第132話 ローズの提案✿カイトの耳打ち、興奮の『勇者』
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「あ……あの、『勇者』ニューのことなんですが、私に考えがあるのですが。」
笑い転げている娼婦達を制すように、
突然、ローズヒップが意を決したかの如く口を開く。
「ん? 珍しいねローズが私達の話に入ってくるなんて。」
普段は密偵である立場を崩さず、重要な場での発言を極力しない『三つ葉』のひとりであるローズヒップが、話に割って入ってくることにルイゼは驚く。
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「あ、いえ……。ギルド職員の立場での提案がしたいのですが、いいですか?」
「ほぅ……いいだろう。そもそも、本来なら私達が話に入るのはお門違いでもあるしねぇ……。」
「ありがとうございます。大した提案ではないのですが……、ニュー君はエヴァちゃん達と仲良くしたいんだよね?」
「うん? 僕はエヴァ達と遊びたいしー、膝枕で寝たいしー、そんな感じ?」
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「ならさ、チーム立ち上げて『同盟』組んでみたらどうかな? 妖精ちゃんを通じて、何時でも連絡が出来るよ!?」
ローズヒップが、ニューの顔を見てニヤリとする。
「えぇええー? でも僕は他人に関心がないからチームとか面倒だし、そもそもエヴァ達以外に友達いないよ?」
あからさまに嫌そうな顔でローズを見るニュー。
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「ひとりね、君と同じように「面倒が嫌」でソロの子がいるのよ。お互いのルールだけ決めてさ! 後は自由に好きにやる。迷惑だけは掛けない。君も足引っ張られるの嫌でしょう?」
「ん!? 要は今と変わらないけど、エヴァ達と何時でも連絡が付くってこと?」
嫌そうであり、無機質で無関心なニューの顔が、子供のように一気に関心に満ちた顔に代わる。
「いえーす、これくと!」
パチンッ――! とローズヒップは、片目を瞑って指を鳴らし、弾いた指でニューに指を差す。
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「ほう、『同盟』か……考えたね。それなら……そういうことかい?」
ルイゼが、ローズヒップに鋭い眼光を送る。
「はい、そういうことで大丈夫です。それだけの逸材かと。」
ローズヒップはその眼光を受け止めるように、自信に満ちた顔を返す。
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「あー、そういうことならよー。ふたりばかし、参加させたい奴がいてよぉー。」
横隔膜の痛みから解放されたカイトが、片目から涙を垂らしながら話に入ってくる。
「ふたりも……ですか!?」
「ん、あぁ、ふたり組なんだが、こいつらも自由にさせた方が面白い奴らでな。」
「しかし、先程のリンデン君の話だと、『勇者』の協調性を考えるとまり人数が増えると、チームが破綻しちゃいますよ?」
ローズヒップが心配をして言葉を返すと、カイトがニヤニヤしながら、すたすたとニューの真横まで歩み寄り、
「なぁ『勇者』ニュー。」
と、ニューの首を腕で柔らかな胸に抱き寄せ、耳元で囁く。
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《俺が紹介したいのは情報屋なんだ……。そいつら使ってよー、エヴァ達の力になってやれば、エヴァが、『特別膝枕』をしてくれるかもしれねぇぜ? お前のためにそいつら入てちゃって得しちゃえよ♪ それに、ごにょごにょ……な?》
「お、おおー? おおぉ?!!! ……うは~すっごお! え、マジ? 」
「おう、マジマジ!! やっべーだろ?」
「やっべー!!!」
カイトとニューが、ごにょごにょごにょごにょ……。
話が、どんどんと弾んでいっている。
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「ねぇ、ギルドのおばさん。『僕チーム作る』! 後は任せた。よろしく!」
「あ”? おば……!? はぁ? 泣かすぞ? クソガキ勇者!」
ニューの悪気ない ”おばさん” の言葉にローズヒップの額にしわが寄る。
「ぶはぁ! まぁ、キレんなよローズ! 勇者のガキは、お前にチームは任せるって言ってるんだぜ!? よし、これで決まりな……はぁぅ……気持ち…ぃ。」
カイトは、自分の策略が思うように見事にハマったのがよっぽど気持ちよかったのか、ニューの顔を更に自分の胸に擦り付けて、妖艶な顔で小さく喘ぐ―――。
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「何感じてるんですか! はぁ、一体……何を吹き込んだことやら……。」
「なぁ~に、さっきの『母さんとお前の言葉のやり取り』の続きみたいなもんだ。」
そのカイトの返しに、”ハッ” と、彼女はその意味を理解する。
