九十二話 告美の胸中
そんなこんなで、大好きな二人と共に過ごしてしばらく。大きなイベントを終えたと言えば文化祭であった。
うちの母さんと唯那さんが俺たちと一緒に顔を合わせたり、三人で一緒に回って楽しんだりした。もう少しで期末テストである。
あれから、俺たちの雰囲気に周囲が呆れつつも、随分と慣れてきたみたいでチラチラと見られることもめっきりなくなった。
甘いだの熱いだのと言われることはあるが、それだって別に悪いことじゃない。それだけ仲良しだと周囲から認められたと思えば、むしろ良いことだ。
ただ、ひとつだけ気になることがあった。それは、告美のことである。
最近の彼女は、どうにも元気がなさそうに見えるのである。本人にどうしたのかと尋ねてみても、返ってくるのは大丈夫という、明らかな強がりのみ。
どう見ても大丈夫じゃないから聞いているのだが、そんなに話せないことなのだろうか?友人としては、元気になって欲しいものである。
麗凪や貝崎にも聞いてみても答えはなく、疑問は尽きない。
いや、目を逸らすのはもうやめるべきか。理由が全く分からないわけじゃない。確証はなものの、告美の元気がなくなったタイミングを考えると、明らかに答えは決まっていた。
俺が、繭奈と冬夏と付き合っていることを知ったとき、どこかショックを受けたような反応をした記憶がある。
告美から声をかけてくれたとき、祭りの時や海へ遊びに行ったとき。彼女から向けられた情は、おそらく好意なのだろう。
そうじゃなきゃ手を繋いだりボディタッチがあそこまで多いわけないし、俺と繭奈たちとの交際に動揺するはずもない。
今まで知らないフリをしていたが、いい加減腹を括って向き合うときが来たのかもしれない。考えすぎならそれで良しだ。
だけど、現実はそうではなかった。
ある日の放課後、繭奈たちに断って告美と話すことに決めた。場所はいつだったか麗凪と話したあの公園。
場所に着くと、ベンチに腰かけている告美を発見した。彼女はやってきた俺を見て、どことなく寂しそうな表情をする。
そんな彼女にお待たせと言って、その隣に腰を下ろす。
「……麗凪から聞いたよ、話があるんだって」
「あぁ。告美がさっさと逃げちまうから、麗凪にお願いしたよ。最近は随分とぎこちないし、なにかあったのか?」
告美本来の明るさは鳴りを潜め、いつもよりトーンをグッと落とした声と下がった眉尻で声をかけてくる。
そんな彼女にやりずらさを感じながらも、まずはそれとなく話を投げかける。なにがあったかなんておおよその検討はついているが、それでも彼女からの言葉が聞きたかった。
「べつに、なにもないよ?ただ少しだけ気まずいの。仲の良い人に恋人ができちゃって、どんな風に関わろうかってね」
どこか煙に巻くように、告美が伏し目がちに答える。前に比べて目を合わせることも減り、チラチラとした感じ。
「そう?それにしては避けられてる感じがするから、他にもあるかと思ったよ」
「他にもって?」
「俺に気があるんじゃないかって」
ついに、俺の思っていたことを口にした。違うなら違うで笑ってくれた方が良いが、告美は悲しそうな表情でこちらを見た。
俺の勘違いというルートは、これで完全になくなった。
「さすがに、分かっちゃうよね。あれだけアピールしてたんだし」
「気付かないようにはしてたんだけどな。勘違いかもしれないって決めつけてた」
「白雪さんと笹山さんがいるもんね。やっぱり私は脈ナシだったんだ」
告美の自嘲的な言葉に、俺はただ返事しかできなかった。胸中に渦巻く罪悪感が胸を締め付ける。
「分かってるよ、私が悪いのは。あのとき龍彦くんを信じられなかったのは、どう考えてもおかしいもん」
「そう、だな。やっぱりショックだったよ、あの時は」
もはや言及するまでもない、告美と麗凪から嫌悪の眼差しを向けられたあの時のこと。受けたショックは落胆に変わり、それから彼女たちをそういう目で見ることができなくなった。
「あの時は?じゃあ今はそうじゃないの?」
「ショックはとっくに薄れたよ。ただ、二人のことをそういう目で見れなくなっただけ」
「そういうことね、要は友達としてしか見れないんだ」
「そうだよ」
告美の言葉に、頷いて返す。 異性としての情は向けられず、それなのに俺は誤解させるような立ち振舞いをしていたと。
それは、とても酷いことだったのかもしれない。彼女からすれば、突き放された方がずっと楽だったろう。
「……ばかみたいじゃん。私が自分でチャンス潰してんのに、それを忘れて勝手に期待して、でも諦めきれないなんて……」
「ごめん、俺がもっとちゃんと突き放せばよかった」
「……そうだよ、そうすれば私だって諦めついたよ」
告美の声はとても震えていた。俯いているからその表情は窺えないが、とても悲しいものであろうことは察するに余りある。
それほどまでに、彼女が纏う雰囲気は悲哀に満ちていた。




