第105話 健気で無邪気な『笑い声』
「二度目の爆発?」
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賊の手練れを拘束し、『華の蝶』御用達の媚薬を使い自白をさせていたフィオレが、たった今聞き出した「情報にない」大きな爆破に驚く。
そもそも、「ひとつめ」の爆破自体が計画にない。
それが、今回で二度目である。
「どうやら、こいつらの計画にないことが起きているのかしらね。」
合流していたアリア直属『アリアウルフの糸』のひとりで幹部ぺスカの顔を見る。
「わからないの。でも、追い込んでいたモンスター達が今の爆破で一斉に爆破の反対側に逃げ出したの……。」
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「それって……面倒よね?」
「そうなの、ギルドのコテージの方向なの。」
「ぺスカ、『風耳』のじいさんに、このことを伝えてちょうだい。」
「わかったの。私達は表立って助けれないの。」
「そういうこと。」
(計画にない事態……。はぁ、エヴァちゃんがまた『やらかして』なければいいけど。しかし、★『勇者』かぁ。)
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実のところ、担当がセビオで、上役を巻き込みギルド長にですら、その ★ を隠匿していたこの事実。
(この一件、『ビー・ディー』本体が、出しゃばって来そうね。)
フィオレは、賊の手練れを『影縛りの牢獄』で拘束し砂山の影に沈める。
「出来るだけ間引くよ!」
ぺスカにそう言うと、フィオレは影の中に紛れる。
「わたしも行くの。お前達、『ご飯』の時間は終わりなの。行くよ!」
一心不乱に『食べている』彼女の眷属を一喝して、口元に鮮血を垂らす銀色の狼に乗り、彼女も砂塵の中へと颯爽と走り込んでいく。
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『ぴゅううううー。』
ぺスカがマーガリス家の執事マーカスに放った鷹が、5分足らずで彼に情報を届ける。
(ふむ、『アリアウルフの糸』が危険を冒して、ここに情報を送るということは、緊急事態が拍車を掛けましたかな?)
足に携えた手紙をサラリと読み、指を鳴らすと現れた炎でそれを焼く。
「ここ……を守れと言われましても。わたくしの最優先はマーガレットお嬢様なのですがね? 任せて大丈夫でございますよね? 『影縫い』のお嬢。」
マーカスは、御者のウノに耳打ちをし、当面の指示を出すと、
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「面倒なのは、この場合ギルドの残りの面々と……か弱いE級の諸君で、ございましょうなぁ~。やれやれ。」
マーカスは、肩と腰をとんとんとんーと、叩きながら、ギルドのコテージに落ち着いて、でも迅速に入っていく。
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「いたたたた……。」
「暗いですわねぇ。」
「どこよ、ここ?」
砂の中に飲まれ、真っ暗な空間できょろきょろするエヴァ達3人娘。
『もも!』『カナリア!』『スノウ!』
3人は、地割れに落ちるときに咄嗟に仕舞った3人の導きの妖精を呼ぶ。
『えばー だいじぶ?』
エヴァの『もも』が、お尻を打った彼女を心配そうに見る。
「ありがとー『もも』。大丈夫だよ! でも、暗いの明るくできる?」
マーガレットとフリージアも同じお願いを導きの妖精達にする。
『できるよー ぴかぴかあ』
光が増す3人の導きの妖精が照らすのは、横穴が幾重にも連なる洞窟。
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広さは4mくらいだろうか、砂が強固に固まった壁が立ち上がり、高さ5m程度の所で不規則な天井を形成しているが、この広さなら剣を振るうには問題はなさそうだ。
一方、マーガレットの弓は制約を受けそうである。
「クインテットアロー」のような、円弧を描き広い範囲に射的するスキルは、恐らく使えない。
「みなさん。わたくし、ここでは直線の弓しか放てません。ご留意を。」
「ん、あっそっかー。了解だよー! 報告大事。リンデンメモ!」
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ビシッと、エヴァが指を刺す場所に……リンデンが居ない!!
「エヴァの指危険……恰幅が消えた。」
フリージアが、ジト目でエヴァを見る。
「ふぇええ! わたし「犯人は~」って言ってないもん!」
口を尖がらせるエヴァなのであったが……。
「でも、本当に居ないねぇ?」 『ねえー。』
と、『もも』と一緒に首を傾げる。
『ごぼごぼごぼ……』
すると、その会話に反応したかのように、上の方から何やら「ごぼごぼ」と声のようなものが聞こえってくる。
「ふぇ? 何か上から?」
『ふええええ』
エヴァが見上げ、『もも』が上に飛び上がり天井を詳細に照らす。
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「うわ、あれ! 天井に『ずんぐりむっくり』な足が!」
「本当ですわ! この洞窟の『モンスター』でしょうか!」
「『こわぁー』。気を抜いちゃだめだよ!」
各々酷いことを言いながら、武器を構える3人娘であったが、導きの妖精達がその足に近づくと、褐色の導きの妖精『カスミ』が、無表情に顔を出す。
「あ、あれー? リンデンの『カスミ』だー。」
そう、エヴァが叫ぶと、マーガレットとフリージアも目をごしごししながら、”ずんぐりむっくり” な足を見る。
「はぁ、うざい。」
あの足がリンデンだと分かると、
フリージアはオデコに手を当て大きく首を振る。
「あらあら、体格が仇となり挟まったのでしょうか。」
マーガレットはそう言うと弓を構え、
ノータイムで彼の周りの砂の天井目掛けて、乱れ撃つ。
『わ、わ、わあああああああああ。』
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落ちてくるリンデン。
それを、受け止めてあげようと努力する3人娘。
そして、彼を受け止めようとするその瞬間―――!!!
「「「ん~~~~、無理?」」」
『『『むりー』』』
一斉に差し出した手を仕舞う3人娘と3人の妖精。
「ひどいですよおおおお~~(どかん)」
衝撃と同時に、地面に恰幅のよい人型の穴が掘られる。
「どんまい。恰幅、てへ。(棒読み)」
フリージアが感情もなく謝ったそのとき。
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「ぷっ、ぶはははは~。何……何それ! 演芸? 漫談? ピエロでサーカス?」
分岐した横穴の影から、
大笑いをする、『健気で無邪気な男の子』の笑い声が聞こえて来たのであった。




