逃げられない指輪と終わらない甘い追走劇
学院祭の騒動から数日後。
すっかり秋深まったカルステイン公爵家の本邸。その広い庭園を見渡せるテラス席で、私は優雅に紅茶を楽しんでいた。
「ふう……本当に平穏な日常って素晴らしいわね」
クロエ様とミハエル様の一件は、アレクセイ様の手によって完璧かつ迅速に処罰が下された。
ゴードン子爵家は完全に没落し、クロエ様も学園を自主退学。
一方、不器用な騎士候補生ルーク様とマリア様は、あの騒動を経てすっかり「お互いを名前で呼び合う良い雰囲気」に発展している。
(私の破滅フラグ回避作戦、これにて完璧にコンプリートだわ!)
「何をそんなに楽しそうに微笑んでいるんだい、エルザ?」
ふいに後ろから伸ばされたしなやかな腕が、私の腰を隙間なく抱きすくめた。
背中に伝わる確かな体温と、心地よい高級な香水の香り。
「アレクセイ様。……執務はおわりになられましたの?」
「君が恋しくて、半分の時間で終わらせてきたよ。……ご褒美をくれないかい?」
そう言って、アレクセイは私の首筋にすりすりと頬を寄せてくる。
かつて学園で「氷の公爵」と恐れられていた男の面影は、もはやどこにもない。
完全になつききった、重すぎる愛を抱く大型犬だ。
「もう、甘えん坊なのですから。……はい、あーんしてくださいな」
焼き菓子を口元へ運んであげると、アレクセイは素直にそれを食み、満足そうに瞳を細めた。
「美味いよ、エルザ。……だが、僕が本当に欲しいのは、君だ」
「っ……!?」
アレクセイは私の左手をそっと取り上げると、その薬指に、冷ややかな感触の指輪を優しく滑り込ませた。
深い深海のような、美しい紫色の宝石が嵌め込まれた特注のリング。
「これは……?」
「カルステイン家に代々伝わる、当主の『伴侶』だけに贈られる魔導指輪だ。……これで君が世界のどこへ逃げようと、僕には一瞬で君の居場所がわかる」
「えっ、ちょっと待ってください!? それって魔道具を使ったGPS……いえ、位置特定機能がついているということですの!?」
「逃がすわけがないだろう? 君は僕の手の上で転がしているつもりかもしれないが……本当は、僕の檻の中で愛されているんだよ」
アレクセイは私の指先に愛おしそうに何度も kiss を落とすと、妖しく、けれどとびきり甘い笑みを浮かべた。
(〜〜〜っ! この男、やっぱり一枚も二枚も上だったわーーー!!)
結局、操っていたつもりが、完全に愛という名の網で捕らえられていたのは私の方だったらしい。
「観念しなさい、僕の愛しい悪役令嬢。死がふたりを分かつまで……いいや、死んでも君を離さない」
「……ふふ、お望み通り、一生お側で手厚く『飼い慣らして』差し上げますわ、アレクセイ様!」
私は負けじと小悪魔な微笑みを返し、彼の首に腕を回した。
ヤンデレ公爵の深すぎる執着と、それに決して屈しない元・悪役令嬢。
二人の甘く危険で、最高に騒がしい恋の追走劇は――これからも永遠に続いていくのだった。
(おわり)
ありがとうございました!




