違いない。



「リフレシア・・・」


溶けゆく雪の中、渦巻く炎と共に現れた彼女の姿。

人の姿を晒しながら両腕は人の腕に似つかわしく無い鱗に纏われ鋭い爪が伸びる龍の腕。



「良かったな、お前らごと焼く所だった」



厚い雪の層から這い上がりながらリフレシアはシャレになっていない軽口を叩く。それでもイコライの猛攻は止まらず再び氷槍は降り注ぐ事を止めない。


「たかだか凍った水、焼き払ってくれる」



彼女は宣言通り、降り注ぐ氷槍を全てその手から放たれる炎により撃ち落とされていく。

度重なるイコライの攻撃、辛うじてリフレシアが防いでくれているが彼女の影も射線さえ見えない。


無造作で連続的、打たれてくる攻撃は四方八方どこから放たれているものなのか、この暗闇の中からでは分からない。


焦ってはいけない、逃げ場も無いなら戦うしかない。



「シメオン、ロロイとグラシーさん・・・死なないでね」



シメオンは頷くがグラシーは私を睨み言った。


「私を誰だと思ってるの?」



余裕を見せながら、グラシーの一言にリフレシアは笑って言う。


「お荷物の死に損ないが偉そうに」



拗ねるグラシー。シメオンはそんな軽口を叩く会話とは無縁に話を戻した。



「どうする?こうして攻撃を防いでるが敵の正体も見えない」



土地勘も無い、猛吹雪、真夜中による深淵の世界。

敵の姿も見えない圧倒的に不利な状況、きっと彼女は私達を生きては返さない。



「"ソアラ"」


その一言にそこにいた誰もがキョトンとした表情を見せる。グラシーは一人私に向かって怒りを顕にし言った。


「何を言い出すかと思えば薬を混ぜ合わせる(まじな)いなんか今関係無いだろ!!!」



"ソアラ"、魔法を会得する際最初に教わる初歩魔法。

薬の調合の際に失敗しにくくなり、寄り良い状態にして完成させる事が出来る。白魔法の基礎とも呼ばれている。


私も何故そんな言葉が口走ったのか分からなければいつの間にか"ソアラ"を唱え終えていた。



中で渦を巻き、雪が集まり、混ざり出し塊を作り出す。そして塊は徐々に人の姿となり徐々に作り出される形はイコライその人の姿形だった。



止まぬ氷槍を蹴散らすリフレシア以外はその現れた彼女に驚きを隠せなかった。

それは彼女自身もそうだったのか自身の姿を見て驚きを隠せなかったのか、一瞬攻撃の手が止まり淀みが出来た。



「嘘・・・なんで?」


その一瞬、誰よりもその変化に気付いたリフレシアは彼女の姿を目で捉えた。



「死ね!!」



彼女の放つ火炎の玉は見事にイコライに当たるが、平然とした表情だった。しかし平然は装っていてもその顔は驚きを隠せないまま。



「・・・こんなもので倒せると思ってる?」



冷たい表情の彼女はそう言った。間違い無く受けたであろうリフレシアの強力な一撃、無傷のイコライ。



誰もが絶望しそうなこの状況、しかし私には勝機への活路が見えた瞬間だった。




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