第23話 城の浄化作戦
「おまえ、黒い霧がどこから来たのか知っているか?」
ラムシュンドは、回復した門番らしき物に聞いた。
「ああ・・・俺は見ての通りあの門を担当する警備のものだ。だから内部で何が起きていたのかはよく知らない。だが、城から逃げてきたものから聞いた話では、城の最上階あたりから出てきたらしい」
(どうして、こいつは逃げないのだか・・・)
職務に忠実なのか、阿保なのか・・・この門番を憎めないラムシュンドであった。
「城の最上階って何があるのニャ」
カートが門番に言った。
「それは・・・陛下のお住まいだ」
門番はちょっと言いにくそうだった。恐らく、城の内部については話すことを禁じられていたのだろう。だが、城の中が瘴気で満たされた今、それどころではない。
おっかなびっくり、こちらを見ている護衛騎士をカートは手招きすると、
「こいつを頼むのニャ」
そう言って門番を引き渡す。
「あの・・・どうしてお二人は大丈夫なのですか?」
護衛騎士は瘴気にあたっても全く問題なさそうなラムシュンドとカートが奇異に見えたらしい・・・。
「その説明は、後でな」
ラムシュンドはそう言うと、カートに合図して城の中にないって行く。
「なんで平気なんだ・・・」
護衛騎士と門番は唖然としながら、同時に呟いた。
・・・
「城ってわかりにくいニャ」
途中、硬直して動かなくなった人を発見したが、瘴気の中なので、プリフィケーションで回復させても、一時的にしか効果がない・・・という判断で、そのまま、発生源らしい、最上階を目指した。迷うこと1時間・・・。ようやく、発生源と思われる最上階の部屋にたどり着いた。幸い、まだ発生してから時間が少なかったこともあり、ゴブリンと数匹遭遇したのみであった。
「ここみたいだな」
「そうだニャ」
黒い霧が漏れ出てくるのが見えることから、そう判断した2人は、扉を開ける。
すると、何かが光った。
咄嗟に避ける2人。アイテムボックスに収納していたウォレスの剣を取り出したラムシュンドは、魔物の気配がした方に斬撃を飛ばす。
「ギャー!」
何かが倒れたようだが、よく見えない。
「プリフィケーション」
ラムシュンドは、黒い霧に向かって魔法を放った・・・。部屋の中にあった黒い霧は綺麗になくなっていた。そして、その中央には、オーガと思われる死体があったのである。
「ラムシュンド!あれが犯人ニャ!」
カートが指さした先には、怪しげな箱があった。そして箱からは、今も黒い霧・・・瘴気が発生していた。
(瘴気発生装置?)
何か嫌な予感がしたラムシェンドは、瘴気を発生させている箱を思いっきり窓に向かって蹴った。結果、箱は窓を突き破り外に飛んで行く。
「ウインドアロー」
飛んで行く箱に向かってラムシュンドは風の矢を放った。そして風の矢が箱に衝突したとき、激しい閃光と共に爆発したのである。
(部屋の中でしなくて良かった・・・)
・・・
その後、プリフィケーションを使いながら黒い霧を浄化していき、倒れている人を回復させていった。
「全員私がプリフィケーションを掛けていると、何時まで経っても終わらない・・・」
そういうことで、城に倒れていた人のうち重要そうな何人か回復させて事情を聴く。
そして、あの箱の隣の部屋で倒れていた豪華な服を着た男と、その隣にいた女・・・30代くらいだろうか・・・。この2人を回復させたのだが・・・。
「おお、神様・・・」
2人は手を合わせて、ラムシュンドを拝み続けている。まるで何かにとりつかれたように・・・。ついさっきまで瘴気に取りつかれていたのだけれども・・・。
「事情は説明してください」
ラムシュンドが厳しく言い放つ。その声に拝んでいた2人は我に返ったらしい。
「私はラムシュンド。こっちはカート。この世界の神様に瘴気をどうにかするように言われてやって来たものです」
ラムシュンドの言葉を聞いて、2人は突然泣き出した。
「わ・・・私はこの国・・・フヤ王国の国王をしている アントン=ヴァーツラフです」
「私は、王妃のミレア=ヴァーツラフです」
この国の国王と王妃であるらしかった。
「隣の部屋にあった箱について・・・」
ラムシュンドの言葉が終わらないうちに、
「神様、申し訳ございません。北の国からからの極秘の使者と申すのが昨日来まして、あの箱を置いていったのです。」
(これは、根が深そうだな・・・)
・・・
「・・・ということなのです」
国王と王妃を何とか落ち着かせ、瘴気発生装置と思われる箱について聞いた結果、
・昨夜、城に忍び込んで来たものがあの箱を持ってきた
・その男の説明によると、あの箱は、瘴気から人々を救うためのものだという
・忍び込んで来た男の説明を聞き終わった後、意識を失った
・しばらくすると、ベッドに寝ていたのに気が付いた。ふと周りを見ると、ベッドの周りが黒い霧が覆われていたので、慌てて脱出しようとした
ということらしい。警備の厳しい国王の私室に忍び込んでくる男というのはかなりの凄腕だろ思われるが、人相などよく覚えていないらしい。
「スパイか何かが、やってきて、国王と王妃を何等かの方法で気絶させ、瘴気発生装置を稼働させた・・・ということかニャ」
カートが口髭を触りながら言った。
(猫じゃないんだから・・・あっ、カートは猫だった)
その後、数日かけて、城の中をプリフィケーションで浄化し、硬直していた人を回復させていったのである。
・・・
「あの・・・」
瘴気発生装置による被害も一段落したとき、ラムシェンドは国王に頼んで、転移門になっている座像のある建物を立ち入り禁止にしてもらった。もちろん、理由は・・・
「再び、この国に来なければならなくなったときに使いますので、しっかり警備してください。そして、だれもあの部屋に入れてはいけません」
ラムシェンドが語気を強めると、国王は大人しくなった。
(あの座像が転移門だと解ったら大変なことになってしまう・・・)
実際に、この国(フヤ王国)の人が、あの転移門を使おうとしても、動作しないのだが・・・。そんなことは知らないラムシュンドとカートであった。
「では、さらばだ。」
そう言って座像のある部屋に入るラムシュンドとカート。フヤ王国の人はこの部屋には入れない。入ってこなかったのを確認してから、転移門でダンジョン地下5階に戻ると、瘴気封印装置の前のモニタがカートの目に入った。
「あっ!」
あと2国あった・・・ニャ。
瘴気封印装置のモニタは、フヤ王国の瘴気が消えている(濃度が下がっている)ことを示していたが、両隣の2国・・・ラダフントゥス王国とレンボ連合王国の王都は瘴気の濃度が極地的に上がったままであった。
3か国あったことをすっかり忘れていた2人。