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恐らくは、自分の考えと同じで、『こちら側』で信頼がおけるものを『勇者』の傍に置かせる策。そして、自分がニューに組まそうと考えている者と同じように、『勇者を放任し続けながら、彼を見守れる』者をチームに入れようとしているのだろう。
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そして、その者を入れるメリットがニューにはあって、こちらの意図を読み算段を立てることができない彼にとって、『単純』に彼にとってメリットとしかないことを……巧みに言葉を選って耳打ちしたのだなと、ローズヒップは悟る。
『気分屋』のふたつ名の通り、稀にしか見せないカイトのそれは、毎度、得てして「こちら側」の利になっていることを知っていて、きっと今回もそうなんだろうなと、彼女は舌を巻くしかなかった。
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「ふむ、何となく事情は察した。だが、さっきも言ったようにギルドとしては、細心の注意を図りながらバックアップをしたい。ローズに……それからサーシャ。」
「「はい。」」
「お前達で、一度その面子とニューとの場を作れ。ここからは『ギルド』の領分とさせて貰う。その上で最善のアドバイスを、勇者だけでなく彼ら全員にするんだ。いいな?」
ギルド長のその言葉に、ふたりの職員は大きく頷く。
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ギルド長は、続けてルイゼとアリアの方に目をやると、ふたりは「私達の仕事じゃない」という目で、無言でそれに同意する。
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ニューの処遇が、本人のやる気もあって思ったよりも早く終わったこともあり、これにて、チーム『大空』と『勇者』ニューの報告会は幕を閉じる。
リンデンとしては、色々と整理しきれなかった面もあったが、今回知ったこと以外はエヴァが自分で見つけると宣言してしまった以上、この場でルイゼ達に聞くことも出来ず、今日の夜にでも寝ながら考えるか―――と、昨晩のスパティの話に続き眠れない夜を覚悟する。
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彼にとっては、懸念していたこと以上に『見えてきたこと』が沢山あった一日で、任命された「二代目ノート係」としても、まとめることが盛り沢山な内容なのだから―――。
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しかし、当然のことながら、本当にこれから大変なのは『迷宮』ギルドの「こちら側」の面々なのだろう……。そんな思いでミーティング室から外に出たリンデン。
何時も以上に騒がしいギルドホールを、彼がふと見ると、
「よ~し! 金はたんまり貰ったな!? 飲みに行くぞおお~俺に奢れ~!」
『ふざけるなー! お前が奢れれ~! うははは!』
と、ホールで一致団結して叫んでいる今日の砂漠の英雄達―――。
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AからCのチームを組んだ新米D級迷宮探索家達と、ラウスにトルド……そして、ちゃっかり面倒ごとから逃げるように「おー」とこぶしを突き上げている『三つ葉』のライティア……。
「あはは、お疲れ様です……。」
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肩を叩いて執務室に戻っていくギルド長と、ホールでの叫び声に肩をすくめるサーシャ達の背中に、ひっそりと、リンデンは頭を下げる―――。
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え? おい、恰幅! 章の最後なのに、エヴァ達で締めないのか!?
ですって?
皆さんなら、ほら……今し方。
僕が行かないっていったら「あっ、そう」と素っ気ない顔をして、楽しそうにニューさんを連れ出し、最近できた「小粋なカフェ?」へ、一目散に飛んでいきましたよ!?
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早速、エヴァさんが、
「ニューが貢いで、私の奢り!!!」と、ドヤ顔ではしゃぎながら…………。
あははは……はぁ。
―☘第10章:Fin ✿
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✿ 読者の皆様
これにて ✿ 10章:見えてきたこと ✿ はおしまいです♪
長い長い昇格試験編も、この章の顛末にて、ひと段落となります。
次の章では、ルイゼ達の企みが、フリージアが「あ”?」と思い出しそうになったアイツと共に判明? そして、新たな階層と今回覚えた『花』魔法―――エヴァの幸運がまた……。
お楽しみにです♪